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22話 奇跡

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 タポンの採取を終え、コルンまで戻ると、急いで薬の調合に取り掛かった。
 ヒナギクさんの顔色はさっきよりも悪くなっていて、呼吸も力なくなっていた。

 ヒナギクさん、お願い、絶対に死なないで! 助けてみせるから!

「あれって薬草のタポンだろ? 初心者向けの、効力の弱い……」
「あの薬草で作った薬じゃ、大した怪我は治せねーよ」

 様子を見ていた住民達からは、もう助からない、諦めるしかないと言った、悲痛な声が聞こえた。
 確かに、タポンは初心者向けの薬草で、色々な用途に使える反面、効力としては弱い薬草だった。ポーションとして活用した場合、治せるのは、軽度の切傷や打撲、火傷などで、重傷人を治せる効果は無い。
 薬師であるソウカもフォルクも、言われるまでもなく、理解している。理解していて、諦めるつもりがなかった。

「ヒナギクさん、飲んで下さい、お願いです」

 必死で、出来上がった薬を口に運ぶ。

「ソウカちゃん、もういいよ。ヒナギクさんはもう……」

 コルンの住民達は、懸命に助けようとするソウカに、諦めるように声をかけた。

「嫌です、絶対に嫌! お願いです、ヒナギクさん! 戻ってきて……!」


 ――――普通に考えれば、助からないはずだった。


「げほっ、ごほっ! 何だい、騒がしいねぇ」

「ヒナギクさん!」

「あれま、ソウカちゃんじゃないかい。コルンに戻って来たのかい?」

 目を開け、意識もハッキリした様子で、何事も無かったように会話するヒナギクの姿に、ソウカはガバッと抱き着いた。

「ヒナギクさん、良かった……助かって良かった!」

「よしよし、どうしたんだい? まさか、また町のもんに虐められたんか? あんだけこっぴどく説教してやったのに、懲りないねぇ。また、うちが説教しといてやるからねぇ」

 ヒナギクはソウカの頭を撫でながら、優しく優しく、慰めるように声をかけた。

「嘘だろ!? あの状態のヒナギクさんが治ったのか!?」
「ヒナギクさん! ああ、無事で良かった! 奇跡だわ!」

 奇跡を目の当たりにし、コルンの住人達は、驚きと歓喜の声を上げた。


「本っっっ当に申し訳なかった! ソウカちゃん!」

 全ての怪我人の手当てを終えた後、コルンの住民達は、揃ってソウカに向かい土下座した。

「や、止めて下さい!」

 何で!? 急にどうして!?

「もっと深く頭を下げんかい。全く、ソウカちゃんの人となりを知っておきながら、平民落ちの貴族様だからって態度を変えて、ほんっと、情けないったらありゃしないよ」

 状況を理解したヒナギクさんは、頭を下げる住民達に向かい、深くため息を吐いた。

「だってよぉ! 平民落ちの貴族ってたら、悪事を働いたから平民になったって話で!」

「全員が全員そうじゃないと説明したじゃろうが。大体、ソウカちゃんが悪事を働くような悪い子に見えるのかい? あんたんとこの娘が風邪を引いて苦しんでいた時、助けてくれたのは誰だったんだい?」

「――っ、ソウカちゃんです!」

「はぁ、本当にごめんなぁソウカちゃん。町の者には、こっぴどく説教しといたからの。ほんに、人を見る目のないバカな奴等ばっかでのぉ」

 本当に、私の為に怒って下さったんですね……

「勘弁してくれよヒナギクさん! 俺等、ヒナギクさんにこっぴどく怒られてから、ずっと反省してたんだぜ!?」

「うるさい! ソウカちゃんがどれ程傷付いたと思ってるんだい!」

「わ、私は大丈夫です! 元はと言えば、元貴族であることを黙っていた私の所為ですし……」

「こんな見る目の無い大人達ばっかりじゃあ、黙っていたくもなるさ、ソウカちゃんは何も悪くないよ」

「ソウカちゃん、本当にごめん! 俺等、冷たい態度を取ったのに、こうして助けに来てくれて、本当にありがとう!」

「息子を助けてくれてありがとう、ソウカさん!」

「ソウカお姉ちゃん、ありがとう」

 コルンを出て行く時、もう、ここには戻って来れないと思ってた。もう、コルンの人達が以前のように私に接してくれることは無いんだなって、とても悲しかった。

「私は……皆さんがこうして、また普通通りに接してくれるだけで、幸せです」

 私は、この自然溢れる、優しい人達で溢れるこの町が、大好きだった。だから、こうして、以前のように接してくれるようになったのが、とても嬉しい。

「ソウカちゃん……! 許してくれてありがとう!」

「あの貴族が壊したソウカちゃんの家は、俺等がしっかり直しておくからよ。また、いつでも戻ってきたい時に戻って来てくれよ」

「そうだね、ここはもう、ソウカちゃんの故郷みたいなもんだ。いつでも戻ってきていいんだからね」

「……はい、ありがとうございます!」

 ジェイド様が私を連れ戻しに来た時、私の幸せが足元から崩れる音がして、もう無理だと思った。私は、幸せになんかなれないんだと思った。立派な薬師にもなれなくて、両親やお義母様の自慢の娘になれないんだと、絶望した。
 でも、ボロボロに崩れた足元は、まるで病気が完治するかのように、修復された。

「良かったな、ソウカ」

「はい……ありがとうございます、フォルク様」

 あの時、私を助けてくれたフォルク様のおかげで、私は今、幸せだと、そう思えます。

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