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8話 反撃の狼煙
しおりを挟む私はミルドレッド侯爵邸で起きた事を、今度は包み隠さず、正直に話した。
「キアナになんてことを……」
「許せないわ!」
お義父様とお義母様は、私の話を聞くなり、私の為に怒ってくれた。ただ一人、モーリスだけは、浮かない表情を受かべ、落ち込んでいた。
「……マックスお兄ちゃん……」
マックスのこと……本当の兄のように、慕っていたものね。
「キアナは……虐めなんてしていません!事実無根です!それなのに、不当に解雇した挙句、慰謝料まで請求するなんて!何故、ミルドレッド侯爵邸の者達はそんな嘘の証言など――」
「……ミルドレッド侯爵邸の使用人は皆、アシュリーお嬢様の言いなりです。逆らうことは出来ません。アシュリーお嬢様が命じれば、嘘の証言もするでしょう」
それに文句を言うつもりは無い。彼等にも生活があり、アシュリーお嬢様に逆らって仕事をクビにされれば、生活が出来なくなる。
彼等も仕方なく、従っているに過ぎない。
「そんな……!」
「……」
立場の弱い男爵家。しかもコンスタンス男爵は、今や没落貴族と呼ばれる、貴族の中の弱者。
私が虐めをしていないと主張し、慰謝料の支払いを拒否すれば、強者であるミルドレッド侯爵家に目をつけられ、今度こそ、コンスタンス男爵家はお終い……いいえ、今のコンスタンス男爵家の財力では、慰謝料を支払うことも難しい。慰謝料を支払えば、コンスタント男爵家は没落する。
アシュリーお嬢様はどちらにしろ、私の家を潰す気なんですね。
今の私はまだ、コンスタンス男爵令嬢……お義父様達に迷惑はかけられない。
「エメラルド公爵様、大変、図々しいお願いだとは思いますが……私に、お金を貸して頂けないでしょうか?」
「キアナ!」
「コンスタンス男爵家に迷惑はかけられません。これ以上ミルドレッド侯爵家に目をつけられでもしたら、お義父様達に迷惑がかかります」
これがアシュリーお嬢様の独断の行動だとしても、逆らえば、娘を溺愛するミルドレッド侯爵様が出てくるのは確実。それなら、大人しく慰謝料を払って、私達から手を引いてもらうのが一番良い。
(これで……アシュリーお嬢様の気が済んで下さるなら……)
私はアシュリーお嬢様の要求を飲んで、慰謝料を支払う選択を選んだ。
それで、お義父様達に迷惑がかからないなら――
「その必要は無い」
「!エメラルド…公爵、様?」
エメラルド公爵様の顔には、こちらが驚くくらい、明らかな怒りの感情が滲んでいた。
「私の娘に対する振る舞い……到底許せるものでは無い。ミルドレッド侯爵家には、それ相応の報いを与えてやる」
「あ……でも……エメラルド公爵様に、そんな手間をかけさせるワケには……」
私は、エメラルド公爵様にもご迷惑をかけたくない。ただでさえ、コンスタント男爵家を助けてもらっているのに……。
「……君達は母子揃って、私に甘えるのが苦手なのだな」
「え?」
「キアナ、君は好きなだけ私を頼れば良い、君の父親はエメラルド公爵であり、君は近い将来、正式にエメラルド公爵令嬢になる。エレインを守れなかった分、私にキアナを守らせて欲しい」
「…父様…」
「正式な続きが済んでいない今、キアナをエメラルド公爵令嬢として表立って守ることは出来ないが、私の力を持ってすれば、ミルドレッド侯爵家など、どうとでもなる。王宮騎士団長でもある私に逆らうなど――愚の骨頂だ」
こ、怖いですエメラルド公爵様!殺気が溢れ出ている気がするのですが…!
「コンスタント男爵、今すぐにミルドレッド侯爵令嬢に手紙の返事を書け」
「分かりました」
「……あ……」
「心配するな、コンスタント男爵家に一切手出しはさせない。エメラルド公爵の名にかけて誓おう」
お義父様は返信用の手紙を取り出すと、すぐにペンとインクも用意し、いつでも手紙を書ける体勢を取った。
「その愚かにも我が娘に手を出した女に、丁重に罰を与えなくてはな」
エメラルド公爵様は椅子に座ると、まるで王様のように足を組みなおし、氷のような冷ややかな笑みを浮かべた。
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