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蒼の館 2
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蒼は海神に手を引かせると、代わりに自らの妖気を黒に流し込み始めた。
「おい。必要ないと言っている。それに、海神はともかく、君のは完全に嫌々だろう。・・・吐き気がする。やめろ。」
黒は苦し気に呼吸を乱し、吐き捨てるように言うと、深く息をついた。
「それで。・・・二人でそろってここへ来たということは、海神に僕の話をすることにしたの?それとも、別の用事?」
蒼はかざしていた手を下ろすと、真剣な表情で黒に向き合った。
「覚悟がついた。互いにもう、何も隠す必要はなくなったんだ。自分の口で直接・・・海神に君の話を伝えておきたい。」
黒は蒼の言葉を正しく理解していた。
いきさつまでは分からないし特に興味もないが、どうやらこの二人はようやく互いの過去を打ち明け合うことができたようだ。
以前感じた限りでは蒼は一方的に名を欲しがっているように見えたのだが、海神の実直なたちを考えれば、恐らくは海神自身も、蒼からの名づけを欲しているのだろう。
蒼の「互いに」という含みのある言葉がそのことを裏付けていた。
・・・・・・名づけは、相手に対する服従ともとれる契約である。
主となる相手への秘め事はできない。
主となる者が望めば、自らですら意識していない深層意識の奥底に眠るどんなにくだらないことまでも、つまびらかにさらされてしまうことになるのだ。
蒼は名づけの前に、大切なことは自らの口で直接伝えておきたいと考えているのだろう。
この蒼という男は、妖鬼としては異色だ。
やることなすこと全てが清々しいほど潔く、歯切れのよい行動を好んでいる。
しかもあんなにも暗く湿り気を帯びた場所に生まれ生きておいて、清潔さを好むのだからあきれたものだ。
この場に海神をわざわざ連れてきたのも、「海神に伝えるのならば自分の前で」という約束を、馬鹿正直に守るためなのかもしれない。
そう思うと、黒は胸の奥をくすぐられ、小さくくすりと笑いをもらした。
「なにがおかしい。」
「いや。・・・やはり、君も憎めない奴だと思ってね。」
黒の言葉に、海神の指先がぴくりと反応を見せる。
「海神、待って。冗談でも焼いたりするなよ。僕はこいつには一切興味がないんだから。・・・全く、君たちときたら、本当に面倒だね。」
あきれたようにため息をつくと、黒はわずかに顎をしゃくる。
「・・・・・・話してやれよ。蒼。そのために僕の眠りを邪魔しに来たんだろう。」
「・・・ああ。」
・・・・・・蒼の口から語られる黒の物語は、海神の心を深く抉った。
蒼が全てを語り終えた時、海神は静かに目を伏せていた。
その拳は無意識のうちにきつく握りしめられ、彼の顔色同様に色を失っている。
蒼はいたわるようにそっと海神の拳をひらいてやった。
その様子を見つめながら黒は、ふいに口を開いた。
「おい。必要ないと言っている。それに、海神はともかく、君のは完全に嫌々だろう。・・・吐き気がする。やめろ。」
黒は苦し気に呼吸を乱し、吐き捨てるように言うと、深く息をついた。
「それで。・・・二人でそろってここへ来たということは、海神に僕の話をすることにしたの?それとも、別の用事?」
蒼はかざしていた手を下ろすと、真剣な表情で黒に向き合った。
「覚悟がついた。互いにもう、何も隠す必要はなくなったんだ。自分の口で直接・・・海神に君の話を伝えておきたい。」
黒は蒼の言葉を正しく理解していた。
いきさつまでは分からないし特に興味もないが、どうやらこの二人はようやく互いの過去を打ち明け合うことができたようだ。
以前感じた限りでは蒼は一方的に名を欲しがっているように見えたのだが、海神の実直なたちを考えれば、恐らくは海神自身も、蒼からの名づけを欲しているのだろう。
蒼の「互いに」という含みのある言葉がそのことを裏付けていた。
・・・・・・名づけは、相手に対する服従ともとれる契約である。
主となる相手への秘め事はできない。
主となる者が望めば、自らですら意識していない深層意識の奥底に眠るどんなにくだらないことまでも、つまびらかにさらされてしまうことになるのだ。
蒼は名づけの前に、大切なことは自らの口で直接伝えておきたいと考えているのだろう。
この蒼という男は、妖鬼としては異色だ。
やることなすこと全てが清々しいほど潔く、歯切れのよい行動を好んでいる。
しかもあんなにも暗く湿り気を帯びた場所に生まれ生きておいて、清潔さを好むのだからあきれたものだ。
この場に海神をわざわざ連れてきたのも、「海神に伝えるのならば自分の前で」という約束を、馬鹿正直に守るためなのかもしれない。
そう思うと、黒は胸の奥をくすぐられ、小さくくすりと笑いをもらした。
「なにがおかしい。」
「いや。・・・やはり、君も憎めない奴だと思ってね。」
黒の言葉に、海神の指先がぴくりと反応を見せる。
「海神、待って。冗談でも焼いたりするなよ。僕はこいつには一切興味がないんだから。・・・全く、君たちときたら、本当に面倒だね。」
あきれたようにため息をつくと、黒はわずかに顎をしゃくる。
「・・・・・・話してやれよ。蒼。そのために僕の眠りを邪魔しに来たんだろう。」
「・・・ああ。」
・・・・・・蒼の口から語られる黒の物語は、海神の心を深く抉った。
蒼が全てを語り終えた時、海神は静かに目を伏せていた。
その拳は無意識のうちにきつく握りしめられ、彼の顔色同様に色を失っている。
蒼はいたわるようにそっと海神の拳をひらいてやった。
その様子を見つめながら黒は、ふいに口を開いた。
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