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6話、デザートフィッシュ(2)
しおりを挟む「お、は、よう、ござい、まぁーす、ムニャムニャ………んふぁ~~」
リリは大きく手を上げ、身体をグゥーっと伸ばし上半身を起こす。
「リリ起きた? リリは寝ぼすけさんだったんだね!」
ラーナはそう言いケタケタと笑う。
寝ぼすけさんと言われたリリは目をこすり、おもむろに空を見ると、太陽はてっぺんに陣取っていた。
(うわっ、やっちゃった! 本格的に寝坊じゃん)
焦ってキョロキョロと辺りを見渡すリリ、相変わらず一面の砂漠なのは変わらないが、石の位置やサボテンなど、細かなものが色々と違う。
「ここはどこ? 寝るときと景色か違う気が……ふぁぁあ~」
「リリが気持ち良さそうに寝てたから、ボクが運んでたの。」
「そうだったの!? ありがとう!」
「よく寝れた? なるべく揺らさないようにはしてたけど」
リリは起きたものの、揺れがほとんどないので、そこがラーナの手のひらの上だということに、まだ気づいていない。
(ラーナって本当に良い子、わたしなら絶対に叩き起す、絶対に!)
「叩き起こして良かったのにー」
「だってぇ、起きなかったじゃん」
「そ、そうだったの?」
「ずーっと、もうちょっと、もうちょっとって言ってたよ?」
「マジで!?」
「マジで」
(失敗した、昨日のうちに強めに言っておくべきだったわ「無理矢理にでも起こしていいよ」って)
自分自身が朝が苦手で、目覚ましのないこの世界で起きられないのは火を見るより明らか、そんなことすら忘れていた昨夜の自分を呪う。
「ごめんなさい、運んでくれるなんて思ってなかったのよ」
「いいよ、気にしなくて、リリは魔法たくさん使ったんだし、疲れてるのかなって思ってたから」
ピクシーは凄く魔法適正が高いのだろう、全くもって疲れてはいない。
ただただ怠けていただけ、しかしリリは言うのはやめ、話題を変える。
「ラーナは優しいのね」
「そんなことはないよー」
(そんなに優しくされたら、嬉しくてなんて言ったら良いか分からないわ)
しかしリリは率直に感謝を伝える事にした。
昨日のラーナが話した過去話を思い出し、感謝を言ってくれる人が必要だと思ったのだった。
「それでも言わせて、ラーナがこんなに優しくしてくれて、わたしは本当に幸せよ」
「えへへ、ありがとう」
「わたしの方こそ、一緒に旅ができて嬉しいわ、ありがとう!!」
リリは感謝を述べながら、ラーナの頬に優しく抱きつく。
(少しわざとらしかったかな? わたしらしくないことを言った気がする、恥ずッ!!)
言った自分がむず痒い、抱きしめたラーナの頬が少し熱を持つのを感じて
(純真で可愛いなぁ)
と思ったリリは、同時に気持ちが伝わってよかったと安心した。
「リ、リリ?」
「ん? どうしたの?」
「恥ずかしいから離れてよ」
長い時間抱きつくリリに、恥ずかしさからか痺れを切らしたラーナがお願いをする。
「んーもうちょっとー、ラーナのほっぺたぷにぷにで気持ちいいものー」
「もぅ、離れてよー」
「やーだー!」
さっきのいい台詞を台無しにするようなリリの態度、良いお姉さんムーブは少しも続かないみたいだ。
ラーナはリリをつまみ引き離す、そして冷静さを取り戻すように顔をブンブンと横に振った。
そのまま目の前にぶら下げ、話しかける。
「ボク、一つ見て欲しいものがある……」
「なに?」
「いい、の?」
「もちろんよ!」
(あれっ雰囲気が少しピリッとしてるわ)
「あのね? ボク……」
(ちょっと怖いわね、一人で旅するとか言い出されたらどうしよう?)
リリの中で色々なことが駆け巡る、過去を聞いたこと、寝坊したこと。
そんなことを考えていると『ゴクッ!』っと思わずリリの喉がなる。
(こんなところでお別れとか嫌よ? まだ知り合って間もないけど、あのほっぺたは捨て難い!)
