上 下
70 / 115

11話、デザート対決(4)

しおりを挟む
 ギルドの中は相変わらずの喧騒。
 態勢を変えず、全体を眺めるように座っているアン。
 受付に置いてある灰皿には、山のように吸い殻が積み上がっていた。

「リリ嬢ちゃん、どうした? もう出来たか?」
「もう少しですよー、ソフィアに肝油を貰いに来ました」
「っお! そうか、ソフィーならあそこにいるよ」

 顎をくいっと動かし、ソフィアを指す。
 ソフィアは猫獣人とリザードマンに絡み、ご機嫌にエールを飲んでいた。

「相変わらず自由な人……」
「だな、まぁそれがソフィーの数少ない良い所だ、見ている分には楽しいやつだからな」
「確かに! ソフィアって、見ている分には害がないものね」
「っハッハッハ! リリ嬢ちゃん、よくわかってるじゃないか!」
「はぁ……面倒そうだけど行ってきます」
「あぁ、絡まれないようになぁ」

 アンは軽く手を上げリリを見送る。
 リリの方はふわっと人の手が届かない程の高さまで飛び上がると、ソフィアの元へと向かう。

(っわぉ、上から見ると壮観ね! 圧倒的ファンタジー感、獣人でもいいからイケメンいないかなぁ……フフッ)

 若干の驚きと感動を感じつつ、中でも一際と煩いテーブルへと降りた。

「こんな時間から、そんなになるまで呑んだくれて、いい身分ですね?」
「っお、リリちゃんじゃないかっ!」
「ご機嫌ですか? まったく、もう……」

 リリはソフィアの頭をベンチに見たてて座る。
 おでこから足をだらりと下ろし、スカートを整えると足と腕を組み座った。
 ソフィアは気にも留めず答える。

「そりゃあそうさ、この世でイタズラ妖精の腰掛けになれるやつが何人いると思っているんだい? 少なからず私は二人しか知らない、ラーナちゃんとこの私さっ!」

 喜び両手を広げたソフィア、その表情は満面の笑みだ。

「ハッハッハ、ソフィア上手いこと言うじゃねぇか」

 一緒に飲んでいたリザードマンが、大きく笑い相槌を打つ。

「あー、はいはい」

 リリも適当に相槌を打ち、横のリザードマンに挨拶代わりで軽く会釈をした。

「おっとー、これは信じていないな? 1から説明してやろうかいっ?」

 不満げなソフィアに対して、猫人族の獣人が眠たそうに机に突っ伏して返事をする。

「ソフィアの説明って、どれもこれも長いし難しいからにゃあ、酒の席では聞きたくにゃい、眠たくなってくるにゃー」

 猫獣人は大きなあくびをして、ウトウトと机に突っ伏したまま目を閉じた。

(猫獣人さんが飲んでいるのはマタタビ? すっごい独特な香りだわ、味とか作り方とか気になーるー!)

 リリもソフィアに言い返した。

「猫さんの言う通り! 全くもって結構ですー」
「なんだい、つまらないねぇ」
「それよりもお菓子の味付けに使うから、ヘーゼルナッツじゃなかった、サンドワームの肝油をちょうだい!」

 おでこをコンコンと踵で叩き、リリは催促をする。
 ソフィアはリリを無視をして、猫獣人の顎を撫でる。

「あー、ミケもう寝ちゃったのかぁ、相変わらず弱いなぁ」
「わたしの話し聞いてる?」
「聞いているけど、リリちゃんはこんなものを使うのかいっ? まったく不思議な子だねぇ、どれぐらいいるんだいっ?」

 ソフィアが右手の手のひらを頭の前に出す。
 リリは手のひらに飛び乗り答えた。

「小瓶が1つ分でもあれば、十分よ」

 ソフィアはリリが乗った手のひらを顔の前に持って来ると、持っていたエールを置くと、右脇のローブの中をゴソゴソと探しだした。

「小瓶、小瓶、っと、あれっ? ないなー、た、し、か、ここに入れた気がしたんだがなぁ……」
「無いなら無理に頼みませんよ? あったらいいなって程度の物ですし」
「リリちゃんの頭の中では、あったほうが美味しく食べられるんだろう、違うのかい?」
「まぁそうね、頭の中ではだけどね」
「それなら、あったほうがいいだろう。私も少しでも美味しい物が食べたいからねぇ、っあ、あった、ここか!」

 ソフィアは胸元に手を入れる。
 横で見ていたリザードマンがヒューと口笛を吹いた。

(ソフィア、不二子ちゃんじゃない、それともピクシーになって無乳になった、わたしへの当てつけ?)

