上 下
33 / 115

6話、デザートフィッシュ(6)“料理パート2”

しおりを挟む
”デザートフィッシュのコンソメスープ“

「ラーナ、待ってる間に次を作るわよ」
「んっ! お腹すいたー」
「この粉々の方で作るわよ!」
「はーい!」

(今回は美味しくなるかなー、なればいいなー)


①粉々になったデザートフィッシュをミンチ状にする

「これミンチにしたいんだけどできる?」
「ミンチ? どうやって?」
「そこは考えてない!」

 堂々と答えるリリにラーナは困りながらも、意外な答えをだした。

「……じゃあ手で潰そっか!」
「っえ? できるの!?」
「出来るよ?」

なんの憂いもなく、当たり前かの様に答えたラーナ。
 デザートフィッシュの一部を両手で掴み、ギュッと握る。
 あっという間にドロドロになりもう元の形など見る影もない。

「ほらっ、これでいい?」
「えーーーー!!」
「簡単だよ?」
「えーーーー!!」

 一瞬の出来事にリリの驚きは最高潮だった、叫ぶ声が止まらない。

「リリ、うるさい」
「あう、すみません」
「そんなにビックリしなくてもいいじゃん」
「も、物凄い……握力、ねー」

 リリには目の前の光景が未だに信じられない。
 ラーナは唖然とするリリを気にも止めずに、次々と握りつぶしていく。

(ラーナがいれば、ミンチどころかジューサーすらいらないわね……)


②ミンチになったデザートフィッシュを焼き固める

「この後、焼いちゃうから、出てきた余分な血は捨てちゃっていいわよ」
「っん、味付けはそのままでいい?」
「塩だけ振っとこうか、弱めでいいわ」
「オッケー!」

 ラーナは元気に返事をすると、テキパキと準備を進める。

(ラーナは旅人歴が長いだけあって、動きが的確で早いわー、初心者とは思えないんだけど!)

 感心するリリの前、ジューッという音と共に少しだけ香ばしい香りが立ち上る。

「焦げ目は付けなくていいわよ、焼き固めるだけだから」
「わかったよー、蓋はする?」
「しなくていいわ、臭みがこもっちゃうから」
「っん、わかったー」

(ここまでは順調そうね)

「出てきた余分な水分も捨てちゃって」
「臭いから?」
「流石ラーナ! 当たり~!」
「やったー、エへへッ」

 またも褒められたラーナは、俯きながら頭を掻く、そして鍋の中の肉に目を向けた。


③香味野菜と一緒にブイヨンに加え、水から強火でアクを出す

「ラーナ、革鎧を煮込んだブイヨンって、残してあったわよね?」
「残り汁? もったいないし取ってあるよ?」
「ブイヨンって言ってよ!」
「言い方なんて何でもいいよー」
「気分の的にブイヨンのが、美味しそうじゃない!」
「んー、お腹に入れば一緒だと思うけどなぁ」

 ラーナは釈然としない表情で答えるので、リリは改めて言う。

「ご飯に気分は大事なのよ?」
「ふーん」

(まだ納得してなさそうだけど)

「まぁいいわ、ブイヨンの代わりにそれで煮込みましょ」
「これで? 水のがよくない?」

 革袋を取り出したラーナは、怪訝な表情をしていたが、リリは言葉を返す。

「水だと味や風味が弱いと思うのよ」
「本当にー?」
「勘よ、勘!」

 自信満々に言うが、リリには根拠はない。
 地球ではコンソメスープはこうやって作るが、なんせ革鎧にモンスターである。
 想像の範疇など等に超えている。

「えー、勘なの? 信じるからね!」
「だいじょーぶ、任せてちょうだい!」
「うん、わかった」

 ラーナはドバドバとブイヨンを、ミンチの入った鍋に入れていく。

「ニンニクとローリエも、入れとこっか!」
「ニンニクはもうないかな……」
「ならローリエだけでいいわ! 一枚ね!」
「はーい」

(食べ物無いんだった、ニンニクなんてあったら、ラーナが食べてるわよね……っあ!)