リリの思考は明後日の方向に向いている、まだ寝ぼけているのかもしれない。
「ボクの、いやっ鬼族の本気の戦闘を見て欲しい!」
「戦闘?」
「水も飲んで元気になったし、運が良ければ、デザートフィッシュが出ると思うから」
「デザートフィッシュ? なぜ?」
「リリ片言だけど、大丈夫?」
「大丈夫じゃないわ! 急に何を言ってるの?」
デザートフィッシュは砂漠の魚という意味だ、ゲームではたまに出て来ているので、リリもなんとなくは知ってる。
(いきなり戦闘って、野蛮すぎない?)
「闘いたいって言ってるの!」
「それは分かるわ!」
(けど、あれっ? そんなに話しづらそうにすること?)
意図がよくわからないまま首を傾げるリリ、ラーナは説明を続ける。
「リリはハイ・オーク、というか鬼族の闘いは醜いって知ってる?」
「醜い? 知らないわ」
(変身とかするの? それはそれで見てみたい気がするわね)
「人族の間では、人の皮を被った獣とか、死神よりも人を殺したがる化け物とか、呼ばれてるみたいだよ?」
「へぇー」
「怖くないの」
正直、前世では二次元に没頭していたリリからすると、そこまで気にはなる物ではなかった。
(二つ名持ってるのね、厨二病感がむず痒いわ)
「確かに怖いには怖いけど……醜いって事はないんじゃないの?」
「ハハハッ、それは見てのお楽しみだね」
「見た目が変わるわけでもないんだし」
リリは少し冗談っぽく聞いた。
「見た目じゃなくて、心の持ちようだからね」
「心の持ちよう? 精神性って事?」
「そうだよ、対峙した相手には絶対に引かない、恐れや不安を言い訳に逃げることはしない。それがボク等の価値で、誇りで、生き様だからね」
「話しだけ聞くとカッコいい気がするんだけど?」
リリの厨二病心が少しくすぐられる。
「ハハッ! ボクに流れるこの血は、そんな綺麗なものじゃないよ」
「血に綺麗も汚いもないわ!」
(ドロドロとサラサラはあるけどね!)
「ボクは狂ったモンスターと大して変わらないよ?」
「モンスター寄りなの? 誇りはどこへいったの?」
「闘争という欲求に忠実でいる、それがボクら鬼族の生き様で誇りなんだよ」
「生き様かぁ」
(それは……しょうがないのかな?)
「ボクだって他の種族の気持ちが分からないわけじゃないから、他の種族の前ではあんまり表には出さないけどねぇ……」
「なるほど、その姿をわたしに見られたくないのね?」
「違うの」
「何が? できる限り見ないようにしてるわよ?」
(何が違うの? そういう意味じゃないの?)
さらっと答えたリリに、モジモジしながらラーナが言う
「リリには出来たら見守ってて欲しい、出来たらなんだけど……」
(なんていじらしい子なんでしょう? モジモジしてて、こんなに可愛い子いるでしょうか? いやっいません! 絶対にいません!)
テンションの上がったリリは明るく答えた。
「いいわよ、見守るだけで良いのね?」
「うん、もし怖くなったり嫌になったらあっちの方に向かって」
「なんで?」
「飛べるリリなら、多分2、3日ぐらいで街につくから」
そう言って北東の方を指差すラーナ、リリが見ると一面の砂漠と微かな岩しかないがラーナを信じて答えた
「オッケー! でも最後まで見守るわよ、わたしは」
「わかった、本当に行ってもいいからね」
「大丈夫、大丈夫!」
「じゃあ始めるね、リリは少し離れてて」
「はーい」
「巻き込まれないようにね!」
(巻き込む!? そんなにすごいの?)
リリが離れたのを確認すると、ラーナは着ていた全身マントから小瓶を取り出し、そのまま『バサッ』っと思いっきり投げすてた。
中から現れたのは薄い赤褐色の肌、そして綺麗な黒い衣装。
布でできた胸当てに、手を隠すほどのダボっとした袖、腰布はダラリと垂れている。
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