異世界キャンプ チートどころか低スペックのまま転移させられた妖精は楽しい旅にする為にモンスターを美味しく料理してやろうと思います~

綾川鈴鹿

文字の大きさ
100 / 115

16話、デザートプレデター(1)

しおりを挟む
「デザートプレデターだ! 全力で街まで逃げるんだ!」

 アンの怒号が響く、下では乗っている馬車の車輪がガタガタと悲鳴を上げている。
 馬車は猛スピードで走り抜けているにもかかわらず、後ろを追いかける馬と同じサイズの獣が二匹。
 牙を剝き出しにした顔のない獣は、二足歩行のまるで化け物だ。
 誰もが恐怖に慄くであろう化け物を前に、ラーナが問いかける。

「戦うのは?」

 アンに聞きながらも、牽制でナイフを投げつけたが、化け物は横っ飛びで簡単に躱した。
 それを見て、盾を構えながらアンが答える。

「いまの見たろ? 奴らは素早いし、見かけ以上に力も強い」
「ふーん」
「その上奴らの牙は微量ながら毒もあるらしいぞ?」
「毒……ね」
「一頭位ならアタシ達でも何とかなるかもしれんが、数が多すぎる、無理だ!」

 馬車の後ろから無防備に顔を出したイヴァが、二人の会話に口を挟む。

「ひぃ、ふぅ……ん? ニ頭ならなんとかならんのかや?」

 イヴァのローブに隠れていたリリも隙間から顔を出し、イヴァに指摘する。

「よく見なさいよ、奥の方にもう一体いるでしょ?」
「はぁ~……羽根妖精、貴女こそちゃんと見なさいな、左右の崖に囲むようにニ頭追加ですわ」
「五頭ですか、これは……街まで辿り着けないですね」

 クラウディアの指摘にクリスタがボソリと呟く。
 聞いていた皆が一様に口ごもった。

「…………」

 そのまま全員が静かに俯いた。
 たった一人、強敵を前に目を輝かせるハイ・オークを除いて……


 * * *


 バァァン!!

「ギルドマスター、客人です! 黒鉄靴騎士団、第四兵団一行が門の、門の前にー」

 慌てたようすでバタバタと一人の犬人族が冒険者ギルドに飛び込んできた、周りの冒険者がざわざわとどよめく。
 それは犬人族の姿を見てなのか、それとも亜人のみで構成されたにも関わらず、国の片翼を担うほどの騎士団となった黒鉄靴騎士団の名前が出たからなのか。

「ようやっと来たか……」

 ギルドの様子を気にも止めず、三人の亜人が石畳の階段から降りてくる。
 その中でもひときわ小さいむしろ人族よりも一回り小さいラーテルの熊人族が呟いた。
 耳がなくヨボヨボだが可愛らしい見た目をしている。
 杖で小気味よくコツコツと音を立てながら階段を降りると、犬人族の門兵の肩に手を置き質問をする。

「騎士団の小童はなんといったのじゃ?」

 好々爺のようなとても優しそうな口調だが、手を置かれた門兵はえも言えぬ圧でガタガタと肩を震わせ、過呼吸気味に俯くのみだ。
 それもそうだろう、この街に長く住んでいれば彼、この街のギルドマスター、ベルンを怒らせるとどうなるのかを知らないものは一人もいない。

「マスター、殺気が漏れてますよ」

 後に続いて来た三人の亜人のうちの一人、大きな漆黒の羽を持ちながらも真っ白な司教の装いをしたカラスの鳥人族が顔を下ろしベルンに耳打ちをする。
 ベルンは門兵の肩から手を離し立ち上がると、門兵の震えがあっという間に収まっていった。
 ベルンから殺気が消えたのを確認した鳥人族は表情一つ変えずに淡々と話しを続けた。

「土の神ブーミに導かれしルプソイドの兵士よ慌てる必要はない、ノーラが全てを許しましょう、己が仕事を果たすのです」

 難しい表現をするノーラを前に、門兵が困惑していると、尖った顎とひとけわ目立つ甲羅を持つオオニオイガメの爬虫類族が周りの皆も含めてなだめるように話しかける。

「まぁまぁ皆落ち着けや、門兵のあんちゃんノーラ司教の言葉は難しいが、要はゆっくりと確実に偽りなく答えなって事だ。俺も常々思ってるが、速いことなんてのは美徳じゃないんだぜ、ゆっくりおおらかにやっていこうや」

