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8話、クエスト受注(1)

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 ドラーテム王国の南西部。
 サエウム荒原に亜人にも優しい街がある。

【カルラ・オアシス】
 カプト地方の西部、サエウム荒原の中央に位置するオアシスに、作られた街。
 ドラーテム国王シゲイルより、鬼族を除いた亜人の移民、永住が自由に認められた都市である。
[爬虫類族・レプティロイド]を中心に、ケンタウロスや[犬人族・ルプソイド][猫人族・フェレソイド]など多くの種族がいる。
 亜人はドラコニス大陸では忌み嫌われやすいが、多くはこの街を目指すと言われている。


「やっと着いたー、歩き疲れたわー」

(まっ、わたしはラーナの肩に乗っているか、飛んでいるかだから、歩いていないけどねー)

 遠目に見える大きな門、入国の為に並ぶ馬車の数からしても砂漠の中にあるとは思えない、相当な人口がいるのだろう。

「どんな街かなぁ? どんな人がいるのかなぁ? 初めての街、ワクワクしてきたー」

 異世界初の街に、テンションが爆上がりしたリリ。
 対して身体のみになったジャイアントスコーピオンを引きずるラーナは、まくし立てるように話しだした。

「ここは大きなオアシスがあってね、その周りにお店が並んでるんだー」
「へぇー」
「人族以外の亜人にも優しいらしくてね、だからこそ、いろいろな種族がいるらしいんだよ?」
「なるほどねぇ」
「きっとリリみたいなピクシーもいるだろうし、猫人族とか、珍しい種族なら蟲人族とか、魚人族とかもいるよー」
「蟲人族に魚人族って? 想像できないわね」

 想像以上に多様な人種にリリはビックリしつつも、期待に胸を膨らませる。

「ボクが見たことあるのは魚人族のー……サメ種! サメ種を見たことあるよ! オアシスならいるかなぁ?」
「へぇ~、サメねぇ」

(魚人にも複数の種類がいるのね、それならヒラメかカレイを見てみたいわー)

 想像をすると、少し笑えてきたリリはクスクスとラーナの肩で笑う。
 ラーナは、明るく空を見上げてリリに言う。

「とにかく、街についたら、急いで買い物しないとねぇ」
「そうね、ピクシーにも着られる服も売っていれば良いんだけど?」
「大きな街だし、売ってると思うよ!」
「じゃあさ、お揃いの服を買わない?」
「お揃い!?」

 ラーナは驚き、リリの方に顔を向けた。

「ラーナと同じ服をわたし着てみたいわ、一緒にオシャレしましょっ!」
「うーん、提案は嬉しいし着てみたいけど、今のボクはこの服でいい……」
「そう? 楽しそうなのにー」
「実はこの服と腰布はアラクネの糸で出来てるんだ」
「アラクネの糸! なんか強そう!」
「まぁね、凄い丈夫だよ! ママのお下がりだから、ちょっとぶかぶかなんだけどねー」

 なおもまくし立てるようにずっと話すラーナ。

(食べること、闘うこと以外でこんなに喋るラーナは珍しいわね、ラーナは言葉数は少ない子だし)

 街に近づく程に口数の増えるラーナ。
 ラーナの緊張や不安をなんとなくだが感じ取ったリリは、えっへんと胸を張り、少しだけ茶化した感じで言ってみることにした。

「ラーナ、大丈夫? もしかして、らしくもない緊張をしているの? わたしがいるんだし、大船に乗ったつもりでいなさいよー」
「……うん、大丈夫……大丈夫だよ、リリ、ありがとう」

 リリの言葉になにかを決意したかのか、ラーナは少しだけ落ち着きを取り戻す。

(無理をしてなければいいんだけど……)

 強がってはいるが、怖がっている訳ではなさそうだ。
 おそらくこれなら大丈夫だろう、とリリは当たりをつけて話しを続けた。

「わかった、なら一緒に行きましょ! ジャイアントスコーピオンはどっかに隠しておいてね!」
「えー!」
「えーじゃない、こんなの持っていったら大事になる!」
「腐っちゃうよー」
「そこは一瓶で我慢して!」
「はーい」

 ラーナは土瓶にジャイアントスコーピオンの体液を詰める、そして二人はしっかりとした足並みで、遠目に見える街へと歩みを進めた。


* * *


 街の前、二人は門の前の小さな行列に並んでいた。

「ここは随分とにぎやかな街ね?」
「そう? ボクは他の街をよく知らないから分かんないけど、鬼族の集落も人が多い所はこんな感じだよ?」
「なんというか、みんな声が大きいわ」
「確かに言われてみればそうかも、リリもそうだけど、ピクシーは五月蠅いだけで豪快じゃないもんね」
「五月蠅いはよけいよ!」
「エルフも静かな人が多いみたいだしね、っあ!」
「ん? どうしたの?」

 ラーナは会話を途中で止め、深くかぶったフードを更に目深に被り直す。

(あぁなるほど検問ね。もうすぐ門の入り口だもんね)

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