上 下
44 / 87
第2章 ちとせの政信奪還作戦

第16話 【悲報】政信、死亡の危機 その4

しおりを挟む

 政信がICUに消えてから、1時間ほど経ったころ。
 廊下の先から速歩きで迫ってくる足音がふたつ。
 言わずもがな、ちとせから連絡をもらいすぐに駆けつけてきた母と仕事を抜けてきた父である。
 
「ちとせちゃん、お母さん来たよ」
「……」

 彩希が声をかけるものの、ちとせは崩れ落ちたまま放心状態。
 何よりも愛する政信が倒れた上、ICUに吸い込まれる直前のあのひとことが決定打になった。
 『心肺停止!』というその声はちとせにすれば地獄の宣告に等しい。
 心肺停止状態から帰還するのはどうしても難しくなってしまうからだ。
 そしてそこまで考えたちとせが放心状態になることまでも予想していた母。
 ちとせに歩み寄り、反応がないのを確認した瞬間。

 パチン!

 ほっぺたに勢いよく平手打ち。
 そしてさすがのちとせが気づき母親の顔を見た瞬間に、顔を手で包み込み。

「政信くんが倒れたからってちとせまでそんなになっちゃてどうすんの!あなたが政信くんを愛するならやることはひとつでしょう。政信くんが目を覚ましたときに笑顔で迎えてあげるのよ。あなたがずっとそんなになってたって知ったら政信くんがどう思うか分からないの?」
「……そっか、そうだよね。笑顔で待ってないとだもんね」
「分かったならいいわ。ところで今どんな感じなの?」
「未だに全く出てくる気配がないの。最後に見たときはICU入るときだし、そのときに心肺停止って聞こえたから」
「そう。とにかく今は待ちましょう」

 それから待つこと2時間。
 手術中のランプが消え、ようやく医師が出てきた。

「井野くんのご両親ですか?」
「違いますが、今は代理です」
「どういうことでしょうか?」
「ママ、政信の親の代理って?」
「あなた達が生まれたときに約束したの。どっちかになんかあったときはもう片方が親となるって。今は海外にいてすぐには帰ってこれないから、帰ってくるまでは私達が代理なの」
「そういうことですか。それでは話が長くなりそうですので、ついてきていただけますか?」


 そう言って連れてこられたのは診察室。

「病状の前に聞きたいことがあるのですがよろしいでしょうか?」
「ええ」
「井野くんですが、おそらく数日前からかなり体調が悪かったと思うのですが心当たりはございませんか?」
「明らかに顔色悪いのに本人はちっとも気づいてなくてなんども指摘しました。でも痛みとか何も感じてなかったようです」
「ではもう一つ、ここ最近でストレスを感じたりは?」
「たくさんしていると思います。特にここ最近は浮気問題に巻き込まれてましたから」
「そうですか。だとすると説明できますね。まず病状なんですが、現在も昏睡状態が続いています。いつ目を覚ますかは分かりません。正直言ってもう目を覚まさない可能性も高いです。五分五分といったところですね。原因は過労、疲労蓄積、ストレス過多の3つで、重度の胃潰瘍なども確認されています」
「胃潰瘍ってどのくらいからあったんでしょうか」
「あくまで推測になりますが、少なくとも数日前から動くどころか何してても、睡眠中でもずっと激痛が走るような状態になっていたかと思います。こちらの写真が搬送時の胃の様子です。白いところが胃潰瘍になっている部分ですね」

 そう言って見せられた写真の、あまりの白い部分の多さにだれも声が出せなかった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたので暗殺される前に国を出ます。

なつめ猫
ファンタジー
公爵家令嬢のアリーシャは、我儘で傲慢な妹のアンネに婚約者であるカイル王太子を寝取られ学院卒業パーティの席で婚約破棄されてしまう。 そして失意の内に王都を去ったアリーシャは行方不明になってしまう。 そんなアリーシャをラッセル王国は、総力を挙げて捜索するが何の成果も得られずに頓挫してしまうのであった。 彼女――、アリーシャには王国の重鎮しか知らない才能があった。 それは、世界でも稀な大魔導士と、世界で唯一の聖女としての力が備わっていた事であった。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

愛人の子を寵愛する旦那様へ、多分その子貴方の子どもじゃありません。

ましゅぺちーの
恋愛
侯爵家の令嬢だったシアには結婚して七年目になる夫がいる。 夫との間には娘が一人おり、傍から見れば幸せな家庭のように思えた。 が、しかし。 実際には彼女の夫である公爵は元メイドである愛人宅から帰らずシアを蔑ろにしていた。 彼女が頼れるのは実家と公爵邸にいる優しい使用人たちだけ。 ずっと耐えてきたシアだったが、ある日夫に娘の悪口を言われたことでとうとう堪忍袋の緒が切れて……! ついに虐げられたお飾りの妻による復讐が始まる―― 夫に報復をするために動く最中、愛人のまさかの事実が次々と判明して…!?

VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました

鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。 だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。 チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。 2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。 そこから怒涛の快進撃で最強になりました。 鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。 ※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。 その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。

今日で都合の良い嫁は辞めます!後は家族で仲良くしてください!

ユウ
恋愛
三年前、夫の願いにより義両親との同居を求められた私はは悩みながらも同意した。 苦労すると周りから止められながらも受け入れたけれど、待っていたのは我慢を強いられる日々だった。 それでもなんとななれ始めたのだが、 目下の悩みは子供がなかなか授からない事だった。 そんなある日、義姉が里帰りをするようになり、生活は一変した。 義姉は子供を私に預け、育児を丸投げをするようになった。 仕事と家事と育児すべてをこなすのが困難になった夫に助けを求めるも。 「子供一人ぐらい楽勝だろ」 夫はリサに残酷な事を言葉を投げ。 「家族なんだから助けてあげないと」 「家族なんだから助けあうべきだ」 夫のみならず、義両親までもリサの味方をすることなく行動はエスカレートする。 「仕事を少し休んでくれる?娘が旅行にいきたいそうだから」 「あの子は大変なんだ」 「母親ならできて当然よ」 シンパシー家は私が黙っていることをいいことに育児をすべて丸投げさせ、義姉を大事にするあまり家族の団欒から外され、我慢できなくなり夫と口論となる。 その末に。 「母性がなさすぎるよ!家族なんだから協力すべきだろ」 この言葉でもう無理だと思った私は決断をした。

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・

マーラッシュ
ファンタジー
何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

私はあなたの何番目ですか?

ましろ
恋愛
医療魔法士ルシアの恋人セシリオは王女の専属護衛騎士。王女はひと月後には隣国の王子のもとへ嫁ぐ。無事輿入れが終わったら結婚しようと約束していた。 しかし、隣国の情勢不安が騒がれだした。不安に怯える王女は、セシリオに1年だけ一緒に来てほしいと懇願した。 基本ご都合主義。R15は保険です。

処理中です...