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11話 波乱のお茶会
しおりを挟む第一王妃が開かれるお茶会は、上位貴族だけが招待されるものが多いが、サラ王妃主催の今回のお茶会は、侯爵夫人・ご令嬢から男爵夫人・ご令嬢まで幅広く招待されている。
こういった女性の集まりでは、自然と社交界での噂話が聞かれ、有益な情報を得られる機会でもある……と同時に、この場で起きた内容、話された内容は、一気にお喋り好きの貴婦人によって社交界に広められる。ということでもある。
だから、このお茶会で、彼女達の好きな噂の種を与えるわけにはいかない――
「あ、リンカ様じゃありませんか!」
「……」
――――まさか、自分の立場も考えず、王妃主催のお茶会で呑気に私に話しかけてきているのは、あのアシュレイ殿下の浮気相手のクイナ嬢じゃないですよね?嘘ですよね?もう私とアシュレイ殿下は離婚しているとはいえ、まさか、浮気相手の立場でありながら、こんな公の場にノコノコと姿を現したワケじゃないですよね?
「リンカ様もサラ王妃のお茶会に参加されてたんですね。もう王太子妃ではなくなったというのに……クスッ、少し厚かましいのではありませんか?」
結構な嫌味を言われているのは分かっているけど、反応出来ない。出来れば幻覚であって欲しかった!何でこんなとこに来た!?招待状は出していないはずですけど!?
「未来の王太子妃になるのですから、これから下々の者になる貴族の皆さんにご挨拶しておくのも大切だと思って、参加することにしたんです!体調も落ち着いてきましたし、アシュレイ殿下には許可を頂きましたわ。彼ももうすぐこちらに顔を見せに来て下さるのよ」
頭が痛い……急に頭痛が……!待って、あの馬鹿王子も来るの?どの面下げて?
「でもリンカ様にまた会えて良かったです!私、もう一度、ちゃんとリンカ様に謝りたくて……ごめんなさい、リンカ様よりも、私の方がアシュレイ殿下に選ばれてしまって……私、そんなつもりなかったのに……!」
五月蠅い黙れ。そんなこと今更どうでもいいわ。
あれ?暑くも無いのに手の平や顔から汗が出てくるんですけど……もしかしてこれが冷や汗というやつ?ルイ殿下が所用で少し席を離した瞬間に来るなんて……タイミング最低ですね。
「でも、仕方ありませんよね。折角のお茶会なのに、こんな隅っこで一人で過ごされているような寂しい方に王太子妃の座は相応しくありませんもの。やはり私のような華やかな女性の方が王太子妃として相応しいに決まって――」
「帰れ」
「……は?」
「今すぐ部屋に帰って。監視はどうしたの?部屋の前にいたでしょう?」
「監視?ああ、私の護衛のこと?彼なら、体調が優れないって嘘ついてお医者様を呼びに行ってもらったの。いくら未来の王太子妃を護衛しなきゃいけないとは言え、ちょっと過保護過ぎだから、息が詰まるんですよね」
クイナ嬢が出産まで逃げ出さないように付けていた監視役のことを、自分の護衛だと思ってるの?能天気か……!ちょっと待って、マジでやばい。
折角私が、苦労して苦労してアシュレイ殿下の不貞を隠蔽しているのに――!子供の事だってあるのよ!?まだお腹が目立っていないとはいえ……もしバレたら王家の特大スキャンダルになるのが分からないの!?
「もういいから早く帰って!大人しくも出来ないの!?」
「な、何なのその態度は……!未来の王太子妃に向かって、無礼ですよ!アシュレイ殿下に言いつけてやるんだから!」
「いいから消え失せろ」
「ひっ!」
貴女の存在がお喋り好きの貴族の皆様にバレる前に、早くここから消えろ!
