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10話、姫騎士とメイド(2)
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「流石に疲れたー、あんなに魔法を使ったのは初めてなんですけど、イヴァのせいですからね」
「妾のせいかや? リリの自業自得じゃろ?」
「…………お腹すいた」
「ラーナ、早すぎない? いまさっき昼食を取ったじゃない」
「全く、君達はにぎやかだね。やぁやぁ冒険者ギルドのみんな、元気にやっているかい? 私は今日とてもご機嫌なんだ、昼から飲んだくれている君達に一杯ぐらいは奢ってやっても……」
普段であれば、酔っぱらいや冒険者の喧騒でかき消されるであろう声だが、この時ばかりはタイミングが悪い。
ソフィアがそれに気づき、声をかける。
「っあれ? あれあれー? らしくないじゃあないか、なんだいこの通夜のような静けさは、さてはアンの奴がついにくたばったかい?」
「ソフィー! 縁起でもないこと言うんじゃないよ!」
ソフィアの軽口に、アンが怒鳴り声を上げる。
「っお! まだ生きていたのか、それじゃあこの妙な静けさはどうしたっていうんだい?」
笑いながら受付に歩み寄るソフィア。
(相変わらず空気が読めない人ね、この雰囲気のなか、そのテンションで話す? まぁわたしには関係ないからいいんですけどー)
リリはソフィアをフォローもせず、ただただ無視をしてアンに近づいた。
「クエスト終わりましたー! 報告しにきましたよ~。報酬を頂いてもよろしいですか~?」
今回も念の為に三割り増しで、ぶりっ子を演じている。
「っあ、ああ。早かったな、私が見込んだ通りだ」
(アンの歯切れが悪いわね、前回のあの気風の良さはどこに行ったの?)
アンはギルドボードをチラッと見る、リリもつられて目を向けると、女性が静かに立っていた。
(キレイな人ー、それにメイドもいるじゃない!?)
リリと視線の合ったクラウディアが声をかける。
「あなた達は、なにをしているの?」
「っあ!? もしかして話しの途中でした? すみません、待ちますのでどうぞー」
リリが身振りも付けて誘導すると、アンが改めて聞く。
「あんた達、どうする?」
対立していたディアナも、もう苛立ちはどこかへ行ってしまったらしい。
誰も口を開かない中で、クラウディアが小さく息を吐き、ボソリと答えた。
「花嫁修業……ですわ」
「……はぁ?」
アンには理解が出来ず、生返事で聞き返した。
「だ、だから、旅の目的ですわ! 一度で聞き取りなさいな!」
ドギマギと答えるクラウディアの後ろで、急にクリスタが口をはさむ。
「クラウディア様は花嫁修業で参ったのでございます。アン・オーティス様」
「クリスタ!?」
アンは、あまりにも予想外の返答に固まった。
クラウディアの方も、クリスタが念押しをするとは思っていなかったようで、顔を真っ赤にしながら固まってしまう。
流石に二人のお連れも、オロオロとするのみだった。
「聞こえませんでしたか? それともクリスタの説明不足でしたでしょうか?」
周りの空気も読まず、淡々と話すクリスタ。
遠目に見ていたリリにも一人だけ冷静なのが良く分かる。
「クラウディア様の時間を浪費するわけにも行きませんので、次で納得してくださいね」
なおもクリスタはまくし立てるように話し続けた。
「今回、クラウディア様の旅における目的は花嫁修業の為で御座います。今年で20歳になるクラウディア様ですが、浮いた話しの一つもないことを父親である領主様が心配しまして、ギルドに寄ったのはストレス解消の為……」
焦ってクリスタの口を塞ぐクラウディア。
