上 下
49 / 115

9話、サウエムサンドワーム(5)

しおりを挟む
「リリー、ボクお腹すいたよー、ほらこれ、はいっ!」

(おっと、これは……)

 ラーナはリリのやり方に慣れてきたようだ。
 後ろに転がるサンドワームの生肉を切って、リリの元へと持ってきた。

「っじゃ、食べるかー」
「なんじゃ、お主等! モンスターを食べるのかや?」
「そうよ、イヴァあなたも食べます?」
「いい! 妾は野菜しか食べないのじゃ」

 イヴァは思いっきり否定をする。

(ベジタリアンなのね、っま、普通モンスターなんか食べたくないわよねー)

「ソフィアは?」
「私も遠慮しておこうかなっ」
「好奇心に取りつかれたソフィアが断るなんて珍しいわね」
「まぁねっ!」

 ソフィアも食べないらしい、しょうがないので二人で食べることにした。

「これは……なに?」

(水っぽい牛乳? んー獣感はないし、どちらかといえば魚? それも違うか……)

 初めての味、サンドワームは不思議な風味をしていた。

(風味が薄い……っあ、分かった)

「大豆だ! 水っぽい豆乳ね、あースッキリしたー」
「うぇー、ブチュブチュってするよー」

 リリが豆乳に似ていると分かるのと同時に、ラーナが顔を歪めて感想を言う。

「確かに皮はゴムっぽいわね」
「ゴム?」
「ああ、気にしないで」

(美味しそうに言い換えれば、グミっぽいわ?)

 ついつい地球の物に例えてしまったが、ラーナはあまり気にしていないようだ。
 またもサンドワームに近づくと、新たに切り出している。

「身はプチプチして、粒が大きなイチジクみたいだわ」

(イクラにも近いけど、膜が残る感じないしやっぱりイチジクかなぁ)

 リリが色々と思い悩んでいると、今度はラーナが肝を持ってきた。

「これも食べる?」
「……えーっと」

(食べたくないなぁ、肝は流石にコワイ)

「お腹痛くなったり、体調壊したりしない?」
「大丈夫でしょ?」

 ラーナは既に食べている、リリも覚悟を決め口に運んだ。

(……あれっ? 生臭い、多少のヘーゼルナッツの香りはするけど……)

 どうやってこの生臭さを取っているのか気になったリリは、ソフィアに作り方を教えてもらうことにした。

(サメの肝油は焼いて作っていたけど……)

「肝はソフィアに渡せばいいの?」
「これは後で大鍋で炒めるから、適当に切って樽の中に詰め込んでくれると嬉しいかなっ、街まで保つように保存液は入れてあるからねっ」
「焼いて作るのねー」

(なるほどなるほど、これはいいことを聞いたかもっ!)

 喜ぶリリにソフィアが釘を刺す。

「焼くだけじゃ出来ないから、期待はしないことだよ、リリちゃん!」
「じゃあ作り方を教えてもらうことは?」
「ダメだね、私の独占技術だからねっ」
「そうよねー」

(わざわざ教えてくれるような人ではないよね、ちょっとだけ期待していたんだけどなぁ)

「そういえば、ソフィアってサンドワーム捌けるの?」
「もっちろん! 私にできる訳がないじゃないかー、だからラーナちゃんがやるのさっ」

(当たり前のように言うな!)

「ラーナ申し訳ないんだけど、ソフィアのお手伝いをしてもらっても……」
「うん、いいよ! 報酬も貰わなきゃいけないしねー」

(ありがとうラーナ!)

 ラーナが、ソフィアの手伝いをすることになり時間が空いたリリは、汚れて戻ってくるであろうラーナの為に空樽に水を出しながら、イヴァと雑談をすることにした。

「イヴァはダークエルフなのよね?」
「そうじゃな」
「なぜ、こんななにもない所に一人でいるの?」

 楽しい話題が見つからず、リリはとりあえず思ったことを率直に聞いてみる事にした。

「商人の馬車を護衛しておったのじゃ」
「それじゃ、他の人……は?」

(もしかして、食べられちゃったとか?)

「大丈夫じゃ、逃げておる」
「あなたもしかして……強いの?」
「からっきしじゃの」
「からっきしなの!?」

 しかし、イヴァがサンドワームから一人で生き延びたのは事実である。
 リリはその理由が気になったので聞いてみる。

「じゃあどうやって逃げたの?」
「妾は《時空神アーカーシャ》を祀る民、その巫女なのじゃ」
「なる、ほど……」

 イヴァの言葉に、さも納得したかのように頷くリリ。

(ヤバッ! なにを言っているか全くわからない! 時空神アーカーシャ? 巫女? 宗教? これは突っ込まないほうが良いわよね? スルーよスルー、次の話題をなにか……)

 リリが頭を悩ませているうちに、イヴァが続けて喋る。

「だから妾は時空魔法が使えるのじゃ、さっきのアイテムボックスとかの」
「すごーい、じゃあテレポートも使えるの?」
「もちろんじゃ、距離は短いがの」
「凄い魔導士なのね!」

(テレポートなんてチートじゃない! いいなぁー)

「巫女じゃ! 魔導士と一緒にするでない!」

 テンション高く喋るリリに、イヴァが釘をさす。

「っあ、ごめんなさい」
「まぁよい、許してやるのじゃ」

(この子、偉い子なのかな?)

