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蒼の館 3

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 「ねぇ。この前も言ったけれど、あお・・・きみはあまりにもいろいろと知りすぎているよね。いい加減教えろ。一体、どんなからくりがある?」

 先ほどまでの肌がしびれるような辛味の効いた雰囲気など、この二人の妖鬼にとっては、とっくに過去のものになってしまったようだ。
 海神わだつみは黒とあおの間に流れる空気が再び穏やかなものに戻っていることを確認し、ひっそりと胸をなでおろしていた。

 海神わだつみは、黒のことをほとんど知らなかった。
 なのになぜか、喉の奥に小骨がちくちくと障っているように、彼の存在がどうしても気にかかる。
 この二人の争う姿など見たくはないというのが海神わだつみの本音だった。

 そんな海神わだつみの心の動きを敏感に感じ取ったあおは、彼を困らせてしまったことに気づくと誤魔化すように苦笑いを浮かべた。
 海神わだつみの耳元に口を寄せ、彼だけに聞こえる声で小さく「ごめん」とささやいてくる。

 その言動にふわりと柔らかい気持ちに包まれた海神わだつみは、習慣から無意識のうちに思わず蒼に身体を預けそうになった。
 黒の視線に気づき、はっとして慌てて居住まいをただす。

 海神わだつみは恥ずかしさから目を伏せ、首筋をほんのり桜色に染め上げた。

 だがその時にはすでにあお海神わだつみが身体を傾けようとしたことに気づいていて、またたくまに嬉しさで胸がいっぱいになっていた。
 あおには海神わだつみのような慎ましさはないし、面の皮もこの上なく厚いものだから、黒のことなど一切気にもとめず、弾むような喜びのまま、素直に彼を胸にぐっと引き寄せた。

 あおがようやく黒の質問に答える気になったのは、彼が海神わだつみの艶やかな髪をゆっくりと三度なでてからのことだった。

 「それを話すなら、まず先に君に返しておきたいものがある。・・・これは、君のものだろう。」

 片腕はしっかりと眉間にしわをよせた海神わだつみを抱え込んだまま、あおは空いている方の手で器用に袂から小袋を引きずり出すと、中からごく小さな緑色の石を取り出して見せた。

 黒は驚きに息をのみ、束の間目を見開いていたが、得心がいったといったところだろう。
 ふいっと視線を逸らすと、すねたように口をとがらせた。

 「・・・・・・緑紅石りょくこうせきか。まさかこれが君の元にいっていたとはね。どうりで僕のところへ戻らないわけだ。」

 緑紅石りょくこうせき・・・・・・。
日の光を浴びると緑から桜色へと悩まし気な変化を見せるこの石は、装飾品としての人気が非常に高く、同時に極々希少な代物だ。

 さらにこの石は耐久性や強度的にもすぐれているうえ、妖力との相性も良いので魔道具の材料としても極めて重宝されている。
 そのことがこの宝石の価値をさらに高め、不動のものとしていた。

 黒はこの石に記憶を保管し、転生時に正しく記憶を補うための道具として、自らの魂に括り付けていた。
 だが、念のためにと二つ作り出したはずの石の一つは、黒の元へ戻ってくることはなかった。
 黒は「転生の衝撃に耐えられず砕けてしまったのだろう」くらいに軽く考え諦めていたのだが・・・。

 まさかそれがあおの手にあったとは・・・・・・。

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