 その言葉を聞き、門兵は大きく大きく深呼吸をし、息を整え改めて姿勢と身だしなみを正すと片膝をつき、ベルンがした質問にハキハキと答え始めた。

「黒鉄靴騎士団からの伝令です。この地より西の方角でデザートプレデターの群れを発見、1割の兵を街にも残すので直ちにギルドでも最優の戦力を集め討伐隊を編成せよ、我々は更に他の地方の偵察に向かう」
「ほぅ……」
「以上でございます!」

 聞いていた周りの冒険者がざわめく。

「デ、デザートプレデター……だと?」
「もうダメだー、俺達はなぶり殺しにされるんだ」
「死を呼ぶ獣が、大群でやってくるなんて……」

 悲観的に叫ぶものがほとんどな中で、ベルンは周りに聞かれないように呟く。

「いまさら……じゃな」

 その呟きに呼応するかのように、後ろについていたノーラが言葉を重ねる。

「こちらからの警告をずっと前から無視していた上でこの有様とは……やはり人族は悲しい生き物……それに使われる黒鉄靴騎士団……私は悲しい、同胞の生きざまがとても哀しい」

 独り言を言う二人に、大亀のルプソイドは腰に手を置き、明るく言い放った。

「まぁしゃあないってことさジジイ、それにノーラ司教もだ。人族が俺たち亜人の為に、ましてやこのカルラ・オアシスの為に動くわきゃあないさ」
「期待するだけバカじゃったという事か?」
「ジジィもわかってたんだろ? だからこそ銀二級以上の冒険者は全員この街に留まらせてたんじゃねぇか! な?」
「それも、そうじゃな……」

 大亀のルプソイドの言葉に、ベルンはぁーっと深く大きなため息をつくと、杖を石畳に強く打ち付ける。

 カンッ! カンッ!

 ギルドに響き渡る杖の音と共に声を張り上げた。

「皆の者、よく聞くのじゃ! ギルドマスターの権限を使い緊急クエストを発行する」
「っ……!!」
「対象はデザートプレデター! 自信のあるものは司教ノーラと、副長ギャスタと共に討伐隊に参加せよ!」

 ギルドマスターが両手を広ろげると、ノーラは流麗な佇まいで、ギャスタは拳を突き上げながら荒々しく、対照的な二人だが堂々と前へと出てきた。

「「ウオォォーー!!」」

 カルラ・オアシスのスリートップの堂に入った振る舞いに鼓舞されたのか、先程まで怯え切っていた冒険者たちは、ものすごい声で雄たけびを上げた。
 後にそれはギルドが揺れたように見えたと称されるほどの大きさであった。

「いつもうるさい奴らだが、なんの騒ぎだいこりゃ」

 ビビ達とのリオ救出作戦の話し合いが終わり、ギルドに雨期到来の報告をしに来たアンは頭をかきながら持ち場の受付へと歩みを向けながらキョロキョロと周りを見て呟く。
 入口近くにいた冒険者がアンを見つけると荒々しく肩に手をまわし話し掛ける。

「っお、アンじゃねぇか! アンあれ見ろよあれ、すげぇーだろ?」

 それをぶっきらぼうに聞いていたアンは、盛り上がる冒険者の中心を見た。

「ん? 暴れん坊ギャラスとノーラ司教か、それに奥には怠け者のジジィか?」
「討伐隊を組むんだってさ」
「随分と豪勢な……もしかして緊急事態か?」

 回された腕をどかすと、声をかけてきた冒険者に聞き返す。
 その冒険者はどかされた右手で親指を立てると、左手に持ったエール入りのジョッキを一気に口に流し込む。

「こりゃぁ、まいったね……間の悪いこって」

 色々と察して愚痴をこぼすアン。
 その姿に気づいたベルンが集団から抜け出してくると、声をかけた。

「何の間が悪いというんじゃ?」
「ジジィ、何が起きたかは知らないが、アタシは今回は参加しないからそこんとこよろしくな、アタシ達は急ぎでスカイロック向かわにゃいかん」