 古めかしいが品がある口調、尊大な態度からリリがそう思うのは無理もない。
 しかし巫女と名乗っている以上、姫なのかと聞くのも気が引けたリリは話題を変えることにした。

「それで逃げられたのねぇ、因みに話しは変わるけど、イヴァはなんで野菜しか食べないの?」

(前世の友達も宗教上食べられない物、いろいろとあったしなぁ)

 少しだけ過去の友人に思いを馳せながら、リリは質問する。

「妾の集落では、肉は人を堕落させると言われておる」
「へぇー、じゃあエルフは野菜しか食べられないの?」
「そんなことはない! 古い習わしじゃな」

(ないんかいっ!)

「じゃあなんで?」
「なんとなくじゃ!」

(まさかのなんとなく! それってもう、ただの偏食じゃない! 好き嫌いじゃない!)

「宗教上ではないのね?」
「そうじゃな、童より古き人は食べなかったようじゃが、それは狩りが安定しなかった言い訳じゃと妾は見ておる」
「言い方が酷い!」

(落ち着けわたし、好き嫌いだとしても最大限の尊重はしましょ、だって美味しいものを笑顔で囲む、それが料理の醍醐味なんだから)

「口が悪いのは生まれつきじゃ、気にせんでいい!」
「気にするのは、わたしじゃない?」
「まぁ気にするでない」

 上から目線のイヴァだが、どこか優しさを感じる。
 不思議とリリはイヴァに対して苛立ちを覚えなかった。

「ふーん、まぁいっかー、じゃあ一緒に食べないの?」
「サンドワームなど、食べとうない! 妾の分はサラダを作ってくりゃれ」
「そんな材料の余剰はない!」
「いやじゃ、いやじゃー」

 二人が話しているところに、ラーナが戻ってきた。

「リリ終わったよー、早く作ろう!」

 肝を取り終えて、血でドロドロになったラーナ。
 頭からバケツで血を何杯も被ったように血みどろだ。

「血でドロドロよ!? 作る前に洗い落としましょ? ほら、ここに水を溜めてあるから」
「あーそっか、これじゃご飯が生臭くなっちゃうね」
「そこじゃない! ってか、わたしラーナのこんな姿ばかり見てるわね」
「確かにね」
「最初は砂まみれ、デザートフィッシュじゃ血まみれ、サンドワームでも血まみれ」
「フフッ、ずっとなにかにまみれてるね」

 カラカラと笑うラーナだったが、リリは逆に申し訳なく感じた。

「ごめんなさい、いつもこんな役ばかりさせて」
「ん? なにが?」

 ラーナには謝られる理由が分からないらしい。

「だって……」
「わかんないけどいいよ、リリと会ってから、ボクは美味しいものがたくさん食べられるし、ボクは幸せだよ?」
「わかったわ、なら今回もラーナが好きな、辛い料理を一つ作ろっか!」
「ほんとに? よく分かんないけどやったー!」

 リリは自分が出来る範囲で、恩返しをしようと心に決めた。

(それじゃあ今回も作るかー!!)

 リリはいつも以上に、心の中で気合を入れた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

さっさと離婚したらどうですか?

杉本凪咲
恋愛
完璧な私を疎んだ妹は、ある日私を階段から突き落とした。 しかしそれが転機となり、私に幸運が舞い込んでくる……

よくある婚約破棄なので

おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。 その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。 言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。 「よくある婚約破棄なので」 ・すれ違う二人をめぐる短い話 ・前編は各自の証言になります ・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド ・全25話完結

ぼっちは回復役に打って出ました~異世界を乱す暗黒ヒール~

空 水城
ファンタジー
クラスで居場所がない、ぼっちの杖本 優人(つえもと ゆうと)。彼は、ある日突然クラスごと異世界に勇者として召還される。魔王を倒すための能力を一つだけ自由に決められるというので、彼は今度こそみんなの仲間に入れてもらえるように、自ら進んで誰もやりたがらなそうな回復役に立候補した。だが回復魔法を手に入れて束の間、クラスの男子の目線が冷たい。そしてある男子に「回復役なんかいらねえんだよ!」と言われ、勇者の祭壇を追い出されてしまう。回復魔法のみを片手に異世界の草原に立たされる彼。そして早速、魔物に襲われてしまうが、そこで彼はあることに気がつく。「俺の回復魔法、なんかおかしくね?」 異質な回復魔法を得たぼっちと、不遇魔法使いのぼっち少女が紡ぐ、成り上がりファンタジー。 ※書籍化しました。 ※本編完結しました。

転生おばさんは有能な侍女

吉田ルネ
恋愛
五十四才の人生あきらめモードのおばさんが転生した先は、可憐なお嬢さまの侍女でした え? 婚約者が浮気? え? 国家転覆の陰謀? 転生おばさんは忙しい そして、新しい恋の予感…… てへ 豊富な(?)人生経験をもとに、お嬢さまをおたすけするぞ!

