上 下
97 / 115

15話、とてつもなく大きな鶏肉(6)

しおりを挟む
「どう? 出来た?」
「多分ね、ほらっ」

 指さしたのは、水を張った樽、中の細切れのお肉の形がしっかりと見える。

「随分ときれいになったわね」
「ちゃんとやったからね!」
「血抜きも問題なさそうだし、作ろっか」
「オッケー!!」

 リリを追いスカイロックを登っては降り、更にはロック鳥との戦闘までした後だというのにラーナの返事はいつもと変わらない。

(ちょっとラーナってば、ハイになり過ぎてない?)

 実際、ラーナは目の前にある、食べきれないほどの大きな鶏肉に大興奮していた。


[2、炒めて臭みを取り、軽く潰す]

「レバーと砂肝と心臓は、とりあえず塩を振って軽く炒めといて」
「とりあえず?」
「臭みを取るためね!」
「なるほどねぇ」
「焼けて固まったところから少しづつ木ベラで潰していっていいから」
「潰していいの?」
「最後にはムースにするからね」
「わかったー!」

 内臓を焼き出したラーナの前から、ジュージューと心を躍らせる音と肉とオリーブオイルの焼けるいい匂いが立ち昇る。

「しっかりと臭みと余分な水分を出しちゃってね、そうすると凄い美味しくなるんだよー」
「わかった! ボク頑張るよ!」

[3,白ワインを入れ煮込む]

「ある程度焼けたら、白ワインとわたしが潰したスパイスとハーブを入れて煮込んでね!」
「白ワインはどれぐらい入れればいいの?」
「浸かるぐらいかなぁ?」
「結構入れるんだね!」
「美味しそうでしょ?」
「うん、想像しただけで美味しそー!」

 キラキラとした表情で鍋を混ぜるラーナ。
 リリは微笑ましいなぁと思いながらも、暫く見ていた。


* * *


(さてと、問題なさそうだし、わたしはガランティーヌの仕込み始めるかぁ)

 リリは背伸びをすると、クリスタの元へと飛んでいく。

「クリスタさん、どうですか?」
「身の一つ一つが大きいですね」
「そうよねぇ、大丈夫?」

(結構な力仕事よね、これって)

「かなり硬いので普段より難航してますが、なんとか四つ割りにはしましたのでもうすぐ終わるかと」
「じゃあ終わったらでいいので、モモ肉を一本もらってもいいですか?」
「ええ問題ありません、待たせては申し訳ないので、先に運びますよ」

 クリスタはナイフを置き、軽々と大きなモモ肉を持ち上げた。

「リリ様、どちらへ置けばいいですか?」
「じゃあ、ラーナの横のあの平らな岩の上に置いてもらってもいい?」
「かしこまりました」

 肉を運ぶクリスタと業務的なやり取りを交わしつつ、リリは周りを見渡す。
 イヴァとクラウディア、そこに武具のメンテナンスが終わったアンが加わりの3人で宴会を始めていた。
 ギスギスしているのかとリリは思ったが、思いのほか雰囲気は良く、和気あいあいと飲んでいる。

(珍しい組み合わせね、接点が一つもない!)

 しかし、その姿を見ているとなぜだか可笑しくて、クスクスと笑みがこぼれた。

「美味しいものを作ってあげなきゃいけないわねぇ」

 リリは小さくそう呟く。
 独り言を聞いたクリスタは、モモ肉を岩の上に置くと振り向き姿勢を正しつつ聞く。

「なにかお手伝い致しましょうか?」
「提案は嬉しいんだけど忙しくない? 大丈夫?」
「解体はまもなく終わりますし、クラウディア様もあんな感じなので大丈夫です」

 クリスタ自身には皮肉を言ったつもりはない、しかし身じろぎ一つせず無言で答える姿がリリにはそう見えた。
 だからこそ明るくお茶目にリリは答えた。

「いやぁーこっちの連れがごめんー、それならクリスタにお願いしちゃってもいいかな?」

(あれってイヴァが始めた酒盛りにクラウディアを巻き込んだっぽいしなぁ、イヴァ! クラウディアは元とはいえ貴族様なんだから飲ませすぎないでよ)

「いえっそういう意味ではなく、あんなに楽しそうなクラウディア様は久しぶりに見ました。本当にありがとうございます」

 クリスタはリリの態度から察したのか、先程の言葉を訂正しお礼を言う。

「わざわざこんなところまで助けに来てくれたんだし、こちらこそお礼を言わなきゃだよー、ありがとう」
「いえいえ……」

 若干気まずい沈黙が二人の間に流れた、リリの周りは破天荒というか変な人が多い、だからこそ真面目に接してくるクリスタに違和感がぬぐえない。
 それにクリスタは無表情で無感情な口調で喋るので、リリは正直苦手だった。

「……さぁ作ろっ! クリスタの大好きなクラウディア様が泣いて喜ぶような、美味しくておしゃれな料理をねっ!」

 気まずい空気を振り払う様にウィンクをしたリリ。
 クリスタは恥ずかしそうに下を向き、リリが見たことないような朗らかな笑顔で微笑むと小さくうなずいた。

(クリスタが笑ったとこ始めてみた! なんだぁ笑うんじゃない、表情筋が死んでるのかと思ってたわ)

