上 下
89 / 115

14話、討伐隊(6)

しおりを挟む
「ダメだ、来る! リリは日記もって待ってて」

 そう言うと、ラーナは日記をリリに投げ渡し、懐から小瓶を取り出しグイッと飲み干す。
 そして傍から見たら怪我をしてしまいそうなほどの、物凄い勢いで崖を降りていった。

「ラーナ、待って!」
「リリ様、戦闘は避けられない、そうラーナは判断したのでしょう」
「行きなさいクリスタ、依頼者に死なれては困るわ」
「クラウディア様の御心のままに」

 軽い会釈をしたクリスタは、ラーナを追う様にトントンと華麗に岩を渡り下っていた。

「ヴォオオォォォォー!!」

 下についたラーナが大きな咆哮を上げた。
 ロック鳥を誘導するためだ、ロック鳥はそれに気づいたのか、元から分かっていたのかは分からないが、一気にラーナの元へと飛びつく。

 ピェエーーーー!!

 何十倍もあるようなロック鳥に飛び込むラーナ。
 両手には普段よりも少し大きいナイフ、そのままラーナのナイフとロック鳥の鉤爪がものすごい勢いでぶつかり合う。

 ガギンッ!

 鈍い音を響かせて両者が止まった。

(ラーナは怖くないの? わたしなんて隅で震えて、どっか行くのを待っていることしかできなかったのに)

「うおぉーー」

 そのままラーナは両手のナイフを地面に落とすとロック鳥の方脚を掴み、背負投げのように地面に叩き落とそうとする。
 しかしロック鳥は翼をはためかせて堪えた。

「簡単には倒せないか! クリスタ予定変更! このままで風切り羽を!」
「承知しました」

 飛び立とうとするロック鳥と、地面に叩きつけようとするラーナ。
 お互いが牽制し合いながら、大きな動きが取れないなか、ラーナの横からクリスタがロック鳥の右翼に向かって、羽のようにフワリと飛び上がる。

(流石はファンタジー、あれは前世だったら人間やめてるわ、人種と人間は別物なのかもしれないわね)

 クリスタはリリの知る人間よりも三倍ほどは飛んでいる。
 そのまま羽の先を数枚切り落とすと、パラパラと羽が散っていく。

「クリスタすごーい、身体能力高すぎじゃない?」

 ファンタジーだからと、素直に感嘆の声を上げるリリに、クラウディアが訂正をした。

「あれはわたくしの付与魔法を施しているからですわ」

(へぇーやっぱりクラウディアって優秀なんだ。言わないけど)

「それであんなに飛べるの?」
「クリスタは音を立てず戦う暗の物、所々に色々な魔石をつけた防具をつけていますのよ、あの跳躍はエアブーツのおかげですわね」
「へぇー、魔道具ってやつ?」
「そうね、あれの魔石もわたくしが付与魔法を施しているのよ」
「すごいわね」
「わたくしは天才ですから! 褒め称えてもよろしくてよ、妖精!」

 口元をモグモグさせながらリリを指差すクラウディア。
 まだ、ホーリーバジルが食べきれていないらしい。

(こう言われると余計に褒める気をなくすわー、しかも食べながらなんて、お嬢様にあるまじきはしたなさね、めってしちゃうぞ)

 心の中でクスクスと笑い、舌を出したリリ。
 いかにも真面目に聞いています、といった表情で改めてクラウディアに聞く。

「そんなことより、クラウディアは加勢しないの?」
「そんなことって……まぁいいですわ、もちろん魔力が回復したらしますわ」

 辟易した態度でクラウディアが答えた。

「すぐに回復するもんなの?」

(ってか、どういう理屈で魔力って回復するの?)

「そのために、こうやってホーリーバジルを食べているのでしょう?」
「じゃあさっさと食べたら?」

 理由は分からないが、ホーリーバジルには魔力を回復させる効果があるらしい。

(だからクラウディアは葉っぱを齧っていたのね、ホーリーバジルには魔力が宿っているのかなぁ?)

「わたくしホーリーバジルの味が苦手で……だからもう少々したら参加しますわ」
「あーなるほどねー」

 クラウディアは枝についていた最後の葉を摘み取り齧りだす。
 その姿も、リリから見るとどこか上品で急いでいるようには見えないが、人それぞれだと納得することにした。

(あとで細かいことをイヴァとソフィアに聞いてみよ、いいことを聞いたわ!)

 シュン、パッ! シュン、パッ! シュン、パッ!

 モグモグするクラウディアの目線の先にはアンとイヴァ。
 テレポートでクリスタが伝っていた岩を順々に渡り、どんどんと降りていた。
 下にたどり着くには、もう少し時間がかかりそうだ。

「ずっと気になっていたのですが、なんであのダークエルフは、あんなにちまちまと渡っているのですの?」
「何かおかしい?」
「普通、転移ができる程の魔道士なのであれば、見えるところには移れるでしょう? 妖精あなたは理由を知っていて?」

 クラウディアは、まだモグモグと口を動かしながら聞く。

(へーそーなんだ、でもこれって答えていいんだっけ? まぁいっか助けに来てくれてるわけだし悪いことにはならないでしょ?)

