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11話、デザート対決(2)
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ラーナの手際の良さに安心したリリは、イヴァを見ることにする。
(イヴァは大丈夫かなー?)
ドサッ! ザザー!
イヴァは机の上に直置きしたザルに向かって、ドバーッと全てを出していた。
逆さにした布袋から、小麦粉が勢いよく落ちると、粉が舞い上がる。
「っうわ! 煙たいのじゃ! ゴホッゴホッ」
左手で手の前を仰ぐイヴァとリリ。
リリは天を仰ぎたい気持ちになった。
(マジかコイツ、いくらなんでも要領が悪過ぎない? もう失敗する未来しか見えないんですけど~)
「大丈夫ですかー?」
少しだけ呆れた声で聞くリリ。
「これは駄目じゃな、妾には手に負えんわ、煙い! ……真っ白じゃ!」
(そりゃそうでしょうとも!)
「オーケー、説明するわ! ゆっくりやりましょ」
「嫌じゃ、妾は働きとうない!」
ズバッと言い切ったイヴァにリリはフンッと顔を逸らし、投げやりに言い返す。
「なら、いーです」
「ほんとうかや?」
「ラーナにやって貰いますもーん、その代わりイヴァの分は無しですからねー」
(イヴァはどう出るかな? 諦めるのか、乗ってくるのか、怒り出すのか……)
リリが若干の期待を込めて見ると、イヴァは分かりやすい表情を見せ答えた。
「っえ!? それは、嫌じゃ!」
「働かざる者、食うべからずよ!」
「うーむ……やる、やればいいんじゃろ? リリは、ワガママじゃのー」
(どの口でワガママなんて言ってるの? ワガママはイヴァじゃない、まぁやるって言ってるし、いっかー)
「わかったわ、じゃあザルが入る大きい器を用意しましょ……」
「なんでじゃ?」
「直置きだからよ! ふるった粉は使うんだからね」
「そのまま使えばよかろうに」
「使いづらいじゃない! 粉をなるべく下に落とさないように、そーっとやってよ?」
「わかっとる……のじゃ……」
イヴァは恐る恐る手を出すと、そーっとザルを持ち上げ、器にふるっていく。
パラパラと落ちてきた粉がボールに降り積もる。
(あとは、後片付けっと)
リリは机に残った大量の小麦粉を風魔法で巻き上げ、イヴァの持つザルに戻した。
魔法にも大分と慣れて来たようで、魔法の行使も風の動きも自由自在に見える。
(とりあえずはオッケー、イヴァにはわたしが思っているよりも、三段階ぐらい丁寧に教えないと駄目っぽいなー)
リリはザルを持ち固まったままのイヴァに、身振りをつけて説明を始めた。
「ザルを少しだけ、下の粉に当たらないように、ほんのすこーしだけ持ち上げて」
「こ、こうかや?」
「そうそう、あとは片手でトントンと叩いて、下に落として行くの?」
「お、重いのじゃ」
「それなら、横に軽く振れば落ちるわ、ゆっくりで良いからね」
「わかったのじゃ、任せとけ!」
イヴァは真剣な表情で、ゆっくりと腕を動かす。
慣れていないので体まで揺れるイヴァが微笑ましく、リリはニコニコと眺めている。
リリはの後ろ、聞きなれない甲高い声で呼びかけられた。
「まだそんな段階ですの? 間に合うの?」
「そんなことを言っては可哀想ですわ、きっと亜人は手も頭の回転も遅いのですよ、クラウディア様」
「フフッこのダークエルフの動き、ゆっくり過ぎてハエが止まりそう」
(確かに遅いけど、優しく見守りなさいよ! むしろ微笑ましいじゃない!)
