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2話 幸運の出会い
しおりを挟むコトコリス男爵邸を出た後、少ない荷物を手に、私は長年住み続けたコトコリス領を出た。コトコリス男爵に出て行けと言われた以上、コトコリス領に留まることは出来ない。
「これからどうしようかな」
勢いで家から出て来たものの、行くあては無い。
私には頼れる親族も、仲の良い友人もいない。
もとより、コトコリス領での私の扱いは、妹の影響もあってか、酷いものだった。いつも私と妹を比較して、優秀な妹と比べて出来損ないの姉だと陰口を叩き、私を空気のように扱った。親族は全て無条件に聖女であるエミルの味方だし、幼い頃の数少ない友人もエミルに奪われてきたから、誰にも頼れず、行く場所も無い。
「お金は少しだけどあるから、これでどこかで家を借りて、働く場所も見付けて……」
貴族令嬢として生きてはきたが、両親に冷遇されていた私は、家の使用人達にも舐めた態度を取られていた。誰も私の世話に来ないことは当たり前で、洗濯、食事、掃除など、一通りの家事は自分で出来るようになった。
働く場所も、学校には妹が『私は聖女の役割があって学校に通わないから、ユウナお姉様も通う必要無いですよね』なんて言って通わせてもらえなかったけど、ずっと独学で勉強は続けて来た。計算も出来るし、字も綺麗に書けるから、何かしらの仕事は見つかると思う。
自分のことは自分で出来るし、働く場所さえ見つかれば、生活は出来るはず。
「うん、きっと大丈夫」
これからどうなるんだろうって不安は勿論あるけど、気持ちは晴れ晴れしてる。
私を邪険に扱う両親も、私に執着する妹も、もういない。完全に家族の縁が切れ、私達は赤の他人になった。家族がいなくなってもちっとも悲しくないのは、もう、私の心が限界だったんだと思う。
私はこれから自由。妹に縛られることなく、好きに生きて行ける。もう、気持ちを押し殺して、家族のために生きなくていい。
「気分爽快!」
私は自由を求めて、顔を上げ、足を進めた。
「ん?」
どこか近くの町にでも行こうかなと考えていたら、前方に地図を片手、どう見ても道に迷っていると思わしき風貌の男性を見つけた。
(綺麗な顔……こんなに綺麗な顔をした男の人、初めて見た)
目の前に現れた男性は、端正な顔立ちをした不思議な空気を纏う男性で、こちらの視線に気付くと、どこか鋭く射貫くような綺麗な瞳で、私を見返した。
「ねぇ」
「は、はい。私ですか?」
急に声をかけられ、ビックリする。
「聖女がどうして、こんなところで一人でいるの?」
「――え?」
ドキッとした。
(どうして、私が聖女だと……)
今まで誰にも聖女だと気付かれたことないのに、一目見ただけで、気付かれた。
「あの、何か勘違いされていませんか? 聖女は私ではなく、妹の方で――」
「君から不思議な匂いがする。間違いなく君が、僕が会いに来たコトコリスの聖女だ」
「!」
こんなに的確に、私の力を見極めた人は初めて。
「……あの、貴方は?」
「レイン。《レイン=アイナクラ》」
「アイナクラって……まさか、アイナクラ公爵様のご令息……ですか!?」
「そう、アイナクラ公爵の次男に当たる」
嘘でしょう!? どうしてこんなところに、アイナクラ公爵家の次男が!? 確かに、平民にしては高価な服を着られているなとは思いましたけど……
アイナクラ公爵家と言えば、代々皇帝陛下に仕える由緒正しき家。しかもアイナクラ公爵家のレイン様と言えば、まだ若いにも関わらず、歴代最高と言われる魔法騎士だと聞いたことがある。
「聖女に会いにコトコリス領に来たんだが、まさか途中で出くわすとは思わなかった」
「ア、アイナクラ公爵家のレイン様だとは気付かず、ご挨拶が遅れ申し訳ありませんでした」
「別にいい。それで、どうして聖女がここにいる? 確かコトコリス男爵は娘である聖女を過保護過ぎるくらい過保護にしていると聞いていたけど」
「……」
歴代最高の魔法騎士ともなると、人を見ただけで特別な力を見極められるんですね。
自分が聖女だったことは、別に隠すつもりはない。聞かれたら答えようとは思っていたし、新しい土地で力が必要なら、遠慮なく使おうとも思っていた。
「コトコリス男爵は、もう私の父ではありません。私は、コトコリス男爵家から絶縁され、領を追放されました」
「追放? 聖女をか?」
「父――コトコリス男爵は、私では無く、妹を特別な力を持つ聖女だと信じています」
コトコリスの聖女は、大地に活力を与え、実りを与える特別な魔法を持つとされている。でも実際は、少し意味合いが違う。私の力は本来、《他者に力を与える魔法》
「私はその力を使って、大地や草木に力を与えていただけです」
正確には人以外にも作用する魔法は、私が産まれた時から、勝手に発動された。
今はもう力を制御出来るけど、私はずっと、家族の為に、妹にも力を与えてきた。エミルは他の魔法に比べて使える人間が少ない回復魔法を使えるが、その奇跡とも呼ばれる驚異的な回復魔法の威力を上げていたのは、私。
妹の驚異的な回復魔法も、大地に活力や実りを与えてきたのも、全て私。
「聖女は妹ではありません、本物の聖女は、私の方です」
妹は、聖女でもなんでもない。それなのに皆、妹を聖女だと崇めて、ほんと馬鹿みたい。
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