上 下
311 / 324

外店 11

しおりを挟む
 光弘みつひろの言葉に、ゆいが切なげに目を細めた。
 透き通るような白い首筋に、ふわりと触り心地の良い小さな身体を柔らかく摺り寄せる。

あお海神わだつみがとてもよくしてくれている。これ以上望めることなんてない。それなのに、俺の心配をしてくれる友人たちまでいてくれるなんて・・・。俺がどんなに幸せか、どうしたらみんなに伝えられる?」

 真也しんや光弘みつひろの頭を静かになでた。

 「ありがとう・・・。」

 真也しんやの言葉に、光弘みつひろはくすぐったそうに笑う。

 「駄目だよ、真也しんや。それは俺が言うセリフなんだ。」

 これ以上気にしていれば、光弘みつひろを余計に困らせてしまうだろう。

 2人のやり取りを酷く優しい微笑を浮かべて見つめていたしょうが、声を潜めて口を開いた。 

 「そういえばさ。」

 「ん?」

 「黒の奴はどうして自分の家に帰らないんだ。最強の妖鬼って言われてるんだ。それこそ、自分の家に居るのが一番安全なんじゃないか。この世界で一番おっかない奴だ。そんな物騒なところに近づく奴なんていないんだからさ。」

 その言葉に、ゆいがとがった耳をピクリと震わせる。

 「奴の戻るべきところは、光弘みつひろの元だけだ。住処など必要ない。」

 「それって、どういう・・・」

 以外にもこの発言に食いついたのは光弘みつひろ本人だ。
 だが、光弘みつひろがこの質問の答えを得ることは叶わなかった。

 突然背後で起きた歓声に、一同は思わず振り返る。

 そちらに目をやると、いくつもの穴が不ぞろいに上向きに開けられた真四角の大きな石のかたまりが置かれている。

 その前で、まだ幼い妖鬼の子どもらが身を乗り出して、穴から飛び出してきた、蝶のようにひらひらと舞い踊るものを摘み取ろうと、手にした箸でしきりに追い回していた。

 石の中から、白い蝶が落ちてくるたびに何か大きなものがぶつかるような、ドンという恐ろしく重い音が響く。

 「あれは?」

 真也しんやが問いかけると、いまだにつのを撫でまわしていた小男が楽し気に説明を始める。
 一体この男ときたら、どれほど逞しい商売魂を持っているのか、呆れるほどだ。

 「あれは最近流行りの子供の遊びですな。石の下を捨目魚しゃもくぎょの縄張りに合わせてあるのです。」

 「捨目魚しゃもくぎょ?」

 「おや。ご存じないですか。」

 「残念ながら、生き物には酷く疎くてね。」

 真也しんやをフォローするようにあおが言葉を繋ぐと、小男は「なるほど」と納得した様子で頭を縦に振る。

 「頭部についている目玉を空中に打ち出す巨大な魚です。子供らは奴が打ち上げた目玉を箸でつまみ取り、その数を競っているのですよ。」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

【完結】生贄になった婚約者と間に合わなかった王子

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
フィーは第二王子レイフの婚約者である。 しかし、仲が良かったのも今は昔。 レイフはフィーとのお茶会をすっぽかすようになり、夜会にエスコートしてくれたのはデビューの時だけだった。 いつしか、レイフはフィーに嫌われていると噂がながれるようになった。 それでも、フィーは信じていた。 レイフは魔法の研究に熱心なだけだと。 しかし、ある夜会で研究室の同僚をエスコートしている姿を見てこころが折れてしまう。 そして、フィーは国守樹の乙女になることを決意する。 国守樹の乙女、それは樹に喰らわれる生贄だった。

貴方の事を愛していました

ハルン
恋愛
幼い頃から側に居る少し年上の彼が大好きだった。 家の繋がりの為だとしても、婚約した時は部屋に戻ってから一人で泣いてしまう程に嬉しかった。 彼は、婚約者として私を大切にしてくれた。 毎週のお茶会も 誕生日以外のプレゼントも 成人してからのパーティーのエスコートも 私をとても大切にしてくれている。 ーーけれど。 大切だからといって、愛しているとは限らない。 いつからだろう。 彼の視線の先に、一人の綺麗な女性の姿がある事に気が付いたのは。 誠実な彼は、この家同士の婚約の意味をきちんと理解している。だから、その女性と二人きりになる事も噂になる様な事は絶対にしなかった。 このままいけば、数ヶ月後には私達は結婚する。 ーーけれど、本当にそれでいいの? だから私は決めたのだ。 「貴方の事を愛してました」 貴方を忘れる事を。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

処理中です...