上 下
41 / 96
雨天の山コリカ

自由研究

しおりを挟む

 カトレアのお願いに戸惑っていると、アレンが横から、呆れながら言葉を発した。
「公共の場では控えて頂きたいのが本音ですが、呼び捨てで構いませんよ。カトレア様はよく身分を隠して出歩かれているので、呼び捨てで名前を呼ぶ方は他にもいらっしゃいますから」
 もっと本音を言えば、そもそもが身分を隠して出歩いて欲しく無いし、呼び捨てもタメ口も止めて欲しい。が彼の本音だろうが、もう既に色々諦めてしまっているのが分かる。

「…わ、分かりました。カトレア…」
「ありがとうございますキリア。とても嬉しいです」

 キラキラな王子様スマイルを向けられ、とても眩しい。
 カトレアは、3年ぶりに会うとは思えないように、まるで昨日まで普通に会っていたかのように、自然にキリアに話しかける。
「ところで……あの、依頼って?」
 恐る恐る、キリアは尋ねた。

 前回のカトレアの依頼は、彼の護衛だった。紅の魔法使いに護衛を頼む事も稀有だったのに、蓋を開けてみれば、国の王子様の護衛で、襲って来たボンボン貴族の阿呆テスト男(命名ケイ)の従者達が凄く強くて、とても苦戦した。
 依頼が危険なのはいつもの事だけど、本当に、下手すれば死んでたと思う。
 そんなカトレアの依頼なので、身構えてしまうのは当然。

「自由研究を手伝って欲しくて」

 ーーーは?自由研究??

 一瞬、意味が分からなくて、キリアは助け舟にアレンを見たが、アレンは目を閉じ、視線を合わせないようにしていた。

 自由研究?自由研究って、確か、小学校とか中学校とかで、夏休みの宿題とかに出て来るやつの事ですか?それを、手伝って欲しい??

「自由研究……それは、あの、何か、国の為の重要な研究とかですか?」
「いえ。ただの学校の宿題です」
 念の為に確認してみたが、予想通りの答えが返って来た。

 学校の宿題?ただの学校の宿題を紅の魔法使いに依頼するの??それは大丈夫なのかな??思ってるのと違って、凄い平和なのが来たけど、それはそれで凄い戸惑うんだけどーーー!!!

 困惑していると、またも、アレンから補足が入った。
「心中お察しするが、カトレア様たっての要望なんだ。報酬は弾むので、引き受けてくれないだろうか?」

 前回の報酬も、ケイ先生の要望で、国中の美味しいお酒を払ってくれましたったけ……。兄さん達は、折角の大物の報酬を酒になんて使いやがって。と、ブチ切れてましたけど……。

「多分……いえ、絶対大丈夫だと思います。から、この依頼、紅の魔法使いが引き受けます…よ」

 報酬の良さにケイ先生はご満悦だったし、私達のことを馬鹿にも見下したりもしない依頼主。断る理由は無い。無い。けど、紅の魔法使いに学校の宿題を手伝ってって依頼に来る人は初めてだよ。逆に大丈夫?って心配になる。

「良かった」
「えっと、その自由研究って、具体的に何するの?」
「花の採取をしたいんです。とても珍しい花があって、危険な場所なのですが、紅の魔法使いの皆さんなら、問題無いと思います」

 成程。依頼するって事は、ただ工作するとかじゃないんですね。危険と聞いて安心するのもおかしな話ですけど、安心しました。

「危険って……」
「山の上にあるんですが、崖も多くて、雨が頻繁に振る地域で、地面がぬかるんでいて、とても危ないです。今回も、命の危険が伴う大変な依頼だと思います」

 真剣な表情を浮かべるカトレアに、息を飲む。
「なら、我々騎士団にお任せ頂ければとは思うのですが……」
 不満げなアレンは、はぁ。と大きく息を吐くと、キリアに視線を向け、カトレアに代わり、詳しく説明した。
「花の名前はコトコリカ。山の名前は雨天の山コリカと言う。確かに魔物もいて危険な区域だが、魔法使いなら空も飛べると思うし、崖から落ちても危険は無いだろう。それに、コリカには今、我等の騎士団長が隊を率いて、魔物を退治するべく動いている」
「騎士…団長」
「大変お強いお方だ。君達が着く頃には討伐作戦も終わり、魔物の数も減っているから、危険は少ないだろう」

 山は依頼で数回、魔物退治に行った事あるけど、確かに、魔法で飛べるから、落ちても大丈夫だけど……怖いのは怖いんだよ?飛ぶ!って思って飛ぶのと、落ちるのは違うからね。呪文間に合わなきゃ死ぬんだし。
 でも、魔物が少ないのは良いね。
 うん。総合的に見ても、以前よりは平和そう?

「分かりました。その花ーーコトコリカを採取して来たらいいんですね?」
「え?違うよ。僕も行くよ」
「ーーーえ?」
「自分の宿題なんだから、僕が行かないと」

 それってーーーまた護衛も含まれるって事?コトコリカの採取+カトレアの護衛?

「あーーぶ、ないので、お城で待って頂ければとー」
 チラリと、アレンを見ると、わざとらしく視線を背けている。
「大丈夫。紅の魔法使いの皆さんなら、無事に僕も連れて行ってくれると思います!」

 アレンが視線を背けている理由が分かった。
 カトレアの無理難題を、きっと、アレンは何度も止めたのだろう。騎士団が花を取りに行く。から始まり、騎士団がカトレアと一緒に同行するーーそれ等を断り、カトレアは紅の魔法使いを選んだのだ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。

お小遣い月3万
ファンタジー
 異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。  夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。  妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。  勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。  ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。  夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。  夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。  その子を大切に育てる。  女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。  2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。  だけど子どもはどんどんと強くなって行く。    大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?

甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。 友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。 マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に…… そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり…… 武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

処理中です...