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7話、ジャイアントスコーピオン(3)
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リリ達は一面の砂漠から荒野の岩石地帯へと移っていた。
「ここが目的地?」
「うん、さっきよりはいいところでしょー」
「確かに岩で影がある分、マシね!」
大小様々な岩がそこら中に点在しており、小さなものでもラーナの数倍以上、大きなものに関しては山のように巨大なものまである、昔は渓谷だったのかも知れない。
「っあ!! トカゲ!!」
ラーナが勢いよく走り出した。
「ちょ、ちょっと、待ってー」
あっという間に置いていかれたリリも急いで後を追う。
「はぁ、はぁ……急に走らないでよ……捕まえた?」
「うん、ほらっ!」
ラーナの手には赤褐色のトカゲが握られている。
手のひらサイズと小さめだが、ギョロッとした目がリリを見る。
「み、見せなくてもいいわよ」
「美味しそうなのにー」
(わたしには大きくて恐いんですけど! マジで、でっかい!)
思わず目を逸らしたリリの先、小さな洞窟が目端をよぎる。
「っあ、洞窟!」
「洞窟ー?」
「ほらっあそこ!」
「ほんとだー!!」
二人が洞窟へと向かうと、ひんやりとした空気が中から吹き抜ける。
中はリリが住んでいた部屋の2倍ぐらいはあるであろう空間が広がっていた。
「ねぇラーナ、水があるわよ」
「ホントだ、ボクもこんな所に水があるとは知らなかったなぁ」
雨水だろうか、奥の方にはラーナの腰程ぐらいの水が溜まっている。
「見えづらい場所だもんねー」
「もっと早く知りたかったー」
きっと、いろいろな生き物がここの水を飲みに来ていたのだろう、様々な足跡らしき痕がある。
「それにしてもここは、涼しいし過ごしやすいわね」
「そうだねっ」
「焚き火、出来そう?」
「入口も大きいし、下ってないから問題無いんじゃない?」
(あー、一酸化炭素中毒! 確かに重要だわ!)
「じゃあ今日の拠点はここに決定!!」
「危険が無かったらね! 水もたくさんあるし、後で水浴びと洗濯しよっか」
「飲み水にはしないの?」
「なんで? リリが出してくれるって言ったじゃん」
当たり前であるかのように言ったラーナに、リリは過去の自分の言った言葉を思い出す。
[水だけでも頑張って出すわ!]
(あぁハッキリと言ってた、忘れてたー!)
「そっそうだったわね、任せなさい!」
「うん、リリが出した水のが美味しいしねー」
「そうなの?」
「うん、なんて言ったらいいかな……土の匂いがしない」
「ふぇー、違うのね」
(ラーナが普段飲んでいた水か……うーん、想像したくないわ)
「だからさっ! ここの水は水浴びに使おうよ」
「オッケー!! わたしも砂で髪がゴワゴワ、ラーナに至っては返り血と土でドロドロだもんね」
「一応は洗ったんだけどなぁ」
「そりゃ、あんなにも激しく戦ったらそりゃそうよ」
(水場はありがたい、この量をわたしの弱い魔法で出そうと思ったら……想像したくもない)
リリは嫌な想像を振り払うかのようにブンブンッと顔を振り、別の話題を切り出した。
「ラーナ、暗くなる前に焚き火を用意しておきましょ」
「オッケー、ボクは薪とってくるからリリは水を補充しといて」
「わかったわ、よろしくね!」
「うん! ちゃちゃっと済ませちゃおー」
ラーナは革袋と手鍋と鞄を置いて、洞窟の外へと出て行った。
リリは食材もないので、軽く身支度を整える。
(こんなにも涼しく気持ちいいなんてサイッコー! 日差しが無いなんて屋根もサイッコー!)
