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13話、ロック鳥(3)

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 アンが静かに口を開く。

「……今回は何年ぶりだ?」
「5年かなっ? 正確な日付だと、帝国歴1018年2月17日さっ」
「よくもそこまで覚えてるな」
「前回の雨期をきっかけに、私はサンドワームの秘薬を作り出したからね、よく覚えてるのさっ」
「なるほどな、そうか5年か……」
「結構、空いたねぇ」
「これはいつも以上に何が起こるか想像がつかんな、嬢ちゃん達も暫くはこの街から出ないことだ」
「それは無理だね」

 ラーナはきっぱりと断わった、それには理由がある。

(リリは良いとしても、ボクはハイ・オークだしイヴァはダークエルフだからなぁ)

 今みたいに、クエストを受けるためにちょこちょこ入るだけならともかく、長いこと受け入れる街なんて有るわけがない。
 そう経験で知っていた。

「大丈夫、ラーナ嬢ちゃんの鼻が犬人族並だとしたら2、3日後には降り始める、そして雨季自体は数日で終わるんだ」
「だから?」
「その後もある、雨季ぐらいは嬢ちゃんへの風当たりも優しくなる」

 普段よりも優しく真剣に、アンはラーナとイヴァに話しかけた。
 それによってラーナは気づいた、街の人も雨の後にモンスターを倒さなきゃいけないのだ、なので戦力になるラーナには残っていて欲しい。

(アンはわざわざ言ってくれるなんて優しい、というか珍しい人だなぁ)

 保身との為の浅ましい考え。
 それを遠回しに伝えるアンの心配りは、ラーナの人生では始めて体験した経験だった。
 アン、いやっ人族の優しい気遣いなど、あるとは思ってもいなかったのだ。

「わかった、雨が止むまで出るのはやめとく」
「そうかい?」
「ありがとう、アン」

 素直にお礼を言うラーナ。
 それを聞いたアンは安心したのか、少し笑うと立ち上がり、三人にいつもの調子で声をかけた。

「アタシは戻る、街の奴らに注意勧告を出さなきゃいかんし、騎士団や傭兵団、あとギルド長にもこの話をしないとな」
「相変わらずアンは真面目だねっ、いつもはやる気なさそうにしてるくせに」
「ソフィーと比べれば誰でもそうさ」
「酷い言い草じゃあないかっ、私泣いちゃうぞー」
「ハハッ、悪かったな、お詫びにこのエールは好きなだけ飲みな、まだ半分位は残ってるからな」

 樽を軽く叩いたアンに、酔っぱらったソフィアは茶化す。

「ヒュ~、アンの太っ腹! アンはこれから仕事だってのに悪いねぇ! ほんと、いつも頭が下がるよ」

 ラーナとイヴァは気づいていないが、最後だけ真面目に喋るソフィア。
 その様子が今回の事の大きさを感じさせている。
 アンがこの場を離れようとしたその時、急に物凄い突風が四人を襲った!
 焚き火が吹き飛ばされ、馬車でさえ宙に浮きそうなほどの突風だ。

「っ……! 何じゃー?」
「あわわ、エールがー」
「ぜ、全員しゃがめ! 身を低くするんだ」

 皆が驚いているが、違う反応をしている。
 慌てるイヴァとソフィアに、冷静を装い大声で指示を出すアン。

(……上か!)

 ラーナだけは砂嵐のような突風の中で仁王立ちをしていた。

「あれは……?」

(金色の鳥? 結構大きいな)

 腰のナイフとマントの投げナイフに手をかけ空を見上げる、その顔は既に戦闘態勢で、今まででも一番厳しい顔をしている。

「ロック鳥だ! ラーナちゃん頼むから手を出さないでくれ、あれはもう天災だ!」
「それは難しい」
「君といえども敵うわけがない」

 ソフィアが天災と呼んだ鳥は一度低く飛んだあとに急上昇し上空に戻ったようで、全員が視線を向けたときには体を翻し四人の真上に位置どっていた。
 そのまま遥か上空で、宙に静止して大きな鳴き声を上げた。

 ピェエーーーー!!

 随分と上空にいるはずなのに、聞いているものの体すら切り裂きそうなほどの甲高く鋭い鳴き声が、四人を包む、それ程の大きな鳴き声だった。

「ロック鳥じゃと? 彼らのナワバリはもっと上空の岩山とか海とか大型の生物がいる場所じゃったはずじゃが? 人里まで来るなんて普通はあり得んじゃろ?」

 イヴァは長生きしているからこそ博識だ。
 その言葉を聞いてラーナの中で腑に落ちる部分があった。

(なるほど、ボクが見たことないわけだ)

 しかし、今はそれどころじゃない。

「イヴァ! 皆も尾、来るよ? 後ろの岩陰に隠れて!」

 ロック鳥を睨みつつ三人に声をかける。
 ラーナは心の中では見たこともない強敵に心を震わせていたが、辛うじて理性も保っていた。
 視線の先のロック鳥は、遥か上空で翼を隼のようにくの字に折り曲げる。
 その瞬間、物凄い勢いで滑空して来た!

(早っ! 油断した!)

 ただ落ちるよりも速く、それは放たれた弓矢よりも圧倒的に速い。
 もうラーナが気づいたときには、手が届きそうに見える程の至近距離で止まったかのように羽ばたくロック鳥がいたのだった。
 その羽ばたき一つ一つが暴風を生み出し、殆どのものは近づくことすら許されない程の風圧だ。

(凄い風だ、まるで砂嵐の中みたい)

「みんなー、大丈夫ー?」

 ロック鳥からは目が離せないので、振り返らずにラーナは聞いた。
 後ろの方で声が聞こえる。

「なんとかー」
「岩の裏に逃げられたから大丈夫だ」
「痛ったぁ~、砂粒が刺さるように痛いのじゃ」

(この反応なら無事だね、イヴァは大げさに騒いでるだけだし、とりあえずは良かった)

 安堵し緩みそうになる緊張感を締めるように、フゥーと細く長く大きく息を吐いたラーナは、改めてロック鳥に睨みを利かせた。
 近くにいると、その存在感は一層に際立っている。
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