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大切な出会い
阿呆テスト男ニケ
しおりを挟む王都ーーー。
この国で最大の都市で、その名の通り王様が住む都市。
エルフで有り、長寿のケイ先生の言う大昔がどの位前の事を指すのかはさておき、私は、1度も行った事が無い。と、思う。
正確には、私が前にいた家の場所が、私には分からない。産まれた時から軟禁されていたから、屋敷から外に出た事が無いし、森に捨てられた時も、袋の中に入れられ、馬車に詰め込まれ、運ばれたから、どうゆう経路を辿ったかも謎。
「ここから王都は遠いんですか?」
「んー。大体4.5日ってとこかなー。そんなに遠く無いよ。前にキリアちゃんが行った海辺の街コムタの方が遥かに遠いよ。ワープ使わずに歩いて行ったら、1ヶ月はかかると思う」
「1ヶ月?!」
そんな道のりを繋げてしまう空間魔法って、本当に凄くて便利……。
「王都に向かう途中で、彼ーーニケの妨害にあって、急遽紅の森に寄る事にしましたから」
「ニケ?」
「そう言えば、狙ってる奴の名前聞いて無かったね」
結構重要な事なのに、そう言えば聞いてませんでしたね。聞いたのは、同じ学校で、テストに負けたからって命を狙うような最低な人って話だけ。
「名前はニケ。留学していた先の学校の同級生です。先日、僕の留学期間が終わって、国に帰ろうとした矢先に、彼がけしかけた魔物に襲われる運びとなりました」
学校にいる間は、何やらちょっかいをかけてくる程度だったが、留学期間が終わったら、本格的に命を狙い出してきて、帰り道、大怪我を負ってしまった。
「油断しました。他の生徒からの忠告もあったので、警戒していたんですけど、まさか本当に命を狙ってくるとは思っていなかったので」
帰り間際、『お前なんて嫌いだ!お前なんていつか絶対殺してやるからな!』なんて、馬鹿正直に言って、見送りに来た他の生徒達を絶大に引かせていた。
「大分阿呆なんだねその人間ー」
食後の珈琲を飲みながらゆっくりしつつ、ケイは率直な感想を述べた。
命を狙おうとしている相手に、宣戦布告で殺す。なんて、マヌケが過ぎる。相手を警戒させるし、本当に殺せば、真っ先に疑われる。紅の魔法使いに罪を被せたいなら、間違い無く控える行動だ。
「阿呆なんだねー」
しみじみと思ったのか、ケイは2回同じ事を呟いた。
「ええ。ですが、上手くいかれては困ります」
何せ底辺に位置する紅の瞳は、罪を擦り付けるには持って来いの相手。万が一にも、罪を擦り付けられては堪らない。
「売られた喧嘩は全力で買うよ☆それは、クラ君もジュン君も同じだと思う。ね?」
気付けば、いつの間にか起きて来ていた2人が、傍で話を聞いていた。
「当然。紅の魔法使いを敵に回す事がどれ程恐ろしいのか、細胞レベルまで知らしめてあげる」
「最悪、息の根を止める」
「駄目です!息の根は止めないで!」
クラ兄さんの発言も大分怖いけど、ジュン兄さんの発言はもっと駄目!OUT!手を汚すのは駄目だって再三言ってます!はっ!もしかして、ストッパーって、この事も含めてのストッパー?!その、ニケって人に対して兄さん達がやり過ぎ無いように止める役?!
ケイを見ると、キリアの考えを肯定するかのように、『ま・か・せ・た♡』と口パクしていた。
「ケ、ケイ先生がしてよー!」
残念ながら、キリアの訴えがケイに聞き届く事は無かった。
その夜ーーー。
普段、紅の魔法使いとして依頼を受ける際は、紅の瞳である事を隠していないので、紅の瞳を灯しているが、今回は護衛。その為、紅の瞳の色を変化させれるクラとジュンは、薄い青の瞳に戻していた。
「キリア、キリアはしっかりフードを被っててね」
「うん」
紅の瞳を元に戻せないキリアは、クラの言う通り、真っ黒なフード付きローブを着用し、そのフードを目が隠れるくらい、深く被った。
長年キリアを仕事に参加させるのを拒否して来た兄2人だが、今回はケイの意見に反対せず、参加を認めた。
本気の命令なら、ケイの意向を拒否出来ないのもあるが、今回は自分達も、いつも以上に人間と関わる事になるのを自覚しているので、間違いが無いよう、ケイの意向通り、ストッパーであるキリアの同行を認めたのだろう。
暴走してしまった自分達を止められるのは、ケイを除けば、キリアしかいない。
「あんた、冒険の経験あんのか?」
ジュンは、荷物一式を魔法で空間にしまいながら、カトレアに尋ねた。この荷物収納魔法も、ケイの空間魔法の一種。家の鍵同様、魔法の力を込めた鞄を使えば、選ばれた魔法使いは使えるようになるらしい。
「一応、有ります」
「ふん。ならいい。足でまといになるなら、容赦なく置いて行くからな!」
「置いて行ったら依頼達成にならないよ…」
ジュンの台詞を、キリアは呆れながら指摘した。
特殊魔法で闇の魔法を使えるジュンだが、姿を闇に消すのは、結構な魔力の消費の為、長時間、多い人数は難しい。
なので、紅の森から4.5日かかる王都までの道のりは、正攻法で、普通に歩いて冒険をしなくてはならない。
家、紅の森からほぼ出た事の無いキリアにとって、初めてに近い外出が、長い旅時で緊張する。
「お2人は、冒険の経験あるんですか?」
「あるよ。先生のワープ場所と離れた場所にいる魔物の討伐依頼も、ちょくちょく受けた事があるから」
クラ、ジュンにとっては、冒険は手馴れたものらしい。
確かに、何日か家を開けていた事もあったなと、キリアは思い返した。
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