「ソフィア、もしかして喧嘩売ってる? 受けて立つわよ、ラーナが!」

 キリッと睨むリリ。
 ソフィアは胸元からリリの半分ぐらいの大きさの小瓶を出し右手に置いた。

「あったあった、これで足りるかいっ?」

 リリの挑発はソフィアに軽く受け流された。

「えぇ足りるわ」
「それは良かった、これが最後だからねっ」
「今回は気にしないことにするけど、特別なんだからね?」
「ん? なんのことだいっ?」
「……いい、小瓶は貰っていくわ」

 リリは少しだけイライラを抑えて言うと、小瓶を持って宙に飛び上がる。
 ソフィアはそれを見て大声で呼びかける。

「そんなにイライラしていたら、せっかくの美人が台無しになってしまうよー」
「誰のせいよ!」
「それと言い忘れてたけど、高く飛びすぎるとスカートの中見えちゃうよっ!」
「……っ!?」

 またもリザードマンがヒューと口笛を鳴らす。

「うるさい!!」

 怒りながらもリリは足でドレスのスカートを挟む。
 気になったのか、先程よりも上まで上り、受付へと向かった。

「案の定絡まれたか」

 リリの表情と態度を見たアンが言う。
 当のリリは、ブツブツと言い受付に戻ってきた。

「まったく、ソフィアは」
「まぁまぁ、あれはあれで良いやつなんだ」
「もう! キッチンに戻ります!」

 小瓶を抱えてすぐさまキッチンに戻った。

「あいよー」

 アンは軽く右手を上げ、答えた。

(これから、スカートは気をつけなきゃ)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

【完結】実家に捨てられた私は侯爵邸に拾われ、使用人としてのんびりとスローライフを満喫しています〜なお、実家はどんどん崩壊しているようです〜

よどら文鳥
恋愛
 フィアラの父は、再婚してから新たな妻と子供だけの生活を望んでいたため、フィアラは邪魔者だった。  フィアラは毎日毎日、家事だけではなく父の仕事までも強制的にやらされる毎日である。  だがフィアラが十四歳になったとある日、長く奴隷生活を続けていたデジョレーン子爵邸から抹消される運命になる。  侯爵がフィアラを除名したうえで専属使用人として雇いたいという申し出があったからだ。  金銭面で余裕のないデジョレーン子爵にとってはこのうえない案件であったため、フィアラはゴミのように捨てられた。  父の発言では『侯爵一家は非常に悪名高く、さらに過酷な日々になるだろう』と宣言していたため、フィアラは不安なまま侯爵邸へ向かう。  だが侯爵邸で待っていたのは過酷な毎日ではなくむしろ……。  いっぽう、フィアラのいなくなった子爵邸では大金が入ってきて全員が大喜び。  さっそくこの大金を手にして新たな使用人を雇う。  お金にも困らずのびのびとした生活ができるかと思っていたのだが、現実は……。

異世界転生したらよくわからない騎士の家に生まれたので、とりあえず死なないように気をつけていたら無双してしまった件。

星の国のマジシャン
ファンタジー
 引きこもりニート、40歳の俺が、皇帝に騎士として支える分家の貴族に転生。  そして魔法剣術学校の剣術科に通うことなるが、そこには波瀾万丈な物語が生まれる程の過酷な「必須科目」の数々が。  本家VS分家の「決闘」や、卒業と命を懸け必死で戦い抜く「魔物サバイバル」、さらには40年の弱男人生で味わったことのない甘酸っぱい青春群像劇やモテ期も…。  この世界を動かす、最大の敵にご注目ください!

【完結】『サヨナラ』そう呟き、崖から身を投げようとする私の手を誰かに引かれました。

仰木 あん
ファンタジー
継母に苛められ、義理の妹には全てを取り上げられる。 実の父にも蔑まれ、生きる希望を失ったアメリアは、家を抜け出し、海へと向かう。 たどり着いた崖から身を投げようとするアメリアは、見知らぬ人物に手を引かれ、一命を取り留める。 そんなところから、彼女の運命は好転をし始める。 そんなお話。 フィクションです。 名前、団体、関係ありません。 設定はゆるいと思われます。 ハッピーなエンドに向かっております。 12、13、14、15話は【胸糞展開】になっておりますのでご注意下さい。 登場人物 アメリア=フュルスト;主人公…二十一歳 キース=エネロワ;公爵…二十四歳 マリア=エネロワ;キースの娘…五歳 オリビエ=フュルスト;アメリアの実父 ソフィア;アメリアの義理の妹二十歳 エリザベス;アメリアの継母 ステルベン=ギネリン;王国の王