リリは聞こえないように小さくため息をつくと、外面モード全開で答えた。
「ハァ、クラウディア様は何の用ですか? そちらは終わったのですか?」
クラウディアは腰に手を当て堂々と答える。
「勿論ですわ! 焼き上がったら、盛り付けて完成ですわ」
ディアナがすかさず相槌を打つ。
「流石はクラウディアお嬢様、時間配分も完璧で御座います」
(この御者さんヨイショが凄いわね? 見てるだけでだるいんだけど……)
リリはクラウディアがお菓子を作っていた調理台をチラッと見る。
綺麗に整頓された器には一口大に切った果物、余った材料や皮、器具などはエマがせかせかと片付けている。
その奥、石造りのオーブンをじーっと覗き込んでいるクリスタ、お菓子に夢中でクラウディア達に気づいてもいない。
(片付けまで終わっているじゃない、意外と料理上手なんだー)
オーブンからは最初から香る小麦粉の焼けた香ばしい匂い、更には焦がしバターの食欲を誘う良い匂いが立ち上っている。
(ラーナが言っていた酸っぱい匂いって、果物のこと? そうすると柑橘系かベリー系?)
少し考えてみるが、リリは気にしないことにした。
食べるときに知らないほうが面白そうだと感じたからだ。
「わたし達も時間には間に合わせるので、大丈夫です」
「小麦粉を使うということは焼き菓子なのでしょう? この段階でオーブンに入れていないのに間に合うなんてありえないでしょう! クラウディア様に嘘は止めなさい! 亜人のくせに!」
ディアナがもっともらしいことを、もっともらしく言う。
クラウディアはゆっくりとリリに近づくと、こっそりと提案をした。
「……時間を延ばして差し上げても、よろしくてよ? 不戦勝なんてわたくしは望んでいないもの」
(想像している焼き菓子なら、そうでしょうね)
「大丈夫です! 間に合わせますので見ておいてください!」
リリはフンッと胸を張る。
「また噓をっ!」
ディアナが声を張り上げようとした、その時。
「リリー終わったよー、ん? どうしたの?」
ラーナが卵を移し終え、リリに話し掛ける。
「っ! せいぜい虚勢じゃないことを楽しみにしてますわ!」
ディアナは少し声を強張らせ言うと、直ぐに振り向きいそいそとその場を離れた。
(あれっ? さっきの一悶着でラーナが怖くなっちゃった? 小物感が半端ないわー)
「わたくしも、本当に楽しみにしていますわ!」
ニコッと笑いリリに耳打ちすると、クラウディアはコツコツと靴を鳴らしながら戻っていった。
(イヴァは大丈夫かなー?)
ドサッ! ザザー!
イヴァは机の上に直置きしたザルに向かって、ドバーッと全てを出していた。
逆さにした布袋から、小麦粉が勢いよく落ちると、粉が舞い上がる。
「っうわ! 煙たいのじゃ! ゴホッゴホッ」
左手で手の前を仰ぐイヴァとリリ。
リリは天を仰ぎたい気持ちになった。
(マジかコイツ、いくらなんでも要領が悪過ぎない? もう失敗する未来しか見えないんですけど~)
「大丈夫ですかー?」
少しだけ呆れた声で聞くリリ。
「これは駄目じゃな、妾には手に負えんわ、煙い! ……真っ白じゃ!」
(そりゃそうでしょうとも!)
「オーケー、説明するわ! ゆっくりやりましょ」
「嫌じゃ、妾は働きとうない!」
ズバッと言い切ったイヴァにリリはフンッと顔を逸らし、投げやりに言い返す。
「なら、いーです」
「ほんとうかや?」
「ラーナにやって貰いますもーん、その代わりイヴァの分は無しですからねー」
(イヴァはどう出るかな? 諦めるのか、乗ってくるのか、怒り出すのか……)
リリが若干の期待を込めて見ると、イヴァは分かりやすい表情を見せ答えた。
「っえ!? それは、嫌じゃ!」
「働かざる者、食うべからずよ!」
「うーむ……やる、やればいいんじゃろ? リリは、ワガママじゃのー」
(どの口でワガママなんて言ってるの? ワガママはイヴァじゃない、まぁやるって言ってるし、いっかー)
「わかったわ、じゃあザルが入る大きい器を用意しましょ……」
「なんでじゃ?」
「直置きだからよ! ふるった粉は使うんだからね」
「そのまま使えばよかろうに」