クリスタの耳元でヒソヒソと話す。
「クリスタ、あなたは黙っていなさい」
押さえても、モゴモゴと喋っているクリスタ。
クラウディアはクリスタが黙ったのを確認してから、チラリとリリたちを見る。
ゆっくりと振り向いた顔は、耳まで真っ赤になっていた。
「ッ、ッハ、ッハハハ、あーそうかい、悪いことを聞いたみたいだ、ッ! ストレス解消になるものを好きに選びな! 婿は載ってないだろうがね。ッフ、ッハハ……ッ」
クラウディアはクリスタの口を塞ぎながらも、プルプルと小刻みに震えている。
「クラウディアお嬢様に見合う男性がいないだけです」
「そうですお嬢様、気にしないで下さい、クリスタ! あなたって人は……」
エマとディアナが慌ててクラウディアにフォローを入れる。
(あの格好というか体勢? 何かあったのかな? 早くしてくれないかなぁ)
遠目に見るリリからは揉めているようにしか見えない、正直に言えばラーナのこともあるのでさっさとギルドを後にしたい。
リリの気持ちに気づいているのかは分からないが、ソフィアが話しに割って入った。
「アン、この二人は凄かったよー。ラーナちゃんは勿論だったんだが、リリちゃんがサンドワームで料理を作ってくれてねぇ」
ソフィアの予想外の台詞に、アンが思わず反応をしてしまう。
「はぁ? あんたらサンドワーム食べたのか? あんな不味いものを良くもまぁ、馬鹿だろ?」
(アンは食べたことがあるのね、わたしにとっては、革鎧やデザートフィッシュよりは、まだましだったんだけど……まっいっか)
ソフィアが作った流れに乗ってさっさと報酬をもらおうという魂胆だ。
リリは怒ったフリをして反論をすることにした。
「馬鹿ってひどくないですかー?」
「それが上手いのなんのって、ここに干物があるからアンも食べてみるかい? そこのお嬢さんたちも食べるかい? ほらっ!」
ソフィアはポケットからサンドワームの干物をアンに手渡し、ボードの前で組み合っている銀髪の女騎士とメイド達にも投げる。
その拍子にクリスタの口を押さえていたクラウディアの手が外れた。
(ソフィア! 余計なことを!!)
「妾のせいかや? リリの自業自得じゃろ?」
「…………お腹すいた」
「ラーナ、早すぎない? いまさっき昼食を取ったじゃない」
「全く、君達はにぎやかだね。やぁやぁ冒険者ギルドのみんな、元気にやっているかい? 私は今日とてもご機嫌なんだ、昼から飲んだくれている君達に一杯ぐらいは奢ってやっても……」
普段であれば、酔っぱらいや冒険者の喧騒でかき消されるであろう声だが、この時ばかりはタイミングが悪い。
ソフィアがそれに気づき、声をかける。
「っあれ? あれあれー? らしくないじゃあないか、なんだいこの通夜のような静けさは、さてはアンの奴がついにくたばったかい?」
「ソフィー! 縁起でもないこと言うんじゃないよ!」
ソフィアの軽口に、アンが怒鳴り声を上げる。
「っお! まだ生きていたのか、それじゃあこの妙な静けさはどうしたっていうんだい?」
笑いながら受付に歩み寄るソフィア。
(相変わらず空気が読めない人ね、この雰囲気のなか、そのテンションで話す? まぁわたしには関係ないからいいんですけどー)
リリはソフィアをフォローもせず、ただただ無視をしてアンに近づいた。
「クエスト終わりましたー! 報告しにきましたよ~。報酬を頂いてもよろしいですか~?」
今回も念の為に三割り増しで、ぶりっ子を演じている。
「っあ、ああ。早かったな、私が見込んだ通りだ」
(アンの歯切れが悪いわね、前回のあの気風の良さはどこに行ったの?)
アンはギルドボードをチラッと見る、リリもつられて目を向けると、女性が静かに立っていた。
(キレイな人ー、それにメイドもいるじゃない!?)