 リリは何も考えずにサラッと答えた。

「イヴァは短い距離しか転移が使えないんだってさ、だからあの岩と岩を飛び越えるのが精一杯なんじゃない? 変わった子でしょ?」
「なにか制限でもあるのかしら? 時空魔法は禁忌に近い魔法、わたくしも専門外でよくわかりませんが……」

(禁忌って言った? めっちゃ不穏なんですけどー)

「まぁ、わからないことを気にしても無駄ですわね」
「そうねー」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

授かったスキルが【草】だったので家を勘当されたから悲しくてスキルに不満をぶつけたら国に恐怖が訪れて草

ラララキヲ
ファンタジー
(※[両性向け]と言いたい...)  10歳のグランは家族の見守る中でスキル鑑定を行った。グランのスキルは【草】。草一本だけを生やすスキルに親は失望しグランの為だと言ってグランを捨てた。  親を恨んだグランはどこにもぶつける事の出来ない気持ちを全て自分のスキルにぶつけた。  同時刻、グランを捨てた家族の居る王都では『謎の笑い声』が響き渡った。その笑い声に人々は恐怖し、グランを捨てた家族は……── ※確認していないので二番煎じだったらごめんなさい。急に思いついたので書きました! ※「妻」に対する暴言があります。嫌な方は御注意下さい※ ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

(完結)足手まといだと言われパーティーをクビになった補助魔法師だけど、足手まといになった覚えは無い!

ちゃむふー
ファンタジー
今までこのパーティーで上手くやってきたと思っていた。 なのに突然のパーティークビ宣言!! 確かに俺は直接の攻撃タイプでは無い。 補助魔法師だ。 俺のお陰で皆の攻撃力防御力回復力は約3倍にはなっていた筈だ。 足手まといだから今日でパーティーはクビ?? そんな理由認められない!!! 俺がいなくなったら攻撃力も防御力も回復力も3分の1になるからな?? 分かってるのか? 俺を追い出した事、絶対後悔するからな!!! ファンタジー初心者です。 温かい目で見てください(*'▽'*) 一万文字以下の短編の予定です!

婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした

アルト
ファンタジー
今から七年前。 婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。 そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。 そして現在。 『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。 彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。

幼馴染み達が寝取られたが,別にどうでもいい。

みっちゃん
ファンタジー
私達は勇者様と結婚するわ! そう言われたのが1年後に再会した幼馴染みと義姉と義妹だった。 「.....そうか,じゃあ婚約破棄は俺から両親達にいってくるよ。」 そう言って俺は彼女達と別れた。 しかし彼女達は知らない自分達が魅了にかかっていることを、主人公がそれに気づいていることも,そして,最初っから主人公は自分達をあまり好いていないことも。

伯爵家の次男に転生しましたが、10歳で当主になってしまいました

竹桜
ファンタジー
 自動運転の試験車両に轢かれて、死んでしまった主人公は異世界のランガン伯爵家の次男に転生した。  転生後の生活は順調そのものだった。  だが、プライドだけ高い兄が愚かな行為をしてしまった。  その結果、主人公の両親は当主の座を追われ、主人公が10歳で当主になってしまった。  これは10歳で当主になってしまった者の物語だ。

[完結]回復魔法しか使えない私が勇者パーティを追放されたが他の魔法を覚えたら最強魔法使いになりました

mikadozero
ファンタジー
3月19日 HOTランキング4位ありがとうございます。三月二十日HOTランキング2位ありがとうございます。 ーーーーーーーーーーーーー エマは突然勇者パーティから「お前はパーティを抜けろ」と言われて追放されたエマは生きる希望を失う。 そんなところにある老人が助け舟を出す。 そのチャンスをエマは自分のものに変えようと努力をする。 努力をすると、結果がついてくるそう思い毎日を過ごしていた。 エマは一人前の冒険者になろうとしていたのだった。

異世界転生したらよくわからない騎士の家に生まれたので、とりあえず死なないように気をつけていたら無双してしまった件。

星の国のマジシャン
ファンタジー
 引きこもりニート、40歳の俺が、皇帝に騎士として支える分家の貴族に転生。  そして魔法剣術学校の剣術科に通うことなるが、そこには波瀾万丈な物語が生まれる程の過酷な「必須科目」の数々が。  本家VS分家の「決闘」や、卒業と命を懸け必死で戦い抜く「魔物サバイバル」、さらには40年の弱男人生で味わったことのない甘酸っぱい青春群像劇やモテ期も…。  この世界を動かす、最大の敵にご注目ください!

処理中です...