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1章

村長とお話

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「ようこそいらっしゃいました。本日はどのようなご用件で?」


 村長さんが向かいのソファに座る。

 もう立っているのもギリギリといった様子で、崩れ落ちるように腰を落とした。

 そんなにふらふらなら、杖でも突けば良いのにね。


「我らはベスタに向かっている。この村にはその途中で立ち寄った。一夜の宿を借りたい」


 会話はクリスに任せておこう。

 さっきは思わず女の子と話しちゃったけど、どこでボロが出るか分かんないからね。

 もしかしたらもう出ちゃってるかもしれない。

 ともかく私が話せば、貴族の令嬢じゃないことがばれてしまいそうだし、クリスなら任せても安心だ。


「なんと、ベスタに……」


 村長は驚いたような顔をして、渋面を作った。

 何かベスタに気がかりなことでもあるのだろうか。

 ベスタっていうのはこの先にある町のことらしい。方角が一緒なので、私とクリスはそこに向かっているという体裁を取っている。

 なのでまあ、ベスタに気がかりなことがあるのだとしても、私たちには何も関係がないのだけれど。


「ご存じか分かりませんが」


 そう前置きをして、村長は事の次第を話した。

 何でも、ベスタに向かう街道に、モンスターが現れるというのだ。

 もともとベスタとの往来が活発なわけでもなくて、街道が使えなくても村としてはそれほど困らないそうなのだけれど、通りが掛かる人が襲われて被害が出ているそうだ。

 街道は領主の管轄なので、この辺を領地にする貴族が冒険者ギルドを通して討伐依頼を出したそうだが、それなりのベテランパーティが返り討ちに遭ったんだとか。

 怖い話だね。

 やっぱ前世と違って危険な世界なんだ、ここ。

 こっちに来てから城で安穏と暮らしていた私には、いまいち危機感がないのだけれど。


 まあ、冒険者の襲撃が二回あって、人を殺しているところも見たのだけれど、遠かったし、実感としてはいまいちだ。

 とりあえず、一晩の宿は確保出来た。

 村長の家の一室に、そのまま泊めてくれるそうだ。

 八畳くらいの部屋に、寝台が二つ置いてある部屋だ。

 部屋数が少ないので、クリスとは同室ということになる。
 クリスは眠ることはないのだけれど。

 男の人と同室とか、女の子としては身の危険を感じなければならないところだろうか。

 アンデッドって性欲とかあるの?
 ないんだ?
 死人が子供作ってたら怖いもんね。

 スケルトンからちっちゃいスケルトンが生まれたりしてさ。

 異世界は不思議だから、ないとも言い切れないのかもしれないけど。

 ないものはない?

 さすがに異世界でも骸骨が子供を産むことはないらしい。

 スケルトンの親子とか、ちょっとコミカルで楽しいよね。

 家族一緒に殺されてスケルトンになったとかいう背景があったら笑えないけどね。

 スケルトンになってから生まれたっていうなら、くすりとしても良いだろう。


 それにしても、狭い部屋だね。

 この部屋を狭いと感じるとか、私の感覚も大分いかれたんじゃないかな。
 前世では六畳間に住んでたのにね。

 私、実家暮らしだったから。
 自分の部屋は六畳間だったのだ。

 それに比べればこの部屋も広いんだけどね。

 まあ、二つの寝台が部屋を圧迫してるってのもあるけど。

 お風呂はどうしようか?

 この家にはお風呂がないんだよね。
 村長が言ってた。
 お風呂って贅沢品みたいだね。

 魔法使いも少ないから、魔法でお湯を出して湯船を張るっていうのも普通は出来ないみたいだ。

 城にあるような、お湯を出す魔道具も普及していないのだろう。

 今日は仕方ないから、布で身体を拭うだけかな?

 うん?
 庭を借りた?
 庭で何するの?

 お風呂?
 魔法で作るの?

 魔法で浴槽と浴室を作って、魔法でお湯を溜める?

 そんなこと出来るの?
 ダンジョンでやった?

 ああ、うん、そういえば泊まり掛けでダンジョンに潜った時にやったっけ?

 あれ?
 それじゃあ部屋もどこにでも作れるんじゃないの?

 あの時も部屋を作ってもらってそこで寝たよね?

 この村、寄る必要なかったんじゃない?

 飼葉が足りなくなる?
 物資の補給だったのね。

 確かに、馬って思ったよりいっぱい食べるよね。

 でも、そこら辺の草も食べてなかった?
 これから向かう場所では草が生えてない?

 そんな場所あるの?

 まあともかく、明日も早いんだろうし、今日はさっさとお風呂入って寝よう。

 明日には目的地に着くんだよね?


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