上 下
4 / 17

大魔法使いサクラ

しおりを挟む
 

 次の日ーーー。

 魔法クラスには、数学や国語等の一般教養の授業はほぼ無い。多くを、魔法の座学と、実技に当てていて、今日は、午前中が魔法の実技。午後からは魔法の座学で、魔法関連の授業で1日が終わるスケジュールになっている。
 今は4時限目までが終わり、お昼休み中。
 1人、グラウンドで立ち上がれずに、疲労で四つん這いになったまま、私はしみじみと呟いた。

「駄目だ…」
 座学が出来ないのに、実技が出来る訳が無い。

 魔法を使うには、複雑な魔法陣を覚え、頭の中で思い浮かべ、呪文を唱える必要がある。らしい。
 ここら辺が基本的な事なのに、私はそれを知らない。先生に聞いても、これくらい、入学する前に学んでおくべきでしょ?みたいな視線を送られるだけで、全く教えてくれない。

「魔法ってこんなにややこしいものだっけ……魔法はもっと、自由であるべきなのに…」

 もっと感覚的に、楽しむもの。

「私はーー魔法は、もっと皆に自由に使えるようになって欲しくてーー」
 言ってから、ハッと、我に返った。

「何言ってんだろ……魔法なんて、使った事無いくせに」

 自分でも、どうしてあんな言葉を口走ってしまったのか、分からない。分からないけど、何故だか、そう感じてしまった。

「疲れてるのかな…」
 昨日も結局、2時間しか寝れていない。
 とゆーか、授業が終わって、疲労で1人動けずにいたけど、このままだとお昼ご飯を食べ損ねてしまう!1日1食生活をしている私にとっては死活問題!

「食堂行こ」
 頑張って体を起こし、立ち上がると、フラフラなまま、足を進めた。
 1歩、2歩、3歩歩いた所で、視界が急に反転し、重力が無くなったように、体が宙に浮いたと思ったら、文字通り、真っ逆さまに落ちた。


 痛い…。何これ…。

 目を開けて上を見ると、さっきより空が遠くて、辺りが薄暗い。痛む腕を何とか伸ばして見ると、土や泥で汚れていた。

「まさか…落とし穴?」

 誰が作ったのか知らないけど、本当に暇な奴がいるものだ。魔法で作ったにしろ何にしろ、労力は掛かっただろうに、わざわざ私への嫌がさせの為だけに作ったのか?

「痛ぁ…」
 結構高い所から落ちたみたいで、体中、特に右足が痛くて、本当に動けない。
 何とか体を起こして右足を見ると、赤く腫れていて、最悪、骨折してるんじゃないかと思う。

「やり過ぎでしょ…」
 今までも嫌がらせは沢山されて来たけど、流石にここまで酷いのは無かった。
 無視や悪口、水かけられたり、机に泥を入れられたり、紙屑を投げ付けられたりーー面倒臭いなぁとは思ってたけど、特に相手にせずに流していたのに。

 もしかして私があんまり良い反応しなかったから、過激な行動に出ちゃった系?きゃー。とか、わー。とか言った方が良かったのかな?あれか。泣いとけば良かったのかな。

 今更考えても仕方無いし、そもそも、そんなわざとらしい芝居が私に上手く出来るかどうか……。

「すみませーん!誰かいませんかー?」
 上に向かって助けを求めるも、返答は無し。

 ーーー詰んだな。

 このままだと、少なくとも昼食は食べ損ねるし、午後の授業も間に合わないかもしれない。1日食事無しはなんとかなるにしても、授業には遅れたく無い。

「もしもーし。どなたかいませんかー?誰か通り過ぎませんかー?」
 再度呼び掛けてみるも、結果は同じ。

 ヤバい。私達のクラスは、午前中は実技でグラウンドだったけど、午後からは座学で教室。
 他のクラスがグラウンドを使うかも知れないけど、トライナイトのグラウンドは大変広い。だから、魔法クラスと、他のクラスが使用する場所は、綺麗に分けられてる。
 わざわざクラスによって使う場所を分けるなんて、流石、一流学校!でも今はそれが憎い!
 他にも、戦闘フィールド用のドーム型の施設や、水の上での戦いを想定した広いプール。各々に設置されたロッカールームに、シャワー室もあったりする。

「もー…どうしようかな…」
 この学校に私を心配して探しに来てくれる友達なんていないし、教師も私に冷たいし、万事休すとはこの事か。

 一旦諦めて、体を地面に倒し、遠くなってしまった空を、穴から見上げた。

 傷を癒す事が出来れば、立てるのに。
 空が飛べれば、ここから出れるのに。
 魔法が使えれば、家族を養う事が出来るのに。

 もし、生まれ変わればーーー私は、自由に、平和になった世界を生きて行くのにーーー

「……そう、生まれ変われば……私は、自由に、自分のやりたい事をして、平和になった世界を、満喫して、生きて行くのーーー」


 《大魔法使いサクラでは出来なかった自由を、謳歌する》


「ーーーあ、思い出した。私、ちゃんと生まれ変わったんだ」
 急に、前世の全ての記憶を、思い出した。
 ずっと、喉の奥に引っ掛かって出て来なかった物が、引っこ抜けた感じ!凄い晴れ晴れする!
 私が魔法使いに拘っていた理由は、家族の為だけじゃ無い。

「私はーー大魔法使い、サクラの生まれ変わり」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

Lunaire
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

私が産まれる前に消えた父親が、隣国の皇帝陛下だなんて聞いてない

丙 あかり
ファンタジー
 ハミルトン侯爵家のアリスはレノワール王国でも有数の優秀な魔法士で、王立学園卒業後には婚約者である王太子との結婚が決まっていた。  しかし、王立学園の卒業記念パーティーの日、アリスは王太子から婚約破棄を言い渡される。  王太子が寵愛する伯爵令嬢にアリスが嫌がらせをし、さらに魔法士としては禁忌である『魔法を使用した通貨偽造』という理由で。    身に覚えがないと言うアリスの言葉に王太子は耳を貸さず、国外追放を言い渡す。    翌日、アリスは実父を頼って隣国・グランディエ帝国へ出発。  パーティーでアリスを助けてくれた帝国の貴族・エリックも何故か同行することに。  祖父のハミルトン侯爵は爵位を返上して王都から姿を消した。  アリスを追い出せたと喜ぶ王太子だが、激怒した国王に吹っ飛ばされた。  「この馬鹿息子が!お前は帝国を敵にまわすつもりか!!」    一方、帝国で仰々しく迎えられて困惑するアリスは告げられるのだった。   「さあ、貴女のお父君ーー皇帝陛下のもとへお連れ致しますよ、お姫様」と。 ****** 週3日更新です。  

婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな

カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界 魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた 「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね? それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」 小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く 塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう 一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが…… ◇◇◇ 親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります (『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です) ◇◇◇ ようやく一区切りへの目処がついてきました 拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

処理中です...