「とりあえず髪でも、洗おっと」
リリは腰まであるような長髪を、水面に垂らしザブザブと洗う。
「シャンプーもトリートメントも無いのは辛いわねー」
(今はサラサラなこの髪も痛んじゃうのかなぁ、もったいないわ)
「シャンプーの作り方を知っていたらなぁー」
記憶を遡るが、やっぱり覚えてはいない。
しょうがないのでリリは一心不乱に髪を洗う事にした。
ガサ、ガサガサ……
「ん? ラーナ? 今日は遅かったわね?」
いつもは一瞬で焚き木を集めて来るラーナだが、リリには今日は少し遅れているように感じた。
(出ていく時にトカゲを持っていったし、どうせつまみ食いでもしてたんでしょ? らしいっちゃらしいけど、後でお説教ね!)
ラーナが遅れていることには気にも留めず、水で顔と髪を洗いながらリリは聞いた。
「ちゃんと焼いて、味付けもしてからの方が絶対に美味しいのに……」
ぼそりと呟くリリだが、別の疑問が持ち上がる。
(あれっ? 返事がない)
ガサガサ、キ、キシャ、キシャー
(っえ! この声って、サソリーー!!)
ようやく物音の正体に気づいたリリは、焦って振り返る。
目の前には見たこともないほど大きなサソリが入り口を塞いでいた。
(もしかしてわたしって水に濡れると縮むの? このサソリ大きすぎない?)
[いやっ、そんな、そんな訳がないじゃない! ピクシーが水で縮むなんて聞いたこともない!」
立ちはだかる、本物のジャイアントスコーピオン。
広々としていた洞窟を埋め尽くすほどの体躯、普通のサソリと比べると大きいのは当たり前なのだが、特に尻尾が長く太いように見える。
「尻尾の棘だけで、わたしと同じぐらい大きくない?」
(毒なんか関係なく、刺されたら死ぬわね……)
「……っ……ゴクリ!」
思わず喉が鳴り、心臓が飛び出る程に焦るリリ。
気づいていないのか、それとも気づいていて無視をしているのか、ジャイアントスコーピオンはリリに見向きもせず、水場へとゆっくりと近づいていく。
(どうかこのまま、何事もなく帰ってくれますように……)
岩肌に身を隠し、ブルブルと震えながら願うリリ。
その時!!
「キシェエエェェーー」
「キャー! なになにー?」
ジャイアントスコーピオンは大きな金切り声を上げた、同時にまるで掃除機に吸い込まれたかのようにリリの前からスルッと消えた。
「ここが目的地?」
「うん、さっきよりはいいところでしょー」
「確かに岩で影がある分、マシね!」
大小様々な岩がそこら中に点在しており、小さなものでもラーナの数倍以上、大きなものに関しては山のように巨大なものまである、昔は渓谷だったのかも知れない。
「っあ!! トカゲ!!」
ラーナが勢いよく走り出した。
「ちょ、ちょっと、待ってー」
あっという間に置いていかれたリリも急いで後を追う。
「はぁ、はぁ……急に走らないでよ……捕まえた?」
「うん、ほらっ!」
ラーナの手には赤褐色のトカゲが握られている。
手のひらサイズと小さめだが、ギョロッとした目がリリを見る。
「み、見せなくてもいいわよ」
「美味しそうなのにー」
(わたしには大きくて恐いんですけど! マジで、でっかい!)
思わず目を逸らしたリリの先、小さな洞窟が目端をよぎる。
「っあ、洞窟!」
「洞窟ー?」
「ほらっあそこ!」
「ほんとだー!!」
二人が洞窟へと向かうと、ひんやりとした空気が中から吹き抜ける。
中はリリが住んでいた部屋の2倍ぐらいはあるであろう空間が広がっていた。
「ねぇラーナ、水があるわよ」
「ホントだ、ボクもこんな所に水があるとは知らなかったなぁ」
雨水だろうか、奥の方にはラーナの腰程ぐらいの水が溜まっている。
「見えづらい場所だもんねー」
「もっと早く知りたかったー」
きっと、いろいろな生き物がここの水を飲みに来ていたのだろう、様々な足跡らしき痕がある。
「それにしてもここは、涼しいし過ごしやすいわね」
「そうだねっ」
「焚き火、出来そう?」
「入口も大きいし、下ってないから問題無いんじゃない?」
(あー、一酸化炭素中毒! 確かに重要だわ!)