リリと視線の合ったクラウディアが声をかける。
「あなた達は、なにをしているの?」
「っあ!? もしかして話しの途中でした? すみません、待ちますのでどうぞー」
リリが身振りも付けて誘導すると、アンが改めて聞く。
「あんた達、どうする?」
対立していたディアナも、もう苛立ちはどこかへ行ってしまったらしい。
誰も口を開かない中で、クラウディアが小さく息を吐き、ボソリと答えた。
「花嫁修業……ですわ」
「……はぁ?」
アンには理解が出来ず、生返事で聞き返した。
「だ、だから、旅の目的ですわ! 一度で聞き取りなさいな!」
ドギマギと答えるクラウディアの後ろで、急にクリスタが口をはさむ。
「クラウディア様は花嫁修業で参ったのでございます。アン・オーティス様」
「クリスタ!?」
アンは、あまりにも予想外の返答に固まった。
クラウディアの方も、クリスタが念押しをするとは思っていなかったようで、顔を真っ赤にしながら固まってしまう。
流石に二人のお連れも、オロオロとするのみだった。
「聞こえませんでしたか? それともクリスタの説明不足でしたでしょうか?」
周りの空気も読まず、淡々と話すクリスタ。
遠目に見ていたリリにも一人だけ冷静なのが良く分かる。
「クラウディア様の時間を浪費するわけにも行きませんので、次で納得してくださいね」
なおもクリスタはまくし立てるように話し続けた。
「今回、クラウディア様の旅における目的は花嫁修業の為で御座います。今年で20歳になるクラウディア様ですが、浮いた話しの一つもないことを父親である領主様が心配しまして、ギルドに寄ったのはストレス解消の為……」
焦ってクリスタの口を塞ぐクラウディア。
クリスタの耳元でヒソヒソと話す。
「クリスタ、あなたは黙っていなさい」
押さえても、モゴモゴと喋っているクリスタ。
クラウディアはクリスタが黙ったのを確認してから、チラリとリリたちを見る。
ゆっくりと振り向いた顔は、耳まで真っ赤になっていた。
「ッ、ッハ、ッハハハ、あーそうかい、悪いことを聞いたみたいだ、ッ! ストレス解消になるものを好きに選びな! 婿は載ってないだろうがね。ッフ、ッハハ……ッ」
クラウディアはクリスタの口を塞ぎながらも、プルプルと小刻みに震えている。
「クラウディアお嬢様に見合う男性がいないだけです」
「そうですお嬢様、気にしないで下さい、クリスタ! あなたって人は……」
エマとディアナが慌ててクラウディアにフォローを入れる。
(あの格好というか体勢? 何かあったのかな? 早くしてくれないかなぁ)
遠目に見るリリからは揉めているようにしか見えない、正直に言えばラーナのこともあるのでさっさとギルドを後にしたい。
リリの気持ちに気づいているのかは分からないが、ソフィアが話しに割って入った。
「アン、この二人は凄かったよー。ラーナちゃんは勿論だったんだが、リリちゃんがサンドワームで料理を作ってくれてねぇ」
ソフィアの予想外の台詞に、アンが思わず反応をしてしまう。
「はぁ? あんたらサンドワーム食べたのか? あんな不味いものを良くもまぁ、馬鹿だろ?」
(アンは食べたことがあるのね、わたしにとっては、革鎧やデザートフィッシュよりは、まだましだったんだけど……まっいっか)
ソフィアが作った流れに乗ってさっさと報酬をもらおうという魂胆だ。
リリは怒ったフリをして反論をすることにした。
「馬鹿ってひどくないですかー?」
「それが上手いのなんのって、ここに干物があるからアンも食べてみるかい? そこのお嬢さんたちも食べるかい? ほらっ!」
ソフィアはポケットからサンドワームの干物をアンに手渡し、ボードの前で組み合っている銀髪の女騎士とメイド達にも投げる。
その拍子にクリスタの口を押さえていたクラウディアの手が外れた。
(ソフィア! 余計なことを!!)
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