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5話 陛下との謁見
しおりを挟む「其方が、本物の聖女か?」
広い皇宮の謁見の間、何故か、皇帝陛下に謁見させられている私……どうしてこうなった?
遡ること数時間前、長い旅路を終え無事にアイナクラ公爵邸に着いた私は、休む間も無く、レイン様に連れられて皇宮に来ていた。
そしてあれよこれよと言う間に、皇帝陛下と謁見させられている。
「は、はい」
大地を守り、実りを与えることが出来る存在を聖女と言うなら、それは間違いなく私。
「まさか、コトコリスの聖女が姉の方だったとは……」
夢にも思いませんよね。私はずっと妹の影として生きてきましたから、知らなくても仕方無い。
「ユウナが本物の聖女であることは僕が証明します」
「そうは言っても、何か他に証明出来るものはないのか? レインだけの証言では、信じ切ることは出来ん」
陛下に仕える臣下の一人と思わしき男性は、そう言って鋭い眼差しで私を睨み付けた。
こ、怖い……! 言いたいことは分かりますが、圧が凄い!
「父様、目が怖いです。ユウナが怯えているじゃありませんか」
父様ということは、この方がレイン様のお父様で、アイナクラ公爵様! 皇帝陛下にアイナクラ公爵様……大物に囲まれている私の場違い感が凄い!
「すまない、そんなつもりは――」
「父様はちょっと目つきが悪いだけで悪い人では無いから、気にしないでユウナ」
「あ、あの、聖女の証明なら出来ると思います」
「何だと?」
幼い頃は力を上手く扱えなくかったけど、今は制御も出来て、自由に、誰に力を与えるかも選択することが出来る。
「アイナクラ公爵様は魔法はお使いになられますか?」
「いや……私は息子と違い、魔法は使えん」
それなら好都合かな。ハッキリと、私の力を感じてもらいやすい。
「では、手をお貸し頂けますか」
「手を?」
私の魔法は触れ合うことで、相手に力を与えることが出来る。
与える相手により、その効果は違いがあり、大地には実りを、ユウナには回復魔法の威力の増幅、そして、魔法を持たない人間の多くには――
「! これは!」
公爵様の左手に現れるのは、炎の魔法。
魔法を持たない人間の多くは、私が力を与えることで、微力ながら魔法を使えるようになる。アイナクラ公爵様は、炎の魔法を宿したようですね。
「暫くは魔法が使えるようになると思います。でも、私が力を与えなければ、いずれ効力は切れます」
効力の切れる時間は人によってマチマチだったから詳しくは分からないけど、私が力を与えなければ、いつかは消えゆくのは確定してる。
「なんと……想像以上の力だ、素晴らしい」
「自分の力に詳しいな」
「力を制御できるようになってすぐ、町の子供達で実験したことがあります」
コトコリス領で私と触れ合ってくれるのは子供達くらいだったし、子供の頃なら、大人になるにつれ上手く魔法を使えなくなる子もいるから、目立たなかった。
「大地に関しても、私がその土地に行かない限り、力を与えることは出来ません。触れ合うのが大前提です」
だから私が住んでいたコトコリス領は、実りが溢れた土地になった。
「こんな証明が出来るのなら、妹の影として生きる必要は無かったのではないか?」
……でしょうね。力が制御出来るようになってからは、私はいつでも、自分の方が聖女だと証明することが出来た。でも、しなかった。
「妹の――エミルの力になることが、姉としての役目だと思いました」
大嫌いだったけど、たった一人の双子の片割れだから、私はずっと、エミルの影として生きてきた。
家族のために――――
「父様、ユウナの力は本物でしょう?」
「ああ、そうだな、疑いようがない。聖女様、無礼な発言、大変失礼しました」
「あ、謝らないで下さい! 今まで聖女だと思っていた妹が偽物で、いきなり姉の方が聖女だと言われても、信用が出来ないのは当然です!」
頭を下げて謝罪するアイナクラ公爵様に萎縮する。私なんかに公爵様が頭を下げる必要は無いんですよ!
「ふむ。こちらの聖女は妹の方とは違い、慎ましやかで奥ゆかしい女性のようだな」
「――妹が何か失礼を?」
まさかエミル、陛下に無礼を働いてるワケじゃないよね? 私はエミルの付き添いで色々連れ回されたりはしたけど、基本、妹が表舞台に立っている間は裏で大人しくしていたし、帝都みたいな華やか場所には連れていってもらえなかったから、エミルが普段どんな人間でいるのか、知らないんですよね。
お父様がルキ様や上位貴族に横柄な態度を取っているのは、何となく知っていますけど……
「ふむ。そうじゃな、聖女に枯れ果てた土地の再生や怪我人の治療を依頼したりしていたのだが、その場所までは遠いから嫌だとか、美味しい食事が無いから嫌だとか、肌の調子が良くないから魔法を使いたくないだとか、活動中も、その土地の人々の自分への扱いが気に食わなかったのか、『何で聖女の私をもっと大切にしてくれないの? 皆、私をもっと可愛がるべきなのに!』と言って力を使うのを拒んだりもしたのぉ」
「父様には、『顔が怖い、聖女である私を睨んだ。私は大切にされるべき存在なのに、睨むなんて酷い! もう帰ります!』とか言って、謁見途中にコトコリス領に帰ったこともあるらしいよ」
「――妹が本当に申し訳ございませんでした!」
陛下やレイン様から聞かされる妹の所業に、自分でも顔色が真っ青になったのが分かる。
聖女の活動に関しても、アイナクラ公爵様に対する口の利き方も、ましてや陛下との謁見中に席を立つなんて、無礼にも程がある! しかも、不貞腐れて領土に戻るって! 馬鹿なの!?
「大丈夫、ユウナが謝る必要無いよ」
「いえ……本当に申し訳なく、穴があったら入りたいくらい、お恥ずかしい限りです」
家族の縁を切っていて本当に良かった。
「聖女である以上強く咎めることも出来ず、どうしたものかと放置してたのだが、最近ではコトコリス男爵からも聖女の力の見返りとして、爵位を上げろだの、領地を寄越せだの、もっと報酬金を増やせだの、要求が酷くなっておってな、困っておったんじゃ」
文字通り好き勝手やってんな。
大丈夫? エミルは本当は聖女じゃないんですよー?
「……要求は無視して下さい。困っている人々を救うのは当然のことです。私が、代わりに土地の再生に行きます」
私が産まれる前のコトコリス領も、大地は枯れ果て、作物の一つの育たず、大変だったと聞いた。それなのに、どうして他の土地は助けてあげないの?
どうして……私が力を貸していたのに、そんな風に使うの?
「うむ、本物の聖女が、ユウナのような人間で良かった。ユウナはファイナブル帝国が責任を持って保護しよう。アイナクラ公爵、レイン、ユウナを頼んだぞ」
「かしこまりました」
陛下の命に、二人は声を揃え、頭を下げた。
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