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18話 私の婚約者③
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「まだキアナは正式にエメラルド公爵令嬢になっていないから、僕の婚約者と明かせないし、こんな場所でごめんね」
人払いされた王宮の一室。
王家からの信頼が強い、口が堅い侍従は、私達にお茶と洋菓子を用意すると、一礼しその場を去った。
「そんなに緊張しないで……と言っても難しいよね」
「そ……う、ですね。急なお話だったので、まだ気持ちが落ち着いていません……」
あの後、陛下の提案で、私とフィン殿下は2人っきりで話す場を設けられた。あとは若いもの同士でごゆっくりというやつでしょうか……エメラルド公爵様はとても複雑な表情を浮かべておられましたが……。
嫌では無い。
嫌では無いけど……正直、とても緊張します。第二王子と普通にお話するだけでも緊張するのに、それが今や私の婚約者で、未来の夫になるだなんて……!全く想像もしていなかった。
「……王族、貴族間で政略結婚は珍しいものでは無いからね、キアナも、エメラルド公爵令嬢として、この婚約を受け入れたのは承知しているよ」
「……あ……はい」
否定はしない。私達の婚約は、互いに都合の良い相手として選ばれた婚約であって、そこに愛は無い。
互いにとって釣り合いが取れる相手、家のため、跡継ぎとなる子供が必要なため――様々な思惑で政略結婚は行われ、それは子供の意思を尊重しないものが多い。
……でも、エメラルド公爵様は私の意思を尊重して、望まないのなら、婚約破棄を叩き付けるとまで言って下さった……それだけで、私は嬉しい。
「僕としても、キアナは身分からして婚約者として都合が良かったし、ミルドレッド侯爵令嬢からの良い風避けになる。ミルドレッド侯爵令嬢を婚約者にしても、王家にはデメリットしかないからね」
(……でしょうね。私が言うのも何ですが、色々な角度から色々な問題を起こしそう……)
アシュリーお嬢様を相手に選ぶよりは、私を結婚相手に選んだ。フィン殿下からすれば、私はその程度の婚約者――理解している。
理解している、はずだった――――
「――ただ、僕はどうせ結婚するなら、その相手を心から愛したいと思ってるんだよね」
「……え……」
フィン殿下の仰った言葉の意味を理解するのに、一瞬、思考が止まった。
愛……し、たい?私……?フィン殿下が、私を?
「まだ出会ったばかりで互いを愛し合うのは難しいだろうけど、僕はキアナに愛してもらえるように、精一杯努力するよ」
「……!そ……んな、私なんかには……勿体無いお言葉です……」
フィン殿下にそんな風に言ってもらえるなんて……!
予想していなかった言葉に、私の顔は今、真っ赤に違いない。顔の火照りを抑えるためにも、私は一口、用意されていたお茶に口をつけた。
(……誠実な人……政略結婚の相手を……そんな風に思って下さるなんて……)
優しく微笑みかけるフィン殿下からは、その言葉が本心なのだと、伝わってくる。
貴族の娘として、家のために愛の無い結婚をすることがあると、覚悟していた。
コンスタンス男爵令嬢である時も、それは同じ。私と引き換えにコンスタンス男爵家を支援してくれるのなら、相手が誰であろうと、マックスがいようと、私は受け入れていた。
結婚後、どんな扱いをされようとも――
だけどフィン殿下は、互いに愛し合う関係を望まれた。それは私が理想としている……夢のような結婚だった。
(嬉しい……私も……フィン殿下にちゃんと好きになって頂けるように……頑張らなくちゃ……)
そして、私もフィン殿下を心から好きになりたい。
フィン殿下がこれから先、私と生涯を過ごす相手になるのだから――
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