「使いづらいじゃない! 粉をなるべく下に落とさないように、そーっとやってよ?」
「わかっとる……のじゃ……」
イヴァは恐る恐る手を出すと、そーっとザルを持ち上げ、器にふるっていく。
パラパラと落ちてきた粉がボールに降り積もる。
(あとは、後片付けっと)
リリは机に残った大量の小麦粉を風魔法で巻き上げ、イヴァの持つザルに戻した。
魔法にも大分と慣れて来たようで、魔法の行使も風の動きも自由自在に見える。
(とりあえずはオッケー、イヴァにはわたしが思っているよりも、三段階ぐらい丁寧に教えないと駄目っぽいなー)
リリはザルを持ち固まったままのイヴァに、身振りをつけて説明を始めた。
「ザルを少しだけ、下の粉に当たらないように、ほんのすこーしだけ持ち上げて」
「こ、こうかや?」
「そうそう、あとは片手でトントンと叩いて、下に落として行くの?」
「お、重いのじゃ」
「それなら、横に軽く振れば落ちるわ、ゆっくりで良いからね」
「わかったのじゃ、任せとけ!」
イヴァは真剣な表情で、ゆっくりと腕を動かす。
慣れていないので体まで揺れるイヴァが微笑ましく、リリはニコニコと眺めている。
リリはの後ろ、聞きなれない甲高い声で呼びかけられた。
「まだそんな段階ですの? 間に合うの?」
「そんなことを言っては可哀想ですわ、きっと亜人は手も頭の回転も遅いのですよ、クラウディア様」
「フフッこのダークエルフの動き、ゆっくり過ぎてハエが止まりそう」
(確かに遅いけど、優しく見守りなさいよ! むしろ微笑ましいじゃない!)
リリは聞こえないように小さくため息をつくと、外面モード全開で答えた。
「ハァ、クラウディア様は何の用ですか? そちらは終わったのですか?」
クラウディアは腰に手を当て堂々と答える。
「勿論ですわ! 焼き上がったら、盛り付けて完成ですわ」
ディアナがすかさず相槌を打つ。
「流石はクラウディアお嬢様、時間配分も完璧で御座います」
(この御者さんヨイショが凄いわね? 見てるだけでだるいんだけど……)
リリはクラウディアがお菓子を作っていた調理台をチラッと見る。
綺麗に整頓された器には一口大に切った果物、余った材料や皮、器具などはエマがせかせかと片付けている。
その奥、石造りのオーブンをじーっと覗き込んでいるクリスタ、お菓子に夢中でクラウディア達に気づいてもいない。
(片付けまで終わっているじゃない、意外と料理上手なんだー)
オーブンからは最初から香る小麦粉の焼けた香ばしい匂い、更には焦がしバターの食欲を誘う良い匂いが立ち上っている。
(ラーナが言っていた酸っぱい匂いって、果物のこと? そうすると柑橘系かベリー系?)
少し考えてみるが、リリは気にしないことにした。
食べるときに知らないほうが面白そうだと感じたからだ。
「わたし達も時間には間に合わせるので、大丈夫です」
「小麦粉を使うということは焼き菓子なのでしょう? この段階でオーブンに入れていないのに間に合うなんてありえないでしょう! クラウディア様に嘘は止めなさい! 亜人のくせに!」
ディアナがもっともらしいことを、もっともらしく言う。
クラウディアはゆっくりとリリに近づくと、こっそりと提案をした。
「……時間を延ばして差し上げても、よろしくてよ? 不戦勝なんてわたくしは望んでいないもの」
(想像している焼き菓子なら、そうでしょうね)
「大丈夫です! 間に合わせますので見ておいてください!」
リリはフンッと胸を張る。
「また噓をっ!」
ディアナが声を張り上げようとした、その時。
「リリー終わったよー、ん? どうしたの?」
ラーナが卵を移し終え、リリに話し掛ける。
「っ! せいぜい虚勢じゃないことを楽しみにしてますわ!」
ディアナは少し声を強張らせ言うと、直ぐに振り向きいそいそとその場を離れた。
(あれっ? さっきの一悶着でラーナが怖くなっちゃった? 小物感が半端ないわー)
「わたくしも、本当に楽しみにしていますわ!」
ニコッと笑いリリに耳打ちすると、クラウディアはコツコツと靴を鳴らしながら戻っていった。
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