63 / 115
10話、姫騎士とメイド(2)
しおりを挟む
「流石に疲れたー、あんなに魔法を使ったのは初めてなんですけど、イヴァのせいですからね」
「妾のせいかや? リリの自業自得じゃろ?」
「…………お腹すいた」
「ラーナ、早すぎない? いまさっき昼食を取ったじゃない」
「全く、君達はにぎやかだね。やぁやぁ冒険者ギルドのみんな、元気にやっているかい? 私は今日とてもご機嫌なんだ、昼から飲んだくれている君達に一杯ぐらいは奢ってやっても……」
普段であれば、酔っぱらいや冒険者の喧騒でかき消されるであろう声だが、この時ばかりはタイミングが悪い。
ソフィアがそれに気づき、声をかける。
「っあれ? あれあれー? らしくないじゃあないか、なんだいこの通夜のような静けさは、さてはアンの奴がついにくたばったかい?」
「ソフィー! 縁起でもないこと言うんじゃないよ!」
ソフィアの軽口に、アンが怒鳴り声を上げる。
「っお! まだ生きていたのか、それじゃあこの妙な静けさはどうしたっていうんだい?」
笑いながら受付に歩み寄るソフィア。
(相変わらず空気が読めない人ね、この雰囲気のなか、そのテンションで話す? まぁわたしには関係ないからいいんですけどー)
リリはソフィアをフォローもせず、ただただ無視をしてアンに近づいた。
「クエスト終わりましたー! 報告しにきましたよ~。報酬を頂いてもよろしいですか~?」
今回も念の為に三割り増しで、ぶりっ子を演じている。
「っあ、ああ。早かったな、私が見込んだ通りだ」
(アンの歯切れが悪いわね、前回のあの気風の良さはどこに行ったの?)
アンはギルドボードをチラッと見る、リリもつられて目を向けると、女性が静かに立っていた。
(キレイな人ー、それにメイドもいるじゃない!?)
リリと視線の合ったクラウディアが声をかける。
「あなた達は、なにをしているの?」
「っあ!? もしかして話しの途中でした? すみません、待ちますのでどうぞー」
リリが身振りも付けて誘導すると、アンが改めて聞く。
「あんた達、どうする?」
対立していたディアナも、もう苛立ちはどこかへ行ってしまったらしい。
誰も口を開かない中で、クラウディアが小さく息を吐き、ボソリと答えた。
「花嫁修業……ですわ」
「……はぁ?」
アンには理解が出来ず、生返事で聞き返した。
「だ、だから、旅の目的ですわ! 一度で聞き取りなさいな!」
ドギマギと答えるクラウディアの後ろで、急にクリスタが口をはさむ。
「クラウディア様は花嫁修業で参ったのでございます。アン・オーティス様」
「クリスタ!?」
アンは、あまりにも予想外の返答に固まった。
クラウディアの方も、クリスタが念押しをするとは思っていなかったようで、顔を真っ赤にしながら固まってしまう。
流石に二人のお連れも、オロオロとするのみだった。
「聞こえませんでしたか? それともクリスタの説明不足でしたでしょうか?」
周りの空気も読まず、淡々と話すクリスタ。
遠目に見ていたリリにも一人だけ冷静なのが良く分かる。
「クラウディア様の時間を浪費するわけにも行きませんので、次で納得してくださいね」
なおもクリスタはまくし立てるように話し続けた。
「今回、クラウディア様の旅における目的は花嫁修業の為で御座います。今年で20歳になるクラウディア様ですが、浮いた話しの一つもないことを父親である領主様が心配しまして、ギルドに寄ったのはストレス解消の為……」
焦ってクリスタの口を塞ぐクラウディア。
クリスタの耳元でヒソヒソと話す。
「クリスタ、あなたは黙っていなさい」
押さえても、モゴモゴと喋っているクリスタ。
クラウディアはクリスタが黙ったのを確認してから、チラリとリリたちを見る。
ゆっくりと振り向いた顔は、耳まで真っ赤になっていた。
「ッ、ッハ、ッハハハ、あーそうかい、悪いことを聞いたみたいだ、ッ! ストレス解消になるものを好きに選びな! 婿は載ってないだろうがね。ッフ、ッハハ……ッ」
クラウディアはクリスタの口を塞ぎながらも、プルプルと小刻みに震えている。
「クラウディアお嬢様に見合う男性がいないだけです」
「そうですお嬢様、気にしないで下さい、クリスタ! あなたって人は……」
エマとディアナが慌ててクラウディアにフォローを入れる。
(あの格好というか体勢? 何かあったのかな? 早くしてくれないかなぁ)
遠目に見るリリからは揉めているようにしか見えない、正直に言えばラーナのこともあるのでさっさとギルドを後にしたい。
リリの気持ちに気づいているのかは分からないが、ソフィアが話しに割って入った。
「アン、この二人は凄かったよー。ラーナちゃんは勿論だったんだが、リリちゃんがサンドワームで料理を作ってくれてねぇ」
ソフィアの予想外の台詞に、アンが思わず反応をしてしまう。
「はぁ? あんたらサンドワーム食べたのか? あんな不味いものを良くもまぁ、馬鹿だろ?」
(アンは食べたことがあるのね、わたしにとっては、革鎧やデザートフィッシュよりは、まだましだったんだけど……まっいっか)
ソフィアが作った流れに乗ってさっさと報酬をもらおうという魂胆だ。
リリは怒ったフリをして反論をすることにした。
「馬鹿ってひどくないですかー?」
「それが上手いのなんのって、ここに干物があるからアンも食べてみるかい? そこのお嬢さんたちも食べるかい? ほらっ!」
ソフィアはポケットからサンドワームの干物をアンに手渡し、ボードの前で組み合っている銀髪の女騎士とメイド達にも投げる。
その拍子にクリスタの口を押さえていたクラウディアの手が外れた。
(ソフィア! 余計なことを!!)