 鍋を覗き込んだリリは大切なことを一つ伝え忘れたことに気づく。

「ラーナ! 沸騰する前に真ん中に穴を開けといてもらっていいー?」
「せっかく綺麗に焼いたのにー」
「フフッ、ここで穴を空けるのは大事なことなのよ、神の御業を見せてあげる!」

 リリは腰に手を置き、ラーナの鼻をつっつく。

「寝言は寝て言ってくれる? そんなのいいから教えてよー」
「まぁまぁ、急ぐから後でね!」
「んもぅ!」
「今は出てきたアクを取りましょ」
「絶対だからね!」
「はいはい、ほらっもうアクが出てきたわよ」

 リリは鍋を指差し、ラーナの注目を鍋に移すように誘導する。
 鍋の中のスープは、沸々と踊っていた。


④ごくごく弱火にして、綺麗に澄んでくるまで沸騰させ過ぎずに煮込む

「これでいい?」

 作業が一段落し、聞いてきたラーナの目は爛々と輝き、興味津々といった顔をしている。

「穴を空けた理由よね?」
「そう、ずーっと気になってたの!」
「それはね……」
「うん……」

 あまりのラーナの期待の視線に、リリは敢えて勿体ぶった。
 沈黙の中、鍋のフツフツという音と、焚き火のパチパチという音だけが鳴り響く。

「アクを取れるのよ!」

 リリは両手を広げて大げさに答えた。

「っえ? いま取ったじゃんか、なに言ってるの?」

 対してラーナはキョトンとした表情で聞き返す。

(あちゃー、思ってたより反応が鈍い、スベった!)

 リリはコホンッと小さく咳払いをし、説明を真面目に始めた。

「ラーナが取ってくれたのは、実は大きいのだけなのよ」
「ふーん、そうなんだー、それで?」
「細かいアクとか、余分な脂を綺麗に取るには、穴を空けておくと、上に逃げてお肉にくっつくの」
「へぇー、リリは色々と考えてるんだねぇ」
「高級料理なのよ?」

(卵白があったらもっとクリアになるんだけど、まぁ今回は無理よね)

 リリは何もない土地、知らない物ばかりの中で、高級料理を作ったことが誇らしいのか、胸を張った。
 しかし、ラーナの興味は別にあった。

「余分な物ってことは、この身は捨てちゃうの?」
「美味しくないからね」
「えーもったいないなぁ」
「ラーナらしい感想ね」

 更に難しい表情をしたラーナはリリにまたも聞く。

「あのさリリ?」
「ん? なに?」
「食べるとこは?」
「っあ!」

 リリはラーナに指摘され初めて気づいた、コンソメスープはスープである。
 まごうことなき高級料理、故に余分なものは一切ない、今回に関して言えば具材もない。

「ごめん……忘れちゃった!」

 リリはテヘッと舌を出した、それを見てラーナは声を上げる。

「リリーーー!」
「ごめんなさい、ごめんなさい!」
「今日のご飯どうするのさー」
「しょうがないから出がらしを食べよ」

 リリは精一杯、庇護欲を掻き立てるように上目遣いで愛らしく提案をする。

「えーーーー!! 美味しくないんでしょ?」
「それは……ねぇ」

 しかし、全くラーナの食欲の前には勝てなかった。

「料理に夢中で、お腹の足しにする事を完全に忘れてたわ、ごめんラーナ」

 リリはラーナの機嫌が直るまで、何度も何度も謝ることになった。


<40分ほど煮込み続け、出涸らしをそっと別に移す>


『“デザートフィッシュのコンソメスープ”完成』
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

さっさと離婚したらどうですか?

杉本凪咲
恋愛
完璧な私を疎んだ妹は、ある日私を階段から突き落とした。 しかしそれが転機となり、私に幸運が舞い込んでくる……

よくある婚約破棄なので

おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。 その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。 言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。 「よくある婚約破棄なので」 ・すれ違う二人をめぐる短い話 ・前編は各自の証言になります ・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド ・全25話完結

ぼっちは回復役に打って出ました~異世界を乱す暗黒ヒール~

空 水城
ファンタジー
クラスで居場所がない、ぼっちの杖本 優人(つえもと ゆうと)。彼は、ある日突然クラスごと異世界に勇者として召還される。魔王を倒すための能力を一つだけ自由に決められるというので、彼は今度こそみんなの仲間に入れてもらえるように、自ら進んで誰もやりたがらなそうな回復役に立候補した。だが回復魔法を手に入れて束の間、クラスの男子の目線が冷たい。そしてある男子に「回復役なんかいらねえんだよ!」と言われ、勇者の祭壇を追い出されてしまう。回復魔法のみを片手に異世界の草原に立たされる彼。そして早速、魔物に襲われてしまうが、そこで彼はあることに気がつく。「俺の回復魔法、なんかおかしくね?」 異質な回復魔法を得たぼっちと、不遇魔法使いのぼっち少女が紡ぐ、成り上がりファンタジー。 ※書籍化しました。 ※本編完結しました。

転生おばさんは有能な侍女

吉田ルネ
恋愛
五十四才の人生あきらめモードのおばさんが転生した先は、可憐なお嬢さまの侍女でした え? 婚約者が浮気? え? 国家転覆の陰謀? 転生おばさんは忙しい そして、新しい恋の予感…… てへ 豊富な(?)人生経験をもとに、お嬢さまをおたすけするぞ!

