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雨天の山コリカ

あれから3年後ーーー。

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 あれからーーーカトレアさんを、無事に王都に送り届けてから、紅の瞳を取り巻く環境が、少し変わった。

 第7王子の命を紅の瞳が救ったと、王都で取り上げられ、他の街にまで話が広がり、紅の瞳に対する印象が、和らいだ。
 勿論、まだ完全に無くなった訳じゃ無い。相変わらず、紅の瞳を完全に見下して馬鹿にしてくる奴等は大勢いるし、私も、まだ街に買い物に行けていない。
 それでもーーー

 3年後。
 キリアーーー15歳。

「ジュン兄さん、そっち行ったよー」
 自然豊かな村の花畑、その真ん中で、キリアは風魔法で宙に浮かびながら、兄に向かい対象物を指して教えた。
 その対象物は、5匹の猪の魔物で、猪突猛進ーー勢い良く、ジュンの方に向かって突進して行く。

「闇魔法クラーク」

 ジュンお得意の特殊魔法、闇の魔法で、魔物達を、地面から伸びた闇が、そのまま闇の中に引き摺り込んだ。
「ちっ。おい、クラ。2匹逃げたぞ」
 だが、2匹は上手く闇の手から逃れ、そのまま、花畑を抜け、村の方に突進するのを、クラの植物の魔法が、ツルとなり、足を絡めて、止めた。
「ジュン、腕落ちたんじゃない?油断大敵だよ」
「うるせぇ!守りながらは性にあわねぇんだよ!」

「あ、あの!ありがとうございました!」
 5匹全ての魔物を退治したのを確認し、この村の村長と思わしき人間が、3人に向かいお礼の言葉を述べた。
「あぁ?!人間が俺に話しかけーーゲホッ!」
「とんでもありません。依頼ですから、当然の事をしたまでです」
 激しい言葉を吐こうとするジュンのみぞおちを殴って止めたクラは、何事も無かったように、作られた笑顔を村長に向けた。
「この魔物には、花畑を荒らされて困っていたので……紅の魔法使いさん達のお陰で、村の花畑が守られました!」
 丁寧にペコペコ何度も頭も下げる村長。
 (ーーあ)
 キリアは、村長が腕に怪我をしているのを見付け、スっと、杖を村長にかざした。

「回復魔法リアリテ」

 淡い光とともに、瞬時に癒される傷。
「なっ!回復までーー!!回復?!回復魔法?!」
 この村は、花を育て売る事で生計を立ていて、猪の魔物は、そんな村に大変な損害を与えていたようで、何とか食い止めようと、立ち向かった時に出来たのが、この傷らしい。
「闇の魔法や植物、更には回復魔法まで使えるなんてーー」

 猪の魔物はすばしっこく、魔法を使って倒すのが一般的だが、花畑に被害が出るのを恐れ、中々、普通の魔法使いに依頼が出来なかったらしい。
 普通の魔法使いは、基本的な魔法しか使えない事が多く、風、火、土、雷、水の5属性のみ。どれも、花畑に影響を与えてしまいそうなものが多い。
 幸い、ジュンは特殊魔法の闇魔法で花畑に被害を与えず攻撃出来、クラは植物の魔法で捕えられる。

「本当にありがとうございます!紅の瞳が呪われてるなんて、ただの迷信ですね!こんな素敵な力を持って産まれただけで無く、困っている人達の力になっている優しい方達に、何でそんな話が出たのか……」
 村長は、そう言うともう一度、頭を下げお礼を述べた。


 それでもーーー
 こうして、私達の事を、普通に扱ってくれる人達が増えた。依頼を達成し、お礼を言われる。そんな普通の事が、ただただ嬉しい。

「依頼無事に達成出来て良かったね」
「余裕ー」
「報酬に沢山の食材を頂きましたし、早く帰ろっか」

 ジュンがケイ先生の空間魔法を込めた鞄に、手伝いのクラと一緒に荷物を詰め込む。
「あ、そうだ。私、ケイ先生に何本か花を摘んで来て欲しいって頼まれてたんだ」
 この村に来る前、酔っ払った先生から、この村で採れる花が欲しいとお願いされていた事を思い出し、キリアは花畑に足をむけた。
「師匠のお願いなんて聞かなくていーぜ」
「そう言う訳にもいかないよ。ちょっと行ってくるねー!」
 前持って村長には許可を頂いてる。
 キリアは、花畑まで着くと、何本か花を摘み、匂いを嗅いだ。
「良い匂い」

「ーーおい!」
「っ!」
 べちゃっ!と、顔に泥が投げ付けられた。
「さっさとこの村から出て行け!お前等みたいな呪われた奴等がいると迷惑なんだよ!」
 ボタボタと、泥が下に落ち、洋服を汚し、地面に落ちる。

「……」
 (反射的に目をつぶれて良かった。目に泥が入ったら痛いもんね)

 ゴシゴシと、袖で顔を拭い、汚れを取ると、自分に泥をぶつけた人間を見た。40代の男の人間。服装から見て、この花畑を耕している村の住人の1人なのだろう。

「何だーーやるのか?!これだから野蛮な奴等は!」
「……」

 野蛮なのは、いきなり泥を投げ付ける貴方の方じゃ無いのか?そう言いたかったけど、揉めるのは目に見えてるので、押し黙った。
 (ここで騒げば、兄さん達が来て、厄介な事になる)
 妹思いで有り、人間に好意的で無い彼等は、この人を殺しはしないけど、痛い目には合わせてしまいそう。
 折角、良い感じに終われそうだったから、水をさしたくない。
 キリアは、杖を構えると、風の魔法を唱え、その場から姿を消した。


「お帰りキリアーーって、何、どうしたのその服?汚れてない?」
 戻って来たキリアの服が汚れている事に目敏く気付くクラ。




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