マッチョな料理人が送る、異世界のんびり生活。 〜強面、筋骨隆々、とても強い。 でもとっても優しい男が異世界でのんびり暮らすお話〜

かむら
ファンタジー
 身長190センチ、筋骨隆々、彫りの深い強面という見た目をした男、舘野秀治(たてのしゅうじ)は、ある日、目を覚ますと、見知らぬ土地に降り立っていた。  そこは魔物や魔法が存在している異世界で、元の世界に帰る方法も分からず、行く当ても無い秀治は、偶然出会った者達に勧められ、ある冒険者ギルドで働くことになった。  これはそんな秀治と仲間達による、のんびりほのぼのとした異世界生活のお話。

ヒトリぼっちの陰キャなEランク冒険者

コル
ファンタジー
 人間、亜人、獣人、魔物といった様々な種族が生きる大陸『リトーレス』。  中央付近には、この大地を統べる国王デイヴィッド・ルノシラ六世が住む大きくて立派な城がたたずんでいる『ルノシラ王国』があり、王国は城を中心に城下町が広がっている。  その城下町の一角には冒険者ギルドの建物が建っていた。  ある者は名をあげようと、ある者は人助けの為、ある者は宝を求め……様々な想いを胸に冒険者達が日々ギルドを行き交っている。  そんなギルドの建物の一番奥、日が全くあたらず明かりは吊るされた蝋燭の火のみでかなり薄暗く人が寄りつかない席に、笑みを浮かべながらナイフを磨いている1人の女冒険者の姿があった。  彼女の名前はヒトリ、ひとりぼっちで陰キャでEランク冒険者。  ヒトリは目立たず、静かに、ひっそりとした暮らしを望んでいるが、その意思とは裏腹に時折ギルドの受付嬢ツバメが上位ランクの依頼の話を持ってくる。意志の弱いヒトリは毎回押し切られ依頼を承諾する羽目になる……。  ひとりぼっちで陰キャでEランク冒険者の彼女の秘密とは――。       ※3日おきに投稿予定です。  ※この作品は「小説家になろう」さん、「カクヨム」さん、「ノベルアップ+」さん、「ノベリズム」さん、「ネオページ」さんとのマルチ投稿です。

寵妃にすべてを奪われ下賜された先は毒薔薇の貴公子でしたが、何故か愛されてしまいました!

ユウ
恋愛
エリーゼは、王妃になる予定だった。 故郷を失い後ろ盾を失くし代わりに王妃として選ばれたのは後から妃候補となった侯爵令嬢だった。 聖女の資格を持ち国に貢献した暁に正妃となりエリーゼは側妃となったが夜の渡りもなく周りから冷遇される日々を送っていた。 日陰の日々を送る中、婚約者であり唯一の理解者にも忘れされる中。 長らく魔物の侵略を受けていた東の大陸を取り戻したことでとある騎士に妃を下賜することとなったのだが、選ばれたのはエリーゼだった。 下賜される相手は冷たく人をよせつけず、猛毒を持つ薔薇の貴公子と呼ばれる男だった。 用済みになったエリーゼは殺されるのかと思ったが… 「私は貴女以外に妻を持つ気はない」 愛されることはないと思っていたのに何故か甘い言葉に甘い笑顔を向けられてしまう。 その頃、すべてを手に入れた側妃から正妃となった聖女に不幸が訪れるのだった。

平民と恋に落ちたからと婚約破棄を言い渡されました。

なつめ猫
恋愛
聖女としての天啓を受けた公爵家令嬢のクララは、生まれた日に王家に嫁ぐことが決まってしまう。 そして物心がつく5歳になると同時に、両親から引き離され王都で一人、妃教育を受ける事を強要され10年以上の歳月が経過した。 そして美しく成長したクララは16才の誕生日と同時に貴族院を卒業するラインハルト王太子殿下に嫁ぐはずであったが、平民の娘に恋をした婚約者のラインハルト王太子で殿下から一方的に婚約破棄を言い渡されてしまう。 クララは動揺しつつも、婚約者であるラインハルト王太子殿下に、国王陛下が決めた事を覆すのは貴族として間違っていると諭そうとするが、ラインハルト王太子殿下の逆鱗に触れたことで貴族院から追放されてしまうのであった。

処理中です...