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5話、二人の旅立ち(3)

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「リリ?」
「っあ、えっと……大丈夫よ! それより、わたしラーナさんを手伝うことにしたわ」
「急にどうしたの?」
「どうせわたしは急いで行くところも無いんだし、わたしも日記にある美味しい物やキレイな景色を巡ってみたいもの!」
「本気で言ってるの? 結構、危険だよ?」
「だいじょーぶよ!」

 理由もなく自信満々に明るく答えるリリに、ラーナは怪訝そうに聞く。

「本当に? ボクもさっきまで死にかけてたんだよ、今も結構ヤバいしね……」

 お腹を押さえ答えるラーナに対して、リリは無い胸を目いっぱい張って答えた。

「問題ないわ!!」
「楽観的だなぁ」

 呆れた口調で言うラーナだが、心なしか表情は明るい。

「それに一人より二人のが絶対に楽しいわよ?」
「そうかもしれないけど、ボクはハイ・オークだよ?」
「そんなの気にしてないってー!」
「でも……」
「でもじゃない! わたしは水が出せる、それだけで十分でしょ?」

 食い気味に答えたリリにラーナは驚きながらもうーんと腕を組み悩む。
 自分がハイ・オークだからこそ訪れる理不尽を、リリに背負わせることに負い目を感じているのであろう。

(ここは引かないわよ! 最初に会ったのがラーナさんなのは運命なのよ)

 リリはそう信じることにしていた、楽観的だが覚悟は決まっている。

「わかった! その代わり条件を出させて!」
「受けるわ!」
「即答!?」
「もっちろん!」

 リリの堂々とした返答。
 これは引かないと感じ取ったラーナは、諦めてあっけらかんと答えた。

「まぁ、いっか」
「むふー!!」
「リリ、鼻息が荒いよ」
「あら? そうでした? アハハ」

ラーナが出した条件は3つ
 1つ、魔法が得意なピクシーである以上、魔法を幾つか使えるようになること
 2つ、戦いになったらラーナに方針も含めて全てをラーナにまかせること
 3つ、街に着いた後でその街に残りたかったら必ずラーナに言うこと

「少しでも、街に残りたいと思ったら、必ず言ってほしい……」

 最後にそう呟くラーナに、リリは自分の為の条件なんじゃないかと感じた。

(ラーナさんは人と仲良くするのが怖いのね、過去を鑑みれば無理もないか……でもまぁ、ここで言うのは無粋よねぇ)

「条件はわかったわ! 任せてちょうだい!」
「やっぱり即決なんだね」

 胸を張り答えるリリにラーナはやれやれといった表情で答えるラーナ。

「わたし魔法って言っても、詠唱とかなんにも知らないわよ?」
「うろ覚えでよければ、ボクが教えてあげる」
「ラーナさん、魔法使えるの? オークなのに?」
「失礼だなぁ、ボクだって土魔法なら使えるんだよ?」
「へぇー」

(オークが魔法使えるって意外だわ、肉弾戦ばっかりなのかと)

「リリなんかより上手にね!」
「じゃあわたしも土魔法を覚えるの?」

(パーティとして偏り過ぎじゃない?)

「っん? 祈る神が違うし、そりゃ別の魔法だよ」
「っえ? っあ、そうですか」

(神に祈るのね、そういえばウォーターボールの時、水の神がなんちゃらとか言ってたわ)

「リリなら、風と水が覚えやすいんじゃないかなぁ」
「なんで?」

(ピクシーだからかしら?)

「服が木っぽいし」
「ヘッ!?」

 予想外の理由に変なところから声が出たリリは少し赤面したが、ラーナは気にせず答える。

「生まれたてなら関連性はあると思うんだよねー」
「な、る、ほど?」

 確かにラーナのいう通り、リリの着ているロングドレスは緑と茶色を基調として、ちりばめられた金色の刺繍は気品すら感じさせる。
 木っぽいというのも分からなくは無いデザインだった。

「詠唱、教えるね」
「ラーナさんったらー、連れて行く気満々じゃない」
「そんなんじゃないからっ!」
「優しいのねー」

 からかうリリと照れ隠しをするラーナ、二人は先程までとは違い、微笑ましいやり取りをしていた。

「魔法は、リリが生きて行くには必要でしょ!」
「まぁ優しい、やっぱりわたしの為の条件なんじゃない」

 ラーナは「うるさい」と言うと反論するが、リリはニコニコしたまま聞く。

「何も知らないリリがいけないんじゃん」
「ラーナさんが優しいのは変わらないわ」
「……さっさと始めるから」

 恥ずかしかったのか、すぐにラーナは詠唱の呪文と簡単な魔法の仕組みを話し出す。

 この世界の魔法は、火、水、風、土が基本。
 他にも召喚とか時空など色々とあるが、ラーナも詳しくは知らない様だ。
 ピクシーの体は、魔法の適性が高かったようで、直ぐに魔法を覚えられた。

 リリが今回、覚えた魔法は3つ
 1つ、ウィンドカッター、風を刃にして切りつける魔法
 2つ、ウィンドブーン、風を塊にしてぶつける魔法
 3つ、ウォーターヒール。水を使って傷をいやす魔法

「これで、ラーナさんの条件は達成よね?」
「使えてはいるけど」
「けど?」
「弱すぎる! これじゃ戦闘には使えないよ」
「治癒魔法も使えるわよ?」

 リリは自慢気に言う、回復魔法が使えるというのは旅にはもってこいだろうと踏んでいたからだ、しかしラーナは呆れた様に答えた。

「あれじゃ、せいぜいが熱さましだよ」
「っえ? そうなの?」

(やっぱりチートはないのか……あの野郎! いやいやいや、何かあるはずよ!)

 落胆半分、怒り半分という気持ちだがリリはまだチートを諦めてはいない。

「師匠にピクシーの魔法は強いって聞いてたんだけどなぁ」
「まぁまぁ、いいじゃないそのうち強くなるって」
「はぁー」

 ラーナもリリがピクシーなので期待していたのであろう、大きなため息が落胆していることを物語っていた。

「これからよろしくー!」

 リリはそう言うとまた頬に抱きついた、ラーナの頬がお気に入りになった様だ。

「とりあえず最初の街まで、だから」
「はいはい、今はそれでいいですよー」
「リリは軽いなぁ」
「旅の道連れになったんだし、ラーニャって呼んでもいい?」
「ダメ! そんな小さい子を呼ぶような呼び方、絶対やだ!」

 本気で否定するラーナ、ここまで否定するのは初めてだった。

「あらそう? 可愛いのにラーニャ」
「ぜぇーったい、ダメ!」

(ラーナったら照れてます、照れてます。真っ赤になっちゃって、可愛いわ)

「わかったわよ、ラーナ!」
「んもう、リリったら! 明日は、朝から街に向かうよ」
「了解!」

 ビシッと敬礼をするリリに呆れ顔でラーナは聞く。

「なにそのポーズ……革鎧さっさと食べきるよ」
「いえっ、わたしは結構です」

 鍋から革鎧を摘まみ上げるラーナに対して、これでもかと言うほどの真顔で答えるリリであった………

(哀しく辛い話だったわ、わたしちゃんと笑顔が作れているかしら……)
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