「まぁ、アシュレイ殿下よ!」
「珍しい……!アシュレイ殿下がお茶会に参加されるなんて、久しぶりじゃございませんこと?」
あーーーーーー来ちゃったぁ!もう一人の馬鹿!馬鹿王子の登場!いや待って、いくら馬鹿でも、流石にこんな公の場で浮気相手の存在をバラすなんて馬鹿な真似するわけが――
「クイナ!待たせたな!」
「アシュレイ殿下!お待ちしておりましたわ!」
あーーーーーーオワタ!クイナ嬢の存在がバレた!いや待って、頭をフル回転させて、私!いつもこんなピンチを、知恵を振り絞って乗り越えてきたじゃない!今回も、乗り切れるはず……!そうよ、クイナ嬢との関係が私と婚姻中からだとバレなければまだ……!
「!リンカ!何故お前がここにいる!?俺様はお前と離婚し、クイナとの愛を貫くと宣言したはずだぞ!」
やったなお前このクソ王子――!あっさり言いやがったな!何で自分の恥を自ら晒していくタイプなの!?人が隠してあげてるにも関わらず!
「え、何?どういうことですの?まさかリンカ様との離婚理由は、アシュレイ殿下の浮気が原因なの?」
「アシュレイ殿下が遊び人だとは聞き及んでいましたが、やっぱり結婚してからも遊び続けていたんですわ……王族にも関わらず、何て節操の無い行動なのかしら……」
あーーーーーーもう駄目だ!バレた!折角あんだけ苦労して根回し&火消ししたのにーー!台無し!最悪!死んで本当!こんな事なら地下牢で監禁しておくべきだった……!
「……どういうつもりですか馬鹿王――アシュレイ殿下、どうしてこちらに?」
部屋で大人しく腰振ってりゃあいいのに、何しに来た?まーじーで、余計な真似しかしねぇな。
「ふん!未来の王太子妃であるクイナが、お茶会に参加したいと言うから、連れて来たまでだ」
「未来の王太子妃……!?」
マジで発言に気をつけろやコラ。お前の発言で周りの貴婦人達が一回一回ざわついてんだよ!噂話の花を咲かせんなや!
「……アシュレイ殿下、まだ決まってもいないことを言いふらすのは良くないと思いますよ。クイナ嬢が王太子妃になるなんて、陛下も初耳だと思います」
とりあえず、訂正しておく。なるべく笑顔を心がけていますが、引きつっていないでしょうか?
「五月蠅い!俺様に指図するな!俺様は最初からお前との結婚は反対だったのだ!それを、母様の命令だからと仕方なく受け入れたが、お前との結婚生活は俺様の人生で最大の汚点だった……!そんな地獄のような結婚生活の中でクイナと出会い、本当の愛を知ったのだ!クイナこそが、俺様の妻、王太子妃に相応しい!」
おおーーーーーい!!丁寧に全部喋るな!まさか、子供のことさえ言わなければ、不貞云々は別に世間にバレても良いと思ってるんですか!?いや、子供の件がバレるよりはマシですし、皆様、薄々アシュレイ殿下に原因があると勘づかれていたでしょうけど、大っぴらに公表するのとではワケが違うんですよ!?いい加減にしろよこの野郎!私がどんだけ火消しして根回ししたと思ってんだコラ!
「第一王妃様が……」
「リンカ様との結婚を地獄のようだなんて……」
……もう駄目だ、明日には国中に王家の恥が駆け巡るわ。
陛下、きっと頭を抱えられるでしょうね……最近頭痛が酷いと言われていたのに……お可哀想に。
「貴様なんかに、俺様とクイナの邪魔はさせない!さっさとここから出て行け!」
自分達の恋を純愛だと勘違いして、自分達こそが正義だと疑っていない。公の場でこうして私を責め立てているのも、自分達の恋を守るためだと思っている。愚かで馬鹿な王子様とお姫様。
「……ふふ」
「何がおかしい!?」
ここまで大ぴらにしてしまったなら、もう誤魔化しは効かない。グレゴリー国、王太子アシュレイ殿下が実は不倫の末に離婚していた!なんて……王家に対する評価がだだ下がるのは間違いない。これから、その対応に追われることになるのは明白。
公になったのなら、もう仕方ない、仕方ないから――
「――クイナ嬢、私は貴女に慰謝料を請求します」
「へ?慰謝料?」
憂さ晴らしついでに徹底的に潰してやる。覚悟しろよ。
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