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1章

りぼーん

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「どうするの? やられちゃったよ?」

「ふむ」


 焦る私とは裏腹に、クリスは落ち着いていた。

 ただの痩せ我慢なのか、本当に余裕があるのかは分からない。

 ただ、視界の先で、骨の巨人を倒した冒険者たちがハイタッチしているのを見ると、ぐぬぬぬってなる。

 そして、彼らは再び城の結界に向かって攻撃しようとしていた。


 その瞬間、コツン、という音が聞こえてビクリとする。

 その音はクリスが杖で地面を叩いた音だったようだ。

 ピコピコと、クリスの杖の先端が光る。

 そして…………。


 ゴゴゴゴゴゴ!


 再び現れる骨の巨人。

 結構あっさりやられてしまっていたので、それだけじゃ冒険者たちを倒せないだろうことは私にも分かった。

 けれどその瞬間、私は「へ?」と間の抜けた声を漏らしていた。

 何故なら、現れた骨の巨人は十体もいたから。

 骨の巨人を死霊魔法で作り出すのに、クリスはMPを20消費する。

 ここで問題なのだけれど、クリスのMPはいくつか。

 驚くことに、5972もある。

 骨の巨人を三百体近く作り出せるMPだ。

 ただ、作れるMPがあるからといって、実際に作り出せるかといったら別の話だ。

 スケルトンはたくさんいるので、幸いにも、材料に困ることはなさそうだけれど。


 死霊魔法は、死者を操る魔法だ。

 テイムと違って操らなければならないので、数が増えるほどに難しくなる。

 特に強かったり、大きかったりするほど難しいそうなので、骨の巨人は一体しか出せないものなのだと思い込んでいた。

 十体も出せたの?
 もっと出せるの?
 あの程度なら十体で十分?

 え? あの程度、って言えるくらいの戦力なの、あれ?

 結構余裕があったの?
 私が怖がってたのはなんだったの?

 敵の戦力を見極めてた?
 最初の骨の巨人は威力偵察みたいなものだったの?

 最初からやられること前提で、どのくらい強いか見極めてたんだね。

 で、十体もいれば十分だと。

 でも、もっと出せるんでしょ?
 出さないの?

 こういう場合、舐めプしてると奥の手だとか、覚醒だとかされて窮地に陥るのがテンプレじゃない?

 奥の手を使ってくれるなら十分?

 え?
 これでもまだ様子見なの?

 私、クリスのこと舐めてたかもしれない。

 骨の巨人十体とか、普通だったら奥の手だよね?
 これで小手調べとか、エグ過ぎない?

 墓地の方を見ると、骨の巨人が冒険者たちに突っ込んで行く。

 さっきと同じように盾を持った人が防ぐが、今度は一体じゃない。

 二体目の巨人を盾を持った他の人が防ぎ、三体目の巨人も他の人が防ぐ。

 四体目までは盾役がいたようで、どうにか受け止めたけれど、五体目を受ける盾役はおらず、盾役を二人ぐらいまとめて吹き飛ばした。

 そこに六体目の巨人が流れ込み、後ろで魔法を放っていた人たちを骨の剣でぶっ飛ばす。

 一人、ナイフを持っていた小柄な男性が巨人の骨を駆け上り、頚椎の辺りを切り裂く。

 よほど切れ味が凄かったのか、巨人が見た目よりも脆いのか、六体目の巨人は頭部が外れ、転がった。

 しかし、転がった頭部はバラバラと砕け、集まり、五体の犬の姿に変わった。


 骨の犬が周囲にいる冒険者たちに噛み付く。

 後ろが混乱しているから回復も間に合わず、盾を持っていた四人はメタメタにやられていた。

 魔法を全力で打ち込んだようで、二体の巨人が倒されていたが、盾役のいなくなった冒険者たちは残りの七体+犬五体に襲われて一方的に殺されていく。

 なんか、呆気なくない?
 奥の手も覚醒もないの?

 普通はない?
 いや、うん、私も持ってないけどね。

 クリス倒されたら、奥の手出せって言われても成す術なくやられるだけだと思うけどさ。


 冒険者が三十人。

 明らかに人外の動きしてて強そうだったし、こんな簡単にやられるとは思わないでしょ?

 最初に骨の巨人倒された時は焦ったけど、結果だけ見れば余裕だったね。

 あ、最後の一人が殺された。

 双眼鏡越しとはいえ、人が殺されるのを生で見たのは初めてだよ。

 けどあんまりショック受けてないんだよな。

 亡者を殺してるので見慣れちゃったからだろうか?

 あれはアンデッドモンスターだけど、見た目は人間だからね。

 亡者にしろ冒険者にしろ、私にとっては人型の敵でしかないわけで、殺されるのを見たところで今さらってことなんだろうか。

 なんか人間やめちゃった感じがするな。

 でも、まあ、仕方ない。

 平穏に暮らしている私の生活を脅かす方が悪いのだ。

 自業自得だと思って諦めてもらおう。


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