 よくよく考えると笑わないメイドって可笑しい、リリはクリスタは来客の応対とかしないのか疑問に思ったが、まだ聞けるほどの仲では無いので口をつぐんだ。

「では始めましょうか、リリ様どう致しますか?」

 あっという間にクリスタの表情は既に普段通りに戻っていた、


【ロック鳥のガランティーヌ】

[1、もも肉を成形する]

「まずは骨を取って四角くなるように、切ったり叩いたりして広げていきたいんだけど……出来そう?」
「はい、構造は普通の鳥と同じですので、問題ありません」
「じゃあお願いするね、その間にわたしは別の仕込みをしてくるわ」
「わかりました」

 丁寧なお辞儀をするクリスタの振る舞いは、やはり貴族のメイドといった所であろう、無表情なことを除けばメイドそのものだ。

(本物のメイドってこんなもんなのかなぁ?)

 リリも軽くお辞儀をし、鶏もも肉に包む中身の仕込みを始めることにした。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

授かったスキルが【草】だったので家を勘当されたから悲しくてスキルに不満をぶつけたら国に恐怖が訪れて草

ラララキヲ
ファンタジー
(※[両性向け]と言いたい...)  10歳のグランは家族の見守る中でスキル鑑定を行った。グランのスキルは【草】。草一本だけを生やすスキルに親は失望しグランの為だと言ってグランを捨てた。  親を恨んだグランはどこにもぶつける事の出来ない気持ちを全て自分のスキルにぶつけた。  同時刻、グランを捨てた家族の居る王都では『謎の笑い声』が響き渡った。その笑い声に人々は恐怖し、グランを捨てた家族は……── ※確認していないので二番煎じだったらごめんなさい。急に思いついたので書きました! ※「妻」に対する暴言があります。嫌な方は御注意下さい※ ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

(完結)足手まといだと言われパーティーをクビになった補助魔法師だけど、足手まといになった覚えは無い!

ちゃむふー
ファンタジー
今までこのパーティーで上手くやってきたと思っていた。 なのに突然のパーティークビ宣言!! 確かに俺は直接の攻撃タイプでは無い。 補助魔法師だ。 俺のお陰で皆の攻撃力防御力回復力は約3倍にはなっていた筈だ。 足手まといだから今日でパーティーはクビ?? そんな理由認められない!!! 俺がいなくなったら攻撃力も防御力も回復力も3分の1になるからな?? 分かってるのか? 俺を追い出した事、絶対後悔するからな!!! ファンタジー初心者です。 温かい目で見てください(*'▽'*) 一万文字以下の短編の予定です!

婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした

アルト
ファンタジー
今から七年前。 婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。 そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。 そして現在。 『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。 彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。

幼馴染み達が寝取られたが,別にどうでもいい。

みっちゃん
ファンタジー
私達は勇者様と結婚するわ! そう言われたのが1年後に再会した幼馴染みと義姉と義妹だった。 「.....そうか,じゃあ婚約破棄は俺から両親達にいってくるよ。」 そう言って俺は彼女達と別れた。 しかし彼女達は知らない自分達が魅了にかかっていることを、主人公がそれに気づいていることも,そして,最初っから主人公は自分達をあまり好いていないことも。

伯爵家の次男に転生しましたが、10歳で当主になってしまいました

竹桜
ファンタジー
 自動運転の試験車両に轢かれて、死んでしまった主人公は異世界のランガン伯爵家の次男に転生した。  転生後の生活は順調そのものだった。  だが、プライドだけ高い兄が愚かな行為をしてしまった。  その結果、主人公の両親は当主の座を追われ、主人公が10歳で当主になってしまった。  これは10歳で当主になってしまった者の物語だ。

[完結]回復魔法しか使えない私が勇者パーティを追放されたが他の魔法を覚えたら最強魔法使いになりました

mikadozero
ファンタジー
3月19日 HOTランキング4位ありがとうございます。三月二十日HOTランキング2位ありがとうございます。 ーーーーーーーーーーーーー エマは突然勇者パーティから「お前はパーティを抜けろ」と言われて追放されたエマは生きる希望を失う。 そんなところにある老人が助け舟を出す。 そのチャンスをエマは自分のものに変えようと努力をする。 努力をすると、結果がついてくるそう思い毎日を過ごしていた。 エマは一人前の冒険者になろうとしていたのだった。

異世界転生したらよくわからない騎士の家に生まれたので、とりあえず死なないように気をつけていたら無双してしまった件。

星の国のマジシャン
ファンタジー
 引きこもりニート、40歳の俺が、皇帝に騎士として支える分家の貴族に転生。  そして魔法剣術学校の剣術科に通うことなるが、そこには波瀾万丈な物語が生まれる程の過酷な「必須科目」の数々が。  本家VS分家の「決闘」や、卒業と命を懸け必死で戦い抜く「魔物サバイバル」、さらには40年の弱男人生で味わったことのない甘酸っぱい青春群像劇やモテ期も…。  この世界を動かす、最大の敵にご注目ください!

処理中です...