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4話 馬鹿な王子様
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「リンカ=ガルドルシアと申します。よろしくお願いします」
「こ、こちらこそよろしくお願いします!ガルドルシア公爵令嬢であり、この国の宰相であられるリンカ様」
視察で訪れた領地にて、領主であるサンランカン男爵に、旧姓に戻った苗字を伝える。
私とアシュレイ殿下の離婚のニュースは、一瞬でグレゴリー国中を駆け巡ったので、当然、サンランカン伯爵もご存知。王家の恥をまき散らすわけにはいかないので、表面上、離婚の原因は多忙な生活のすれ違いによる円満離婚ということにしている。
サンランカン男爵は何も聞き返さずに、私がガルドルシア公爵令嬢に戻ったことを受け入れた。
本日の私の宰相としての仕事は、サンランカン男爵領の視察。
サンランカン男爵家はここ最近、領地で販売している薬の評判が良く、その実績を確認するために宰相である私自ら足を運んだ。上手くいけば、医療の発展に繋がる重要な功績。見逃すわけにはいかない。
――あますことなく視察を終え、帰りの馬車の中、集めた資料を眺めながら、これからの事を思案する。
元手に集めた情報をまとめて、陛下に提出する資料と、明日の会議で使う書類の作成、王太子妃だった頃に頂いたお手紙の返事、王家主催のお茶会の準備……やることが山盛りね。どうしよう……うん、今日は家に帰ってる暇、無いわね。
仕事が片付かない日は、いつも王城で泊まり込んでいる。アシュレイ殿下と離婚してからは初めてだけど……まぁ、私があいつを気にする必要無いし。
アシュレイ殿下とはあれ以降、顔を合わせることはく経過している。広い王城、更には、公務も気が向いた時だけしかしない遊びまわっている王子とは、生活域が違う。
「ガルドルシア公爵家に今日は帰らないことを伝えて」
「かしこまりました」
一緒に同行した補佐官に伝言を頼み、私は何も気にせずに、王城への泊まり込みを決めた。
***
王城には、宰相である私にも執務室は用意されている。
「んーお腹空いたぁ……」
時計の針が12時を回ったところで、ペンを置く。
気付いたらもうこんな時間か……昼から何も口にしていないから、お腹が空いちゃった。昼の内に料理人に何か頼んでおけば良かった。
仕事に集中し過ぎると、自分のことを二の次にしてしまうのは私の悪いクセの一つで、お父様にも散々注意されていた。こうやって結局、仕事の効率ダウンにも繋がるのに、本当に駄目ですね。
「……何か手軽に食べれるパンでも貰ってこよう」
勝手知ったる王城。私は夜食用のパンを取りに、執務室を出て厨房に向かった。
昼間は人が溢れ何かと騒がしい王城も、深夜になると人は寝静まり、静寂が訪れる。起きているのは、見張りをしている騎士か、私のように深夜まで仕事している仕事人か、遊び歩いて夜更かししている、王族に相応しくない愚かで馬鹿な王子様か――
「!お前っ!何で王城にいる!?まさか忍び込んだのか!?」
あーー、一生会いたくなかったアシュレイ殿下じゃないですかーー。
また遊び歩いて、こんな時間に帰宅ですか?羨ましいご身分ですねー他の王族の皆様は、皆、自身の公務や勉強に邁進されていると言うのに、少しも恥ずかしくないんですか?それで国王になりたいだなんて、その神経を疑いますねー。
「私はこの国の宰相なんですから、いてもおかしくないでしょう。まさか、私が宰相であることも覚えていないほどお馬鹿が進んだのですか?若いのにもう物忘れですか?」
「ざけんな!それくらい知ってらぁ!俺様が言いたいのは、お前はもうとっくに宰相をクビにしただろう!って話だ!」
「何言ってるんですか?こんなに優秀な私がクビになるワケないでしょう」
「さっさと王城を出て行けと言っただろーが!」
なんでやねん!ですよ、まさしく。何で私がクビにならないといけいの?まだ王太子の立場にあると言えど、お飾りのお前にどんな権限があると言うの?私は陛下から直々に宰相を続けて欲しいとお願いされてるんですけど?
「は!何が優秀だよ!お前なんてただ偉そうに指示出してるだけじゃねーか!」
その目は節穴か?その言葉はブーメランか?
私は誰よりも働いてるわ!今日だって徹夜覚悟で働いてます!偉そうに指示してるだけなのはお前でしょーが!何の実りも無い、ただ意味の分からん指示を出すだけの迷走王子のクセに!
……駄目だ、なんか疲れました……馬鹿を相手にするほど疲れるものはない。仕事もまだまだ残っているし、お腹空いたし、こういう時は相手にしないに限る。
馬鹿王子を無視して厨房に向かおうとしたが、それはそれは愚かな王子様。余計な真似をして私の行く手を阻んだ。私の邪魔をするというのは、グレゴリー国の平穏、もしくは発展の邪魔をしているのも同義ですよ?ほんと馬鹿なの?
「無視すんな!さっさと王城から出て行け!」
この野郎……言っておくけど、お前の王太子剥奪の準備は着々と進んでるのよ。それまで好きにさせてやってたら調子に乗りやがって……!今すぐにでも浮気相手の女諸共、着の身着のまま王城から叩き出してやろうかしら。
駄目ね、お腹が空いてるから余計に口が悪くなっているわ。
「アシュレイ殿下、今すぐ私から手を離さないと、心底後悔させますよ」
「たかが宰相が、俺様に指図すんじゃねぇ!俺様はこの国の王族だぞ!第一王子で、王太子だぞ!」
「代々宰相としてこの国を支えているガルドルシア公爵家にその王家がどれくらいお世話になってると思ってるんですか?本気で反乱してやろうかコラ」
「なっ!貴様っ!」
お腹空いてるんだってば!仕事も溜まってるんだってば!気が立ってるんだから、さっさとそこどけよ!
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