「妾のせいかや? リリの自業自得じゃろ?」
「…………お腹すいた」
「ラーナ、早すぎない? いまさっき昼食を取ったじゃない」
「全く、君達はにぎやかだね。やぁやぁ冒険者ギルドのみんな、元気にやっているかい? 私は今日とてもご機嫌なんだ、昼から飲んだくれている君達に一杯ぐらいは奢ってやっても……」
普段であれば、酔っぱらいや冒険者の喧騒でかき消されるであろう声だが、この時ばかりはタイミングが悪い。
ソフィアがそれに気づき、声をかける。
「っあれ? あれあれー? らしくないじゃあないか、なんだいこの通夜のような静けさは、さてはアンの奴がついにくたばったかい?」
「ソフィー! 縁起でもないこと言うんじゃないよ!」
ソフィアの軽口に、アンが怒鳴り声を上げる。
「っお! まだ生きていたのか、それじゃあこの妙な静けさはどうしたっていうんだい?」
笑いながら受付に歩み寄るソフィア。
(相変わらず空気が読めない人ね、この雰囲気のなか、そのテンションで話す? まぁわたしには関係ないからいいんですけどー)
リリはソフィアをフォローもせず、ただただ無視をしてアンに近づいた。
「クエスト終わりましたー! 報告しにきましたよ~。報酬を頂いてもよろしいですか~?」
今回も念の為に三割り増しで、ぶりっ子を演じている。
「っあ、ああ。早かったな、私が見込んだ通りだ」
(アンの歯切れが悪いわね、前回のあの気風の良さはどこに行ったの?)
アンはギルドボードをチラッと見る、リリもつられて目を向けると、女性が静かに立っていた。
(キレイな人ー、それにメイドもいるじゃない!?)
リリと視線の合ったクラウディアが声をかける。
「あなた達は、なにをしているの?」
「っあ!? もしかして話しの途中でした? すみません、待ちますのでどうぞー」
リリが身振りも付けて誘導すると、アンが改めて聞く。
「あんた達、どうする?」
対立していたディアナも、もう苛立ちはどこかへ行ってしまったらしい。
誰も口を開かない中で、クラウディアが小さく息を吐き、ボソリと答えた。
「花嫁修業……ですわ」
「……はぁ?」
アンには理解が出来ず、生返事で聞き返した。
「だ、だから、旅の目的ですわ! 一度で聞き取りなさいな!」
ドギマギと答えるクラウディアの後ろで、急にクリスタが口をはさむ。
「クラウディア様は花嫁修業で参ったのでございます。アン・オーティス様」
「クリスタ!?」
アンは、あまりにも予想外の返答に固まった。
クラウディアの方も、クリスタが念押しをするとは思っていなかったようで、顔を真っ赤にしながら固まってしまう。
流石に二人のお連れも、オロオロとするのみだった。
「聞こえませんでしたか? それともクリスタの説明不足でしたでしょうか?」
周りの空気も読まず、淡々と話すクリスタ。
遠目に見ていたリリにも一人だけ冷静なのが良く分かる。
「クラウディア様の時間を浪費するわけにも行きませんので、次で納得してくださいね」
なおもクリスタはまくし立てるように話し続けた。
「今回、クラウディア様の旅における目的は花嫁修業の為で御座います。今年で20歳になるクラウディア様ですが、浮いた話しの一つもないことを父親である領主様が心配しまして、ギルドに寄ったのはストレス解消の為……」
焦ってクリスタの口を塞ぐクラウディア。
クリスタの耳元でヒソヒソと話す。
「クリスタ、あなたは黙っていなさい」
押さえても、モゴモゴと喋っているクリスタ。
クラウディアはクリスタが黙ったのを確認してから、チラリとリリたちを見る。
ゆっくりと振り向いた顔は、耳まで真っ赤になっていた。
「ッ、ッハ、ッハハハ、あーそうかい、悪いことを聞いたみたいだ、ッ! ストレス解消になるものを好きに選びな! 婿は載ってないだろうがね。ッフ、ッハハ……ッ」
クラウディアはクリスタの口を塞ぎながらも、プルプルと小刻みに震えている。
「クラウディアお嬢様に見合う男性がいないだけです」
「そうですお嬢様、気にしないで下さい、クリスタ! あなたって人は……」
エマとディアナが慌ててクラウディアにフォローを入れる。
(あの格好というか体勢? 何かあったのかな? 早くしてくれないかなぁ)
遠目に見るリリからは揉めているようにしか見えない、正直に言えばラーナのこともあるのでさっさとギルドを後にしたい。
リリの気持ちに気づいているのかは分からないが、ソフィアが話しに割って入った。
「アン、この二人は凄かったよー。ラーナちゃんは勿論だったんだが、リリちゃんがサンドワームで料理を作ってくれてねぇ」
ソフィアの予想外の台詞に、アンが思わず反応をしてしまう。
