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5話 帰ってと言われました
しおりを挟む「心配してくれてありがとうカロン。でも、私は大丈夫。もしかしたらローレイも怒らないかもしれないじゃない」
万が一、億が一、兆の一の確率で、自分の愚かな行動を悔い改め、反省して頭を下げるかもしれない。まぁ、あの馬鹿男に限ってそんなことは絶対に無いでしょうけど。
「何かあったら、直ぐに言って下さい! 直ぐに俺達、駆け付けますから!」
「ありがとうカロン」
家に帰ってローレイにごちゃごちゃ言われるのを心配してくれているカロン。私のために駆けつけるなんて、頼もしい限りだわ。お言葉に甘えて、万が一にも問題が起きれば、助けをお願いしますね。
――――ただそこから数日間、私は家に帰ることはなく、会社で永遠と経営の立て直しについて考え、会議を重ね、書類をまとめたりと休むことなく働きまくり、逆にカロンに何度も家に帰るよう勧められた。
「まだカルディアリアム伯爵邸に帰らなくていいんですか!? もう会社に泊まり込んで一週間経ちますよ!?」
「平気よ」
「いやいやいやいや! 働き詰めで体も全然休めてないですし、ローレイ様を放置して一週間経ちますし、色々とこう、心配ですよ!?」
「まだ一週間の泊まり込みよ? 余裕でしょう」
社畜時代は、毎日通常深夜帰宅、繁盛期は二週間泊まり込みなんてザラにあったから、今やっと折り返し地点かってとこなんだけど。
「余裕じゃありません! 何ですかその劣悪な職場!? あのローレイ様の友人達が好き勝手していた時よりも酷いじゃないですか!」
「そうなの? これが普通過ぎて、ブラック企業の自覚が無かったわ」
「ブラック企業?」
「劣悪な職場ってことよ」
まぁ確かに仕事に没頭し過ぎたかな。仕事するのが久しぶりだから、つい張り切ってしまった。
前世の経験が役に立たなかったらどうしようと心配したけど、幸い、会社勤めの経験が生かせているし、今世でも十分やっていけそうね。
「そんなに仕事が大変なら、俺達に言って下されば代わりにやりますから!」
「駄目よ、ちゃんと定時に帰ってゆっくり体を休めないと、次の日の仕事に関わるわよ?」
「それを奥様が言いますか!?」
あら、一本取られましたね。まぁカロンも心配していますし、そろそろ帰ってもいいかしら。
「分かったわ、じゃあ明日帰ります」
「……今日は帰らないんですね」
「今日はここでゆっくり休んで、万全の状態で家に帰るわ。家に帰れば、ローレイと浮気女にちょっかいかけられて余計に疲れるもの」
あんな人達の相手をするくらいなら、仕事に没頭してる方が遥かにマシ。ああ、マジで無駄な時間だわ。家に帰ったら二人共水になって蒸発してるとかないかしら。
「じゃあせめてもっとちゃんとした所で休んで下さい! 社長室なら、あいつ等が使っていた高級なソファがあるでしょう! 何で作業場の床で仮眠取るんですか!? 朝出勤した従業員が驚いて悲鳴上げていましたよ!」
「考え事してたら眠くなっちゃって。それに、社長室のソファなんて嫌よ、あいつ等が何してたか分かったもんじゃないわ」
何せ猿山の猿の集まり。欲望のまま男女でいかがわしいことをしていてもおかしくない、ってか、絶対にしてる。ローレイや浮気女の友人だもの、類は友を呼ぶってやつね。
他所で勝手に発情するのはいいけど、職場で、仕事中に盛るとか、猿は動物の本能だから仕方ないとは言え、人間がしたら最低でしょう。人としてのモラル無し、猿以下の人間ね。
「じゃあ空いてる部屋使って今から仮眠室作るんで、そこで寝て下さい!」
「いいわよ、カロンだって忙しいのに、そんな仕事増やさなくて」
「奥様は俺達の何倍働いてると思ってるんですか!? いいから休んで下さい! そして万全の状態でローレイ様と戦って来て下さい!」
この一週間で、カロンは今の私の性格を大分把握したのか、気弱な私を心配する言葉では無く、一心不乱に仕事に没頭する私を心配する言葉に変わり、『ローレイ様に怒られて泣いたりしませんか?』じゃなくて、『戦ってこい!』なんて応援してくれるまでになった。
「分かったわ、では、完膚なきまでに叩きのめしてくるわね」
「そこまでは言っていませんが、頑張って来て下さい! ローレイ様なんかに負けないで下さいね! 何かあったら呼んで下さいよ!」
「大丈夫、負ける可能性なんて一ミリも無いから」
前世、もっと面倒くさくて厄介な上司と戦ってきた私が、あんな下半身に正直な無能な浮気男ごときに負けるワケが無い。
結婚している身でありながら愛人を連れ込み、妻である私を蔑ろにしてきたモラハラ男。
さて、家に帰るのが楽しみですね、果たして私に何をしてくれるのでしょう? 一週間ぶりに家に帰ってきた妻に、『連絡くらいしろよ、心配するじゃないか!』なんて、怒りながらも抱き締めてくれたりするのかしら? ……うげ、自分で想像して気持ち悪くなっちゃたわ。
まぁ、帰ってからのお楽しみですね。
「ところで、ここのワインの生産のことなんだけど――」
「奥様、休んで下さい」
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