 アンは細かいことを省き、ざっくりと説明するのをベルンが聞く。

「訳ありか?」

 アンはめんどくさそうにまた頭を搔く、そして隠すようにボソリと答えた。

「まーな、知り合いが馬車ごとロック鳥に攫われた」

 その台詞にベルンは大きく目を見開き唖然とする。
 しかしすぐに持ち直すと聞き返した。

「ロック鳥じゃと? 天災じゃぞ?」
「そんなもん分かってるさ」
「お主じゃどう考えても力不足じゃろうて」
「ジジィ、敵わないからってここで引くのはアタシ的には無しだ」

 アンの死さえも決意をした目と口調に、ベルンは止めることを止めた。

「……そうか、ならこれを持っていけ」

 ベルンはエメラルドグリーンの宝石のついたネックレスをアンへと投げ渡す。

「ん? これは……なんだ?」
「耐風魔法用のアミュレットじゃよ」
「耐魔のアミュレットなんて必要か?」
「アンよロック鳥は風魔法を纏う、相手するなら普通は全員がつけてくもんじゃぞ? まぁ無いなら盾役のお主がつけていくのが良かろうて」
「複数ないのかい?」
「調子に乗るな! 貴重品で値打ちものじゃ、儂も一つしか持っておらん」

 それを聞いたアンはネックレスを首に回すと答えた。

「そうか、ジジィありがとな」
「役に立つかは分からんがな」
「まぁ気休めにはなるだろう、それでそっちの相手は何なんだ? 三人が出張るなんてなかなかない事じゃないか?」

 彼らは役職的にも実力的にもこのギルドでトップだ、クエストにでる事など滅多にない。
 ギャラスとノーラは冒険者の中でも一握りしかいないといわれる銀一級、ベルンに至っては国にも数人しかいない金級冒険者である。
 三人が揃って戦いに赴くことなど、鬼族率いるルベルンダとの100年戦争ですらそうそうない、それほどまでに事態はひっ迫している。

「デザートプレデターの群れじゃ」
「ッハ、そりゃあ似たりよったりの地獄じゃないか、むしろ討伐の必要が無い分こっちの方が難易度は低めじゃないか?」

 アンがニヤリと笑うと、ベルンも呼応するように大きく笑った。

「儂は準部に取り掛かるとするかの、死ぬなよアン」
「あんたもな! まぁジジィが傷を負うところなんてあたしには想像出来んけどな!」

 受付の隅に置いてある愛用していたフルプレートを装備したアンは言い返すと、同じく過去に愛用していた大盾とロングソードを背負いギルドを出ようとする。
 そしてベルンに今思い出した事を、すれ違いざまに助言をした。

「ジジィ、アタシの知り合いが近いうちに雨がふるって言ってるぞ」

 アンの言葉にベルンは驚くこともせず淡々と答えた。

「知っとるわい! 儂がこの地で何年ギルドマスターをやっとると思っとるんじゃ、それぐらいのコネは持っとる」

 ベルンの返しにアンはフッと軽く笑うと

「あぁそうかい、ならいいさ……無事でな」

 そうボソリと呟き、そのまま振り返らずに片手を上げギルドを後にした。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合

鈴白理人
ファンタジー
北の辺境で雨漏りと格闘中のアーサーは、貧乏領主の長男にして未来の次期辺境伯。 国民には【スキルツリー】という加護があるけれど、鑑定料は銀貨五枚。そんな贅沢、うちには無理。 でも最近──猫が雨漏りポイントを教えてくれたり、鳥やミミズとも会話が成立してる気がする。 これってもしかして【動物スキル?】 笑って働く貧乏大家族と一緒に、雨漏り屋敷から始まる、のんびりほのぼの領地改革物語!

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

転生したら鎧だった〜リビングアーマーになったけど弱すぎるので、ダンジョンをさまよってパーツを集め最強を目指します

三門鉄狼
ファンタジー
目覚めると、リビングアーマーだった。 身体は鎧、中身はなし。しかもレベルは1で超弱い。 そんな状態でダンジョンに迷い込んでしまったから、なんとか生き残らないと! これは、いつか英雄になるかもしれない、さまよう鎧の冒険譚。 ※小説家になろう、カクヨム、待ラノ、ノベルアップ+、NOVEL DAYS、ラノベストリート、アルファポリス、ノベリズムで掲載しています。

処理中です...