【完結】公女が死んだ、その後のこと

杜野秋人
恋愛
【第17回恋愛小説大賞 奨励賞受賞しました!】 「お母様……」 冷たく薄暗く、不潔で不快な地下の罪人牢で、彼女は独り、亡き母に語りかける。その掌の中には、ひと粒の小さな白い錠剤。 古ぼけた簡易寝台に座り、彼女はそのままゆっくりと、覚悟を決めたように横たわる。 「言いつけを、守ります」 最期にそう呟いて、彼女は震える手で錠剤を口に含み、そのまま飲み下した。 こうして、第二王子ボアネルジェスの婚約者でありカストリア公爵家の次期女公爵でもある公女オフィーリアは、獄中にて自ら命を断った。 そして彼女の死後、その影響はマケダニア王国の王宮内外の至るところで噴出した。 「ええい、公務が回らん!オフィーリアは何をやっている!?」 「殿下は何を仰せか!すでに公女は儚くなられたでしょうが!」 「くっ……、な、ならば蘇生させ」 「あれから何日経つとお思いで!?お気は確かか!」 「何故だ!何故この私が裁かれねばならん!」 「そうよ!お父様も私も何も悪くないわ!悪いのは全部お義姉さまよ!」 「…………申し開きがあるのなら、今ここではなく取り調べと裁判の場で存分に申すがよいわ。⸺連れて行け」 「まっ、待て!話を」 「嫌ぁ〜!」 「今さら何しに戻ってきたかね先々代様。わしらはもう、公女さま以外にお仕えする気も従う気もないんじゃがな?」 「なっ……貴様!領主たる儂の言うことが聞けんと」 「領主だったのは亡くなった女公さまとその娘の公女さまじゃ。あの方らはあんたと違って、わしら領民を第一に考えて下さった。あんたと違ってな!」 「くっ……!」 「なっ、譲位せよだと!?」 「本国の決定にございます。これ以上の混迷は連邦友邦にまで悪影響を与えかねないと。⸺潔く観念なさいませ。さあ、ご署名を」 「おのれ、謀りおったか!」 「…………父上が悪いのですよ。あの時止めてさえいれば、彼女は死なずに済んだのに」 ◆人が亡くなる描写、及びベッドシーンがあるのでR15で。生々しい表現は避けています。 ◆公女が亡くなってからが本番。なので最初の方、恋愛要素はほぼありません。最後はちゃんとジャンル:恋愛です。 ◆ドアマットヒロインを書こうとしたはずが。どうしてこうなった? ◆作中の演出として自死のシーンがありますが、決して推奨し助長するものではありません。早まっちゃう前に然るべき窓口に一言相談を。 ◆作者の作品は特に断りなき場合、基本的に同一の世界観に基づいています。が、他作品とリンクする予定は特にありません。本作単品でお楽しみ頂けます。 ◆この作品は小説家になろうでも公開します。 ◆24/2/17、HOTランキング女性向け1位!?1位は初ですありがとうございます!

異世界人生を楽しみたい そのためにも赤ん坊から努力する

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前は朝霧 雷斗(アサギリ ライト) 前世の記憶を持ったまま僕は別の世界に転生した 生まれてからすぐに両親の持っていた本を読み魔法があることを学ぶ 魔力は筋力と同じ、訓練をすれば上達する ということで努力していくことにしました

【完結】婚約破棄されて修道院へ送られたので、今後は自分のために頑張ります!

猫石
ファンタジー
「ミズリーシャ・ザナスリー。 公爵の家門を盾に他者を蹂躙し、悪逆非道を尽くしたお前の所業! 決して許してはおけない! よって我がの名の元にお前にはここで婚約破棄を言い渡す! 今後は修道女としてその身を神を捧げ、生涯後悔しながら生きていくがいい!」 無実の罪を着せられた私は、その瞬間に前世の記憶を取り戻した。 色々と足りない王太子殿下と婚約破棄でき、その後の自由も確約されると踏んだ私は、意気揚々と王都のはずれにある小さな修道院へ向かったのだった。 注意⚠️このお話には、妊娠出産、新生児育児のお話がバリバリ出てきます。(訳ありもあります)お嫌いな方は自衛をお願いします! 2023/10/12 作者の気持ち的に、断罪部分を最後の番外にしました。 2023/10/31第16回ファンタジー小説大賞奨励賞頂きました。応援・投票ありがとうございました! ☆このお話は完全フィクションです、創作です、妄想の作り話です。現実世界と混同せず、あぁ、ファンタジーだもんな、と、念頭に置いてお読みください。 ☆作者の趣味嗜好作品です。イラッとしたり、ムカッとしたりした時には、そっと別の素敵な作家さんの作品を検索してお読みください。(自己防衛大事!) ☆誤字脱字、誤変換が多いのは、作者のせいです。頑張って音読してチェックして!頑張ってますが、ごめんなさい、許してください。 ★小説家になろう様でも公開しています。

処理中です...