「じゃあ今日の拠点はここに決定!!」
「危険が無かったらね! 水もたくさんあるし、後で水浴びと洗濯しよっか」
「飲み水にはしないの?」
「なんで? リリが出してくれるって言ったじゃん」
当たり前であるかのように言ったラーナに、リリは過去の自分の言った言葉を思い出す。
[水だけでも頑張って出すわ!]
(あぁハッキリと言ってた、忘れてたー!)
「そっそうだったわね、任せなさい!」
「うん、リリが出した水のが美味しいしねー」
「そうなの?」
「うん、なんて言ったらいいかな……土の匂いがしない」
「ふぇー、違うのね」
(ラーナが普段飲んでいた水か……うーん、想像したくないわ)
「だからさっ! ここの水は水浴びに使おうよ」
「オッケー!! わたしも砂で髪がゴワゴワ、ラーナに至っては返り血と土でドロドロだもんね」
「一応は洗ったんだけどなぁ」
「そりゃ、あんなにも激しく戦ったらそりゃそうよ」
(水場はありがたい、この量をわたしの弱い魔法で出そうと思ったら……想像したくもない)
リリは嫌な想像を振り払うかのようにブンブンッと顔を振り、別の話題を切り出した。
「ラーナ、暗くなる前に焚き火を用意しておきましょ」
「オッケー、ボクは薪とってくるからリリは水を補充しといて」
「わかったわ、よろしくね!」
「うん! ちゃちゃっと済ませちゃおー」
ラーナは革袋と手鍋と鞄を置いて、洞窟の外へと出て行った。
リリは食材もないので、軽く身支度を整える。
(こんなにも涼しく気持ちいいなんてサイッコー! 日差しが無いなんて屋根もサイッコー!)
「とりあえず髪でも、洗おっと」
リリは腰まであるような長髪を、水面に垂らしザブザブと洗う。
「シャンプーもトリートメントも無いのは辛いわねー」
(今はサラサラなこの髪も痛んじゃうのかなぁ、もったいないわ)
「シャンプーの作り方を知っていたらなぁー」
記憶を遡るが、やっぱり覚えてはいない。
しょうがないのでリリは一心不乱に髪を洗う事にした。
ガサ、ガサガサ……
「ん? ラーナ? 今日は遅かったわね?」
いつもは一瞬で焚き木を集めて来るラーナだが、リリには今日は少し遅れているように感じた。
(出ていく時にトカゲを持っていったし、どうせつまみ食いでもしてたんでしょ? らしいっちゃらしいけど、後でお説教ね!)
ラーナが遅れていることには気にも留めず、水で顔と髪を洗いながらリリは聞いた。
「ちゃんと焼いて、味付けもしてからの方が絶対に美味しいのに……」
ぼそりと呟くリリだが、別の疑問が持ち上がる。
(あれっ? 返事がない)
ガサガサ、キ、キシャ、キシャー
(っえ! この声って、サソリーー!!)
ようやく物音の正体に気づいたリリは、焦って振り返る。
目の前には見たこともないほど大きなサソリが入り口を塞いでいた。
(もしかしてわたしって水に濡れると縮むの? このサソリ大きすぎない?)
[いやっ、そんな、そんな訳がないじゃない! ピクシーが水で縮むなんて聞いたこともない!」
立ちはだかる、本物のジャイアントスコーピオン。
広々としていた洞窟を埋め尽くすほどの体躯、普通のサソリと比べると大きいのは当たり前なのだが、特に尻尾が長く太いように見える。
「尻尾の棘だけで、わたしと同じぐらい大きくない?」
(毒なんか関係なく、刺されたら死ぬわね……)
「……っ……ゴクリ!」
思わず喉が鳴り、心臓が飛び出る程に焦るリリ。
気づいていないのか、それとも気づいていて無視をしているのか、ジャイアントスコーピオンはリリに見向きもせず、水場へとゆっくりと近づいていく。
(どうかこのまま、何事もなく帰ってくれますように……)
岩肌に身を隠し、ブルブルと震えながら願うリリ。
その時!!
「キシェエエェェーー」
「キャー! なになにー?」
ジャイアントスコーピオンは大きな金切り声を上げた、同時にまるで掃除機に吸い込まれたかのようにリリの前からスルッと消えた。
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