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4話、ラーナのカミングアウト(3)
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「今は英雄が種族を招き入れて作った国が、幾つもあるんだよ」
「鬼族にもあるの? モグモグ」
「うん、ある」
ラーナは腰からナイフを取り出すと、簡単な大陸の地図を地面に書き上げた。
そしてナイフで所々を指しながら説明をする。
「ここが《ルベルンダ氏族同盟》海を挟んだ大きな島にある、鬼族の国」
「鬼族の国! その響きが既に恐そうだわ、モグモグ」
「ハハハ、他種族からしたら、そうかもね」
「ラーナさんの故郷は島国なのねー」
「うん、それで今のボクたちがいるところ《カプト地方》の《ドラーテム王国》はここ!」
ルベルンダを指したナイフを少しだけずらし、ナイフで大小2つの丸を二つ書き込む。
海を隔ててはいるが、ルベルンダに面した大陸側あるらしい。
その内側に書かれた小さな丸は首都だろう。
「結構、近いのねー」
「海がなければね」
ラーナの語り口調は徐々に静かに、それでいて言葉数も減っていくのが、投げやりになっているようにも取れる。
「この二つの国≪ドラーテム王国≫と≪ルベルンダ氏族同盟≫が始めたのが【百年戦争】」
ラーナは本当にどうでもよさそうに言い放つ。
それでもリリには、ゲームのオープニングを聞いているようで、不謹慎な事を思わず口に出してしまった。
「百年戦争! 物語みたいね」
「フフッ、ならボク達は悪役だね」
(やっぱりそうなんだ……魔王軍とかあるのかな? 魔王様はイケメンかなぁ?)
「今から110年ぐらい前に侵略を始めたのは鬼族からだからね」
話しをちゃんと聞き、推測すれば分かっただろう。
しかしリリの頭の中はファンタジー世界の歴史を聞いてお花畑。
分かるはずもなかった。
(侵略!? っえ? っえ? えーっとなんか言わないといけないんだけど……)
「過去は過去、今は今よ、引きずっても仕方ないわ!」
「フッ、本当にリリは優しいね、でも100年も戦ってたんだよ? バカだよねー!」
リリは掛ける言葉を間違えたらしい。
ラーナはいかにも投げやりに、少しだけ怒気を込め言い捨てた。
「結果は、どうなったの?」
「十五年前、エルフが間を取り持つ形で、強制的に終わらせた」
「それは……悪手じゃない? モグモグ」
(当事者じゃない第三者が止めた喧嘩は遺恨が残るんだよなぁ、経験的に……)
リリはまだ人だった頃、両親の夫婦喧嘩を止めに入った時のことを思い出していた。
次の日から娘に気を使ってか無言で喧嘩をする両親。
(あの時は本当に居づらかったなぁ)
リリは以降は他人の喧嘩は仲裁をしない! そう心に決めた出来事なのでよく覚えている。
(規模感は違うけど似たようなものよね? 多分)
「戦争が続くよりかは、まだマシって程度かな?」
「それで街には入れない、と……」
「妖精族のリリでも、ボクが人族の街で嫌われてる訳が、わかるでしょ?」
「それは、まぁ……でも、他の種族は?」
(戦争してない国は関係ないんじゃないの? わたしはそう思うんだけど楽観的過ぎ?)
