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51話 ルキ様の悪足掻き

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 ユウナとレインの婚約は、瞬く間にファイナブル帝国中に広がった。
 アイナクラ公爵令息であるレインは優秀な魔法騎士であり、ユウナの専属魔法騎士として常に傍で支えていた姿も目撃されており、彼ならばユウナ様に相応しく、幸せにしてくれると評判が良く、彼女の不幸な生い立ちを知り、婚約破棄の件を知っている多くの人々が、ファイナブル帝国の聖女の婚約を喜び、ユウナの幸せを祈った。

「ユウナ様、レイン様、ご婚約おめでとうございます」

「ありがとうございます」

 会う人会う人がお祝いの言葉をくれるのが嬉しいような、照れてしまうような、こそばゆい感情だけど、やっぱり皆にお祝いされるのは素直に嬉しい。
 でも今日の主役は、私達じゃない。

「ミモザ様の婚約が無事に決まって嬉しいですね」

 今日はシャイナクル侯爵家次期当主ミモザ様の婚約を祝う宴に出席するために、シャイナクル侯爵邸に向かっている。

「……ああ」

 心なしかレイン様も嬉しそうなのは、親友の婚約が嬉しいからでしょう。
 ミモザ様は以前、ルキ様の妨害にあい、一度婚約を破談にされているらしく、こうして新たに良い婚約を結べたことは、とても喜ばしいことだ。

 ミモザ様はルキ様もいるので出席しなくても良いと仰ったが、いつまでもこちらが逃げ続けるのも癪ですし、シャイナクル侯爵令息である以上、どこかで顔を合わせる機会はこれからもあると思うので、出席を決めた。
 本当は純粋にミモザ様をお祝いしたい気持ちが大きくて出席を決めただけですけど。

「ルキと会うことになって本当に大丈夫かユウナ?」

「はい、エミルと違って、いつまでも避けるワケにはいきませんし」

 シャイナクル侯爵家はコトコリス男爵家のような辺境の領土を持つ小さな貴族では無く、れっきとした由緒正しき家柄。現当主のゲオルグ様との関係も良好ですし、こちらとしては、これ以上問題を起こさないのであれば、穏便にしても良いと思っている。
 もう既に社会的地位は剥奪されていますし、名誉も失っている。これ以上の罰は望んでいない――ルキ様が余計な真似をしなければ、ですけど。

「今日は純粋に、ミモザ様をお祝いしたいんです」

 ミモザ様には、互いに姉妹、兄弟間のトラブルで悩まされた同じ被害者のような感覚があって、ミモザ様の幸せを願う気持ちがとても強い。

 内容は違いますが、婚約破棄させられたところまで一緒! 是が非でもミモザ様には幸せになって欲しい!

「それに、レイン様の婚約者として一緒に参加するんですから、怖いものなんてありません」

「……可愛い」

「へ?」

「いや、それならご期待に応えて、しっかりとユウナを守らないとね」

「ふふ、ありがとうございますレイン様」

 私とレイン様は二人並びあって、シャイナクル侯爵邸の中に進んだ。


「ミモザ様、婚約おめでとうございます」
「ありがとうございますユウナ様」

 シャイナクル侯爵家次期当主のミモザ様の婚約を祝う宴なだけあって、多くの人々が集まる大きな宴。

「次はユウナ様とレインの番ですね」

「私はあまり大事にしたくないんですけど……」

 兎に角目立つのが苦手なので、出来ることなら避けたいのですが、ファイナブル帝国の聖女ともなるとそういうわけにもいかず……結婚式の日は帝国の祝日になるとまで言われた時には、驚き過ぎて心臓が止まるかと思いました。

「本当に嫌なら断れば、ユウナ様なら願いは叶うと思いますよ?」

「それは……」

 そうしたいのは山々なのですが、帝国民が聖女の結婚を祝いたいとか、聖女が現れた時の慣例だと言われたら、断れない! 私に断れるはずがない!

「ユウナ様は本当に素晴らしい方ですね、エミル嬢ならすぐに我儘を言って、自分の思い通りにしようとするでしょうに」

 我儘放題の妹で本当に申し訳ございません。実の妹ながら、恥ずかしい限りです。家族の縁を切って良かったと、数えるも面倒なくらい何度も何度も思っています。

「まぁ折角なので楽しんでいって下さい、料理もお酒もジュースも、シャイナクル侯爵家の名に相応しい最高級のものを用意していますから」

「はい、ありがとうございますミモザ様」

「レインも、気は抜けないと思うけど、楽しんでいってよ」

「ああ……本当におめでとう、ミモザ」

 レイン様はミモザ様がルキ様の手で婚約破棄された時、誰よりもミモザ様を心配し、怒っていたと聞いた。ミモザ様の幸せを一番喜んでいるのは、レイン様かもしれませんね。

「ありがとうレイン。レインは僕の一番の親友だよ」

 ミモザ様も、レイン様の気持ちをしっかりと受け取ったようだ。
 ミモザ様は以前、レイン様を何事にも執着しない人だと言っていたけど、私だけでなく、親友であるミモザ様のことも、レイン様はとても大切に思われていると思う。

 こんな幸せな空気を壊さず、最後までこのまま、和やかに平和に終われたら――そう思っていたのに、その願いはこの後、すぐに壊されることになった。

「お久しぶりですね、ユウナ様」

「――ルキ様」

 皇宮主催の宴で会った時以来に会うルキ様は、以前よりも老け込んで見えた。

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