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光弘の支度 2

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 「随分とややこしい言葉を使うね。・・・ねぇ。みーくんは、神妖界の昔語りというのを聞いたことがある?」

 「うん。」

 「双凶のあおは神妖界を救い、黒は時を同じくして地界を滅ぼした。そこにいた全ての人間を焼き尽くしてね・・・・・・。わかるだろう?彼は善良な存在じゃ無い。崇高だなんて、そんな風に思わないで。・・・ただの妖鬼なんだ。」

 楓乃子かのこの言葉に、納得がいっていないのだろう。
 光弘みつひろは眉間に深いしわを寄せた。

 「・・・その話は、本当なのかな?」

 「どういう意味?」

 「姉さんは知っているでしょう。俺は、何年も前から黒と一緒に夜を過ごしてた。彼が作る夢の中で・・・・・・。」

 「・・・・・・。」

 「彼の世界は、素朴で綺麗で・・・あまりにも優し過ぎる。昔語りは黒には似合わないよ。・・・俺は、あの昔語りは嘘か、肝心なことを伝えていないいい加減なものなんじゃないかと思ってるんだ。・・・そもそもあれは、ただの昔話でしょう。」

 神妖界の伝説とも呼ばれ、信仰に近い感覚で語り継がれている昔語りを『ただの昔話』として軽く蹴り飛ばしてしまった光弘みつひろに、楓乃子かのこは小さく噴き出してしまった。

 光弘みつひろは不思議そうに首をかしげたが、楓乃子かのこが手をあげ「なんでもない」と言いながらどうにか笑いを収めるのを見て、続きを話しだした。

 「だけど・・・」

 「だけど?」

 「・・・もしそうだとしてもきっと、彼は本当のことを俺に話したりはしないと思うんだ。俺は彼にとって何の支えにもなれていないから。・・・それなのに、黒はどうして、そんな俺のそばにいるんだろう。どうしてあんなに優しくしてくれるの。姉さん。・・・それはやっぱり俺が・・・無色の力を持つ者だからなのかな?」

 光弘みつひろが目を伏せ、しょげかえって話すのを聞いていた楓乃子かのこは、ほんの瞬きほどの合間、傷ついたような表情かおをした。

 「・・・それは違う。」

 俯いてしまった光弘みつひろの頭を柔らかく撫でながら、楓乃子かのこは丁寧に言葉を紡ぐ。

 「妖鬼である彼の生き方に、大した意味などない。彼らは欲望に忠実に生きることしかできない生き物なんだ。だから彼が今、みーくんのそばをただ離れずにいるというのなら、真実は一つだよ。・・・彼にとって何よりも大切な存在が、きみなんだということ。それだけだ。・・・嫌じゃなければ・・・このまま君の傍に、いさせてやって。」

 「迷惑なんて!そんなわけない。」

 楓乃子かのこは憂いを帯びた不思議な瞳で、泣き出してしまいそうな光弘みつひろの顔をじっと見つめると、寂しそうに微笑んだ。

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