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32話 宴の裏で――エミルの気持ち②
しおりを挟む「なっ! ふざけるな! たかが子爵令息の分際でワシにそんな口を聞いて良いと思っているのか!?」
「貴方はたかが男爵でしょう。将来、子爵位を受け継ぐ私にそんな口をを聞いていいんですか?」
「ワシは、聖女の父親だぞ!」
「その女は偽物の聖女だろ! 偽物の聖女の父親の肩書にどんな威力がある!? ただただ無様なだけだ!」
「ヒュ、ヒュウイシ様……」
どうして? どうしてそんな酷いことを言うの? 今まではずっと、私に優しかったのに……!
「ヒュウイシ様は、あんなに私が好きだって言ってくれていたじゃないですか!?」
「そんなもの、貴女がコトコリスの聖女だと思っていたからですよ。じゃないと貴女みたいに我儘で面倒臭い女の相手なんてするわけないじゃないですか」
「我儘……? 面倒臭い、女?」
私が?
「自覚無いんですか? 我儘放題で皆から嫌われているのに。コトコリスの聖女だったから、今までは皆、我慢して貴女に付き合っていただけですよ。その点、ファイナブル帝国の聖女ユウナ様は、皆から好かれています。貴女と違い、心も美しい本物の聖女だとね」
「私が……ユウナお姉様より、嫌われてる……?」
「当然でしょう、ユウナ様は貴女なんかとは格が違います。陛下からもアイナクラ公爵からも信頼が厚い。だからこそ、貴女とは違い、正式に陛下からファイナブル帝国の聖女の称号を頂いたんです」
「……そんなっ!」
「ユウナ様は今、アイナクラ公爵令息であるレイン様をパートナにして、中でファイナブル帝国の聖女として皆に祝福されていますよ」
「レイン……様とだと!? 何故だ!? ワシがエミルのパートナーを依頼した時には、断ったクセに!」
「悔しいですが、レイン様には人を見る目がおありということでしょう。ああ、良かった。ルキ様が勝ち取ってくれたおかげで、私はこんな偽物の聖女と結婚せずにすみました。ルキ様には感謝しないといけませんね」
それだけ最後に言い捨てると、ヒュウイシ様は私達の前から立ち去った。
ユウナお姉様が、中で皆に祝福されてる? 私は皇宮の中に入れもしないのに? パートナー? レイン様って確か、アイナクラ公爵令息で、魔法騎士の……お父様が、最初、私の結婚相手にしようと考えていた……
頭の中がグルグル回ってる。
何で? どうしてユウナお姉様の方が、私よりも皆に祝福されているの? 皆に愛されるのは私の方なのに。こんなのって無い。私のために、家族のために生きるって約束したのに! 酷いよユウナお姉様! ユウナお姉様の所為で、家族皆が不幸せになっているのに!
本当はこの中で皆に祝福されて愛されるのは、私なのに! どうして私が、誰にもお祝いされず、ユウナお姉様と比べられて惨めな思いをしなきゃならないの!? この立場は本来、ユウナお姉様のものなのに!
「ああ、可哀想なエミル」
「大丈夫だエミル。エミルが本物の聖女であることは、ワシ等が一番理解しておる」
「お父様、お母様……」
「エミルには奇跡の回復魔法がある。ユウナの化けの皮が剝がれるまでは、その力で何とかやり過ごそう。エミルの回復魔法こそが、素晴らしい力だ。ユウナなんかには使えまい」
……そうよ、ユウナお姉様は、回復魔法を使えないもの。ユウナお姉様が土地に力を与える聖女でも、人々を回復させることが出来るのは、私だけ。
「そうですよね、私、ユウナお姉様なんかには負けません」
「ああ。暫くは皇室に目を付けられないためにも、適正な報酬でエミルの回復魔法を使わせてやるが、エミルが本物の聖女だとハッキリすれば、また、奇跡の力に相応しい対価に戻してやる。そして、ワシ等にした仕打ちを死ぬほど後悔させてやる!」
「はい、お父様」
大丈夫、ユウナお姉様はいつか私の所に帰ってくる。
だって私達は双子の片割れ、ユウナお姉様と私は、魂で繋がってるの。私はユウナお姉様が大好き。こんなに酷いことをしても、私はユウナお姉様を許してあげる。
「早くまた、私のために生きて下さいね、ユウナお姉様。ユウナお姉様、大好きです」
――エミルは知らない。
ユウナが本物の聖女であることは知っていたが、エミルには、知らないことが二つあった。
一つは、ユウナが聖女の力を制御出来るようになっていたこと。もう一つは――――ユウナの本来の力の解釈。
ユウナの本来の力は、《他者に力を与えるもの》
この力のおかげで、エミルは奇跡とも称される回復魔法を使えるようになったことを、エミルはまだ、知らない。
◇◇◇
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