「人族はこの大陸での最大勢力だからね、右に倣えって感じ」
「あぁ、そっか……」
(かつての解放の英雄が、今では大陸の侵略者……か)
話を聞き終えたリリに、ふとした疑問が湧いた。
「でもよ、なんで侵略戦争なんてしたの? 昔は仲が良かったんじゃないの?」
「らしいね」
「敵に回すには、人族は強大すぎる気がするんだけど、モグモグ、何か意味があったの?」
「フフフッ、やっぱピクシーのリリにはわかんないかー」
乾いた声で笑うラーナ。
見ていると物悲しい気持ちになる、こんなに諦めを感じる笑いをリリは始めて聞いたのだ。
言葉が上手く出てこない。
「……わかる、とは……言えないわ、ごめんなさい!」
「いいよ、いいよ、分かってたことだし」
手を合わせるリリに、ラーナは少しだけ優しく答えた。
「なんでなのか、理由を聞いてもいい?」
「いいよ、多分だけど略奪民族だからとか、戦うのが好きだったとか、そんなくだらない理由じゃない?」
ラーナが口に出した回答は、リリにとっては予想の範疇を大きく超えていた。
驚きのあまりに、思ったことがそのまま口をつく。
「そんなくだらない理由?!」
「クスクス、くだらない、そりゃそうだ」
かなり酷いことを言った自覚のあるリリ。
対してラーナの反応は、そうは思えないほど淡白というか、むしろ喜んでいるようでもある。
自分たちが一般とは違うことを理解しているのだろう。
「ボクは鬼族だし、気持ちはわかるけどねー」
「っええ!! わかるの?」
ラーナの口から出てくる言葉の数々は、その可愛い見た目にはそぐわない苛烈な物ばかり。
元々、平和な国で殴り合いすらしたことない一般人のリリには、言葉を受け止めるので精一杯。
「真実は知らないけどね! 僕の集落は田舎だし」
「第六感……ってこと?」
「そんな大層なものじゃないよ、本能かな?」
「本能……」
「伝統とか、生き様とか、誇りって言い換えてもいいかもね」
「伝統に生き様、それに誇り……ですか」
リリは物語に出てくる鬼の誇りや伝統、なんて一度たりとも想像したことがなかった。
普通考えれば彼らにも生活があるというのに……
(これってちゃんと考えないといけないことよね)
頭では分かっている。
しかし、リリはゲームの設定を読んでいるような、映画を見ているような、正直どこか他人事に感じていた。
もちろん表情にも態度にも、出してはいないが……。
「っま、ボクは戦争を始めた理由も、ボクが何となくわかる理由にも、興味はないんだけどねー」
言葉を続けるラーナは、ずっと乾いた声色で寂しく笑みを浮かべている。
「でも、それはっ……!」
そこまで言うが口ごもる、なんと声をかけようとも表面上の慰めでしかない。
理解していない人に「大丈夫」と楽観的に言われた所で何の意味も価値ない、イライラさせるだけだ。
(身勝手ね、わたしは)
理解できない自分の罪悪感を薄める為だけにラーナを使うのは違うのではないか、そう思い言い留まった。
今回ばかりは自分を褒めてやりたい。そう感じた。
「鬼族にもあるの? モグモグ」
「うん、ある」
ラーナは腰からナイフを取り出すと、簡単な大陸の地図を地面に書き上げた。
そしてナイフで所々を指しながら説明をする。
「ここが《ルベルンダ氏族同盟》海を挟んだ大きな島にある、鬼族の国」
「鬼族の国! その響きが既に恐そうだわ、モグモグ」
「ハハハ、他種族からしたら、そうかもね」
「ラーナさんの故郷は島国なのねー」
「うん、それで今のボクたちがいるところ《カプト地方》の《ドラーテム王国》はここ!」
ルベルンダを指したナイフを少しだけずらし、ナイフで大小2つの丸を二つ書き込む。
海を隔ててはいるが、ルベルンダに面した大陸側あるらしい。
その内側に書かれた小さな丸は首都だろう。
「結構、近いのねー」
「海がなければね」
ラーナの語り口調は徐々に静かに、それでいて言葉数も減っていくのが、投げやりになっているようにも取れる。
「この二つの国≪ドラーテム王国≫と≪ルベルンダ氏族同盟≫が始めたのが【百年戦争】」
ラーナは本当にどうでもよさそうに言い放つ。
それでもリリには、ゲームのオープニングを聞いているようで、不謹慎な事を思わず口に出してしまった。
「百年戦争! 物語みたいね」
「フフッ、ならボク達は悪役だね」
(やっぱりそうなんだ……魔王軍とかあるのかな? 魔王様はイケメンかなぁ?)