「はぁ? あんたらサンドワーム食べたのか? あんな不味いものを良くもまぁ、馬鹿だろ?」
(アンは食べたことがあるのね、わたしにとっては、革鎧やデザートフィッシュよりは、まだましだったんだけど……まっいっか)
ソフィアが作った流れに乗ってさっさと報酬をもらおうという魂胆だ。
リリは怒ったフリをして反論をすることにした。
「馬鹿ってひどくないですかー?」
「それが上手いのなんのって、ここに干物があるからアンも食べてみるかい? そこのお嬢さんたちも食べるかい? ほらっ!」
ソフィアはポケットからサンドワームの干物をアンに手渡し、ボードの前で組み合っている銀髪の女騎士とメイド達にも投げる。
その拍子にクリスタの口を押さえていたクラウディアの手が外れた。
(ソフィア! 余計なことを!!)
0
お気に入りに追加
55
あなたにおすすめの小説
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
授かったスキルが【草】だったので家を勘当されたから悲しくてスキルに不満をぶつけたら国に恐怖が訪れて草
ラララキヲ
ファンタジー
(※[両性向け]と言いたい...)
10歳のグランは家族の見守る中でスキル鑑定を行った。グランのスキルは【草】。草一本だけを生やすスキルに親は失望しグランの為だと言ってグランを捨てた。
親を恨んだグランはどこにもぶつける事の出来ない気持ちを全て自分のスキルにぶつけた。
同時刻、グランを捨てた家族の居る王都では『謎の笑い声』が響き渡った。その笑い声に人々は恐怖し、グランを捨てた家族は……──
※確認していないので二番煎じだったらごめんなさい。急に思いついたので書きました!
※「妻」に対する暴言があります。嫌な方は御注意下さい※
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げています。
(完結)足手まといだと言われパーティーをクビになった補助魔法師だけど、足手まといになった覚えは無い!
ちゃむふー
ファンタジー
今までこのパーティーで上手くやってきたと思っていた。
なのに突然のパーティークビ宣言!!
確かに俺は直接の攻撃タイプでは無い。
補助魔法師だ。
俺のお陰で皆の攻撃力防御力回復力は約3倍にはなっていた筈だ。
足手まといだから今日でパーティーはクビ??
そんな理由認められない!!!
俺がいなくなったら攻撃力も防御力も回復力も3分の1になるからな??
分かってるのか?
俺を追い出した事、絶対後悔するからな!!!
ファンタジー初心者です。
温かい目で見てください(*'▽'*)
一万文字以下の短編の予定です!
[完結]回復魔法しか使えない私が勇者パーティを追放されたが他の魔法を覚えたら最強魔法使いになりました
mikadozero
ファンタジー
3月19日 HOTランキング4位ありがとうございます。三月二十日HOTランキング2位ありがとうございます。
ーーーーーーーーーーーーー
エマは突然勇者パーティから「お前はパーティを抜けろ」と言われて追放されたエマは生きる希望を失う。
そんなところにある老人が助け舟を出す。
そのチャンスをエマは自分のものに変えようと努力をする。
努力をすると、結果がついてくるそう思い毎日を過ごしていた。
エマは一人前の冒険者になろうとしていたのだった。
婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした
アルト
ファンタジー
今から七年前。
婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。
そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。
そして現在。
『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。
彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。
伯爵家の次男に転生しましたが、10歳で当主になってしまいました
竹桜
ファンタジー
自動運転の試験車両に轢かれて、死んでしまった主人公は異世界のランガン伯爵家の次男に転生した。
転生後の生活は順調そのものだった。
だが、プライドだけ高い兄が愚かな行為をしてしまった。
その結果、主人公の両親は当主の座を追われ、主人公が10歳で当主になってしまった。
これは10歳で当主になってしまった者の物語だ。
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる