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4話 コトコリス男爵家の会話

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 ◇◇◇


「あれ? ユウナお姉様は?」

 ユウナが家を出て行ってから暫くして、エミルはルキと一緒に新婚旅行から戻って来た。

「おお、お帰りエミル! どうだ? 新婚旅行は楽しめたか?」

 エミルとルキが結婚して一年。
 ルキがユウナと偽装婚約を続けていたこともあって、エミルは結婚してからも、ずっと実家であるコトコリス男爵邸で暮らしていた。

「はい、ルキ様はユウナお姉様に傷付けられた私を慰めてくれて、とても優しくて、いっぱい、愛してくれました」

「そうか! エミルが元気になったなら良かった!」

 頬を赤らめながら幸せそうに伝えるエミルに、コトコリス男爵は満足そうに頷いた。

「お義父様」

「おお、ルキ。娘をありがとう。エミルが幸せそうで満足だ」

「当然のことをしたまでです」

 丁寧に頭を下げ、義父に挨拶を交わすルキ。

「それより、アイナクラ公爵令息のレイン様が、エミルに会いに来る予定だったと伺いましたが」

「ああ、あの若造な。うちが縁談を持ち掛けた時は断ったクセに、今になってエミルの力を貸して欲しいなどぬかすから、わざとエミルが新婚旅行に行っている日を約束の日に指定したんだ。そんな無礼な男に、簡単にエミルは会わせられんからな」

 聖女の父親になったコトコリス男爵は、自らの地位が上がっているような錯覚に陥っていた。だから、アイナクラ公爵令息であるレインに対しても、平気で約束を反故にするような真似をする。

「数日待ちぼうけを食らわせた後、魔法騎士としてエミルの専属護衛でもさせてこき使ってやろうかと思っていたが、結局来なかったよ。一度は手紙で、『聖女を拒んだ者の願いを叶えるつもりは無い』と断っているからな。それでも会いに行くと返信が来た時は、エミルに粘着する気かと怖くなったが」

 実際は、レインは本物の聖女であるユウナに出会い、偽物の聖女には会いに行かなかったのだが、そんなことをコトコリス男爵が知るわけもない。

「例え公爵家であろうが、聖女を娘に持つワシを無下には扱えんだろう。何せ、聖女の力さえあれば、不作に苦しむ土地に実りを与え、傷付いた者達を癒すことが出来るのだからな!」

「ええ、お義父様。聖女の魔法は偉大です。この力さえあれば、皇帝陛下から新たに爵位を授かることも可能ですよ」

「はは! そうだな! その通りだ!」

 今までは、エミルに良い縁談を与えることだけに夢中になっていたが、エミルなら、聖女なら、直接、爵位を授かることだって出来るはずだと、ルキからの助言で気付いた。

「このままエミルが聖女として活動を続けていけば、必ずしや、爵位を授けて頂けるはず! その際には、ワシの爵位も上げてもらう! ワシは、聖女の父親なのだからな!」

 ガハハと大きな口を開けて笑うコトコリス男爵。

「お義父様のご活躍をお祈りしております」

 そんなコトコリス男爵を更に調子付けるように、ルキは不敵に微笑みながら、言葉を紡いだ。


「ユウナお姉様、まだ不貞腐れて、部屋に閉じ篭っているのかしら」

 誰も家を出て行ったユウナを気にしない中、エミルだけが、ユウナの存在を気にした。

「ユウナお姉様の心が治るのには、少し時間がかかるんですね……大丈夫です、私、待ちます。ユウナお姉様が、また私の元に戻って来てくれるのを。だって、私達はたった二人だけの、魂の片割れなんだから」

 ユウナが絶縁されたことも知らず、呑気に無邪気に、エミルは姉と仲直りが出来る日が来るのを望んだ。


 ◇◇◇

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