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11話、デザート対決(4)

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 ギルドの中は相変わらずの喧騒。
 態勢を変えず、全体を眺めるように座っているアン。
 受付に置いてある灰皿には、山のように吸い殻が積み上がっていた。

「リリ嬢ちゃん、どうした? もう出来たか?」
「もう少しですよー、ソフィアに肝油を貰いに来ました」
「っお! そうか、ソフィーならあそこにいるよ」

 顎をくいっと動かし、ソフィアを指す。
 ソフィアは猫獣人とリザードマンに絡み、ご機嫌にエールを飲んでいた。

「相変わらず自由な人……」
「だな、まぁそれがソフィーの数少ない良い所だ、見ている分には楽しいやつだからな」
「確かに! ソフィアって、見ている分には害がないものね」
「っハッハッハ! リリ嬢ちゃん、よくわかってるじゃないか!」
「はぁ……面倒そうだけど行ってきます」
「あぁ、絡まれないようになぁ」

 アンは軽く手を上げリリを見送る。
 リリの方はふわっと人の手が届かない程の高さまで飛び上がると、ソフィアの元へと向かう。

(っわぉ、上から見ると壮観ね! 圧倒的ファンタジー感、獣人でもいいからイケメンいないかなぁ……フフッ)

 若干の驚きと感動を感じつつ、中でも一際と煩いテーブルへと降りた。

「こんな時間から、そんなになるまで呑んだくれて、いい身分ですね?」
「っお、リリちゃんじゃないかっ!」
「ご機嫌ですか? まったく、もう……」

 リリはソフィアの頭をベンチに見たてて座る。
 おでこから足をだらりと下ろし、スカートを整えると足と腕を組み座った。
 ソフィアは気にも留めず答える。

「そりゃあそうさ、この世でイタズラ妖精の腰掛けになれるやつが何人いると思っているんだい? 少なからず私は二人しか知らない、ラーナちゃんとこの私さっ!」

 喜び両手を広げたソフィア、その表情は満面の笑みだ。

「ハッハッハ、ソフィア上手いこと言うじゃねぇか」

 一緒に飲んでいたリザードマンが、大きく笑い相槌を打つ。

「あー、はいはい」

 リリも適当に相槌を打ち、横のリザードマンに挨拶代わりで軽く会釈をした。

「おっとー、これは信じていないな? 1から説明してやろうかいっ?」

 不満げなソフィアに対して、猫人族の獣人が眠たそうに机に突っ伏して返事をする。

「ソフィアの説明って、どれもこれも長いし難しいからにゃあ、酒の席では聞きたくにゃい、眠たくなってくるにゃー」

 猫獣人は大きなあくびをして、ウトウトと机に突っ伏したまま目を閉じた。

(猫獣人さんが飲んでいるのはマタタビ? すっごい独特な香りだわ、味とか作り方とか気になーるー!)

 リリもソフィアに言い返した。

「猫さんの言う通り! 全くもって結構ですー」
「なんだい、つまらないねぇ」
「それよりもお菓子の味付けに使うから、ヘーゼルナッツじゃなかった、サンドワームの肝油をちょうだい!」

 おでこをコンコンと踵で叩き、リリは催促をする。
 ソフィアはリリを無視をして、猫獣人の顎を撫でる。

「あー、ミケもう寝ちゃったのかぁ、相変わらず弱いなぁ」
「わたしの話し聞いてる?」
「聞いているけど、リリちゃんはこんなものを使うのかいっ? まったく不思議な子だねぇ、どれぐらいいるんだいっ?」

 ソフィアが右手の手のひらを頭の前に出す。
 リリは手のひらに飛び乗り答えた。

「小瓶が1つ分でもあれば、十分よ」

 ソフィアはリリが乗った手のひらを顔の前に持って来ると、持っていたエールを置くと、右脇のローブの中をゴソゴソと探しだした。

「小瓶、小瓶、っと、あれっ? ないなー、た、し、か、ここに入れた気がしたんだがなぁ……」
「無いなら無理に頼みませんよ? あったらいいなって程度の物ですし」
「リリちゃんの頭の中では、あったほうが美味しく食べられるんだろう、違うのかい?」
「まぁそうね、頭の中ではだけどね」
「それなら、あったほうがいいだろう。私も少しでも美味しい物が食べたいからねぇ、っあ、あった、ここか!」

 ソフィアは胸元に手を入れる。
 横で見ていたリザードマンがヒューと口笛を吹いた。

(ソフィア、不二子ちゃんじゃない、それともピクシーになって無乳になった、わたしへの当てつけ?)

「ソフィア、もしかして喧嘩売ってる? 受けて立つわよ、ラーナが!」

 キリッと睨むリリ。
 ソフィアは胸元からリリの半分ぐらいの大きさの小瓶を出し右手に置いた。

「あったあった、これで足りるかいっ?」

 リリの挑発はソフィアに軽く受け流された。

「えぇ足りるわ」
「それは良かった、これが最後だからねっ」
「今回は気にしないことにするけど、特別なんだからね?」
「ん? なんのことだいっ?」
「……いい、小瓶は貰っていくわ」

 リリは少しだけイライラを抑えて言うと、小瓶を持って宙に飛び上がる。
 ソフィアはそれを見て大声で呼びかける。

「そんなにイライラしていたら、せっかくの美人が台無しになってしまうよー」
「誰のせいよ!」
「それと言い忘れてたけど、高く飛びすぎるとスカートの中見えちゃうよっ!」
「……っ!?」

 またもリザードマンがヒューと口笛を鳴らす。

「うるさい!!」

 怒りながらもリリは足でドレスのスカートを挟む。
 気になったのか、先程よりも上まで上り、受付へと向かった。

「案の定絡まれたか」

 リリの表情と態度を見たアンが言う。
 当のリリは、ブツブツと言い受付に戻ってきた。

「まったく、ソフィアは」
「まぁまぁ、あれはあれで良いやつなんだ」
「もう! キッチンに戻ります!」

 小瓶を抱えてすぐさまキッチンに戻った。

「あいよー」

 アンは軽く右手を上げ、答えた。

(これから、スカートは気をつけなきゃ)
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