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1章

ピアノ

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 この世界に来て三か月が経った。


 日付は十二月四日。

 この土地は気温の変化が緩く、夏でも涼しく、冬でも暖かい場所らしいけれど、さすがに少し冷え込んできた気がする。

 私はスケルトンに頼んで作ってもらった半纏を着こみ、部屋で一人楽器を弾いていた。

 最近の私の趣味だ。

 どのくらい弾けるかと言えば、チューリップをゆっくり弾くくらい。
 まあ、ほぼ弾けない。

 弾いている楽器はピアノだ。

 ピアノが欲しいって頼んだら、クリスとスケルトンたちが結構な労力を掛けて作ってくれた。グランドピアノだ。

 大きいので、かなり大がかりな作業をしているのを見て、思いつきで適当なものを欲しいとか言うもんじゃないな、と思った。

 ピアノが弾けるならともかく、私のピアノ経験なんて、音楽の授業で触ったことがある程度だったし。

 グランドピアノをプレゼントさせて、弾きませんじゃあまりにも浮かばれないので、弾けもしないピアノをこうして毎日ちょっとずつ弾いている。

 スケルトンは、生前の技能がこびり付いていることがあるというので、もしかしたらピアノを弾けるのもいるんじゃないかと探してみた。

 いたら弾いて貰って音楽を楽しむのも良いし、私が教えてもらうことだって出来ただろう。

 けどいなかった。
 いるはずがなかった。

 そもそもこの世界に、ピアノという楽器がなかった。

 この世界にピアノがないのに、世界で初めて誕生したこのピアノを弾ける人がいるというのなら、それはもう転生者だ。

 ピアノのある世界で生きた記憶を持っていることになる。
 それが私と同じ世界とは限らないけれど。

 ともあれスケルトンにピアノを弾ける者はいなかった。
 この前新たに五十体テイムして、私がテイムしているスケルトンが百五十体に増えたけれど、そこにもピアノを弾ける個体はいなかった。

 当然だ。
 この世界に存在していなかったのだから。

 ならばと楽器を弾けるスケルトンを探してみた。
 ピアノは弾けなくても楽器を弾ける者くらいはいるんじゃないかって。

 そしたら三体だけいた。

 どんな楽器を弾けるのか確かめてみたら、どこかの民族楽器的な太鼓だという。


 …………うーん。


 それっぽいの作ってもらって弾いてもらったけどいまいちだった。
 民族音楽的なのはあんまり好きじゃない。

 せめて弦楽器があれば、バンドとして楽しめたかもしれないのに。

 弦楽器弾ける人はいないの?
 ギターとか。

 ギター弾けたら最強だよね。
 何でも弾き語り出来るじゃん。

 弦楽器を弾ける人って少ないの?
 楽器がそもそも高価なんだ?

 楽器を弾けるってだけでほぼ上流階級確定?
 庶民は簡単に作れる太鼓ぐらいしか弾ける人がいない?

 だから吟遊詩人は貴重なんだ?

 吟遊詩人っているんだね。
 かっこいいよね、吟遊詩人。

 吟遊詩人の持ってる楽器、なんて言ったっけ?
 リュート?

 あれ持って世界を旅したりしてるんでしょ?
 儲かるの?

 弾ける人が少ないから、おひねりが結構もらえるんだ?
 日本で路上ライブするのとは大分違うね。

 日本じゃ滅茶苦茶上手くても食べていけるのは一握りだからね。
 希少性って大事だよね。

 元吟遊詩人のスケルトンとか、狙って手に入れられないかな?

 吟遊詩人を攫ってきて、殺してスケルトン化させればいい?

 いや、ダメでしょ。

 それやり出したら私悪の親玉だよ?
 スケルトンの軍勢率いてるけど、魔王になりたいわけじゃないんだからね?

 人類の敵になりたいわけじゃないから、もっと穏便な方法考えてよ。

 スケルトンをテイムしまくって、元吟遊詩人のスケルトンが出るまでガチャを続けるしかないのかな?

 今は音楽に詳しい人がいないので、チューリップを毎日弾くぐらいしか出来ない。

 どっかにピアノの教則本でも落ちてないだろうか。


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