「今から110年ぐらい前に侵略を始めたのは鬼族からだからね」
話しをちゃんと聞き、推測すれば分かっただろう。
しかしリリの頭の中はファンタジー世界の歴史を聞いてお花畑。
分かるはずもなかった。
(侵略!? っえ? っえ? えーっとなんか言わないといけないんだけど……)
「過去は過去、今は今よ、引きずっても仕方ないわ!」
「フッ、本当にリリは優しいね、でも100年も戦ってたんだよ? バカだよねー!」
リリは掛ける言葉を間違えたらしい。
ラーナはいかにも投げやりに、少しだけ怒気を込め言い捨てた。
「結果は、どうなったの?」
「十五年前、エルフが間を取り持つ形で、強制的に終わらせた」
「それは……悪手じゃない? モグモグ」
(当事者じゃない第三者が止めた喧嘩は遺恨が残るんだよなぁ、経験的に……)
リリはまだ人だった頃、両親の夫婦喧嘩を止めに入った時のことを思い出していた。
次の日から娘に気を使ってか無言で喧嘩をする両親。
(あの時は本当に居づらかったなぁ)
リリは以降は他人の喧嘩は仲裁をしない! そう心に決めた出来事なのでよく覚えている。
(規模感は違うけど似たようなものよね? 多分)
「戦争が続くよりかは、まだマシって程度かな?」
「それで街には入れない、と……」
「妖精族のリリでも、ボクが人族の街で嫌われてる訳が、わかるでしょ?」
「それは、まぁ……でも、他の種族は?」
(戦争してない国は関係ないんじゃないの? わたしはそう思うんだけど楽観的過ぎ?)
「人族はこの大陸での最大勢力だからね、右に倣えって感じ」
「あぁ、そっか……」
(かつての解放の英雄が、今では大陸の侵略者……か)
話を聞き終えたリリに、ふとした疑問が湧いた。
「でもよ、なんで侵略戦争なんてしたの? 昔は仲が良かったんじゃないの?」
「らしいね」
「敵に回すには、人族は強大すぎる気がするんだけど、モグモグ、何か意味があったの?」
「フフフッ、やっぱピクシーのリリにはわかんないかー」
乾いた声で笑うラーナ。
見ていると物悲しい気持ちになる、こんなに諦めを感じる笑いをリリは始めて聞いたのだ。
言葉が上手く出てこない。
「……わかる、とは……言えないわ、ごめんなさい!」
「いいよ、いいよ、分かってたことだし」
手を合わせるリリに、ラーナは少しだけ優しく答えた。
「なんでなのか、理由を聞いてもいい?」
「いいよ、多分だけど略奪民族だからとか、戦うのが好きだったとか、そんなくだらない理由じゃない?」
ラーナが口に出した回答は、リリにとっては予想の範疇を大きく超えていた。
驚きのあまりに、思ったことがそのまま口をつく。
「そんなくだらない理由?!」
「クスクス、くだらない、そりゃそうだ」
かなり酷いことを言った自覚のあるリリ。
対してラーナの反応は、そうは思えないほど淡白というか、むしろ喜んでいるようでもある。
自分たちが一般とは違うことを理解しているのだろう。
「ボクは鬼族だし、気持ちはわかるけどねー」
「っええ!! わかるの?」
ラーナの口から出てくる言葉の数々は、その可愛い見た目にはそぐわない苛烈な物ばかり。
元々、平和な国で殴り合いすらしたことない一般人のリリには、言葉を受け止めるので精一杯。
「真実は知らないけどね! 僕の集落は田舎だし」
「第六感……ってこと?」
「そんな大層なものじゃないよ、本能かな?」
「本能……」
「伝統とか、生き様とか、誇りって言い換えてもいいかもね」
「伝統に生き様、それに誇り……ですか」
リリは物語に出てくる鬼の誇りや伝統、なんて一度たりとも想像したことがなかった。
普通考えれば彼らにも生活があるというのに……
(これってちゃんと考えないといけないことよね)
頭では分かっている。
しかし、リリはゲームの設定を読んでいるような、映画を見ているような、正直どこか他人事に感じていた。
もちろん表情にも態度にも、出してはいないが……。
「っま、ボクは戦争を始めた理由も、ボクが何となくわかる理由にも、興味はないんだけどねー」
言葉を続けるラーナは、ずっと乾いた声色で寂しく笑みを浮かべている。
「でも、それはっ……!」
そこまで言うが口ごもる、なんと声をかけようとも表面上の慰めでしかない。
理解していない人に「大丈夫」と楽観的に言われた所で何の意味も価値ない、イライラさせるだけだ。
(身勝手ね、わたしは)
理解できない自分の罪悪感を薄める為だけにラーナを使うのは違うのではないか、そう思い言い留まった。
今回ばかりは自分を褒めてやりたい。そう感じた。
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