マッチョな料理人が送る、異世界のんびり生活。 〜強面、筋骨隆々、とても強い。 でもとっても優しい男が異世界でのんびり暮らすお話〜

かむら
ファンタジー
 身長190センチ、筋骨隆々、彫りの深い強面という見た目をした男、舘野秀治(たてのしゅうじ)は、ある日、目を覚ますと、見知らぬ土地に降り立っていた。  そこは魔物や魔法が存在している異世界で、元の世界に帰る方法も分からず、行く当ても無い秀治は、偶然出会った者達に勧められ、ある冒険者ギルドで働くことになった。  これはそんな秀治と仲間達による、のんびりほのぼのとした異世界生活のお話。

ヒトリぼっちの陰キャなEランク冒険者

コル
ファンタジー
 人間、亜人、獣人、魔物といった様々な種族が生きる大陸『リトーレス』。  中央付近には、この大地を統べる国王デイヴィッド・ルノシラ六世が住む大きくて立派な城がたたずんでいる『ルノシラ王国』があり、王国は城を中心に城下町が広がっている。  その城下町の一角には冒険者ギルドの建物が建っていた。  ある者は名をあげようと、ある者は人助けの為、ある者は宝を求め……様々な想いを胸に冒険者達が日々ギルドを行き交っている。  そんなギルドの建物の一番奥、日が全くあたらず明かりは吊るされた蝋燭の火のみでかなり薄暗く人が寄りつかない席に、笑みを浮かべながらナイフを磨いている1人の女冒険者の姿があった。  彼女の名前はヒトリ、ひとりぼっちで陰キャでEランク冒険者。  ヒトリは目立たず、静かに、ひっそりとした暮らしを望んでいるが、その意思とは裏腹に時折ギルドの受付嬢ツバメが上位ランクの依頼の話を持ってくる。意志の弱いヒトリは毎回押し切られ依頼を承諾する羽目になる……。  ひとりぼっちで陰キャでEランク冒険者の彼女の秘密とは――。       ※3日おきに投稿予定です。  ※この作品は「小説家になろう」さん、「カクヨム」さん、「ノベルアップ+」さん、「ノベリズム」さん、「ネオページ」さんとのマルチ投稿です。

寵妃にすべてを奪われ下賜された先は毒薔薇の貴公子でしたが、何故か愛されてしまいました!

ユウ
恋愛
エリーゼは、王妃になる予定だった。 故郷を失い後ろ盾を失くし代わりに王妃として選ばれたのは後から妃候補となった侯爵令嬢だった。 聖女の資格を持ち国に貢献した暁に正妃となりエリーゼは側妃となったが夜の渡りもなく周りから冷遇される日々を送っていた。 日陰の日々を送る中、婚約者であり唯一の理解者にも忘れされる中。 長らく魔物の侵略を受けていた東の大陸を取り戻したことでとある騎士に妃を下賜することとなったのだが、選ばれたのはエリーゼだった。 下賜される相手は冷たく人をよせつけず、猛毒を持つ薔薇の貴公子と呼ばれる男だった。 用済みになったエリーゼは殺されるのかと思ったが… 「私は貴女以外に妻を持つ気はない」 愛されることはないと思っていたのに何故か甘い言葉に甘い笑顔を向けられてしまう。 その頃、すべてを手に入れた側妃から正妃となった聖女に不幸が訪れるのだった。

平民と恋に落ちたからと婚約破棄を言い渡されました。

なつめ猫
恋愛
聖女としての天啓を受けた公爵家令嬢のクララは、生まれた日に王家に嫁ぐことが決まってしまう。 そして物心がつく5歳になると同時に、両親から引き離され王都で一人、妃教育を受ける事を強要され10年以上の歳月が経過した。 そして美しく成長したクララは16才の誕生日と同時に貴族院を卒業するラインハルト王太子殿下に嫁ぐはずであったが、平民の娘に恋をした婚約者のラインハルト王太子で殿下から一方的に婚約破棄を言い渡されてしまう。 クララは動揺しつつも、婚約者であるラインハルト王太子殿下に、国王陛下が決めた事を覆すのは貴族として間違っていると諭そうとするが、ラインハルト王太子殿下の逆鱗に触れたことで貴族院から追放されてしまうのであった。

処理中です...