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混乱 1
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「・・・あれと同じ物が蒼の館にあったのか。」
「そういうこと。」
海神に答えると、蒼は再び白妙を見つめた。
白妙の頭の中は、宵闇で溢れ、混乱による激しい痛みで今にもはじけ飛んでしまいそうだった。
胸の内は、どくどくと激しく脈動し、どうどうと荒れ狂う血流の音でふさがれた耳は、ほとんど何も聞こえない。
・・・・・・あの時、自分の意識を奪った笛の音は宵闇のものだったというのか。
神妖界を絶望の淵へと陥れ、龍粋の命を奪ったあの、憎むべき笛を吹いていたのが、宵闇だったと・・・・・・!?
突然の混乱にその場が支配される中、すがるような思いで海神に目をやった翡翠の視線は、その上にある蒼の顔の上で止まった。
気のせいだろうか・・・。
白妙を見つめる蒼の瞳が、いたわるような慈しみを含んでいるように、翡翠の目には映った。
だが、彼の口から紡がれた次の言葉は、そんな柔らかい感覚を頭から冷水を浴びせかけたように、瞬時にザブリと洗い流してしまう。
わずかに目を細めた蒼は、刹那、何かに気づいたように眉間にしわをよせ表情をこわばらせると、冷たく刺すような紅い光を瞳に閃かせた。
「白妙・・・甘えるなよ。」
鋭くつきつけられた蒼の声は、轟音を切り裂くように白妙の耳に入り込み、脳を直接揺さぶった。
色を失い、呼吸を・・・全身を震わせていた白妙は、つきつけられた氷のような言葉に、ビクリと大きく身をすくめた。
「過ぎた事に囚われるな。・・・今の君には、自分を見失う余裕や資格などないはずだ。」
混乱のあまり白妙の耳の奥で、渦巻いていた轟音は、池の水が凍り付いていくかのごとく、ヒシヒシと固まり、静まっていく。
突然強敵に目の前をふさがれた野ネズミが、恐ろしさのあまり心臓をキュッと引き絞られてしまった時のような様相をみせた白妙は、ひどく怯え肩を震わせている。
目撃してしまった者の目に、それはとても弱弱しく心細く映り、これ以上ないほど憐れを誘った。
いかなる時も威風をまとい悠然と雅に振る舞うのが、白妙という者だ。
いたずらにふざける時も、怒りに身を震わせる時も・・・・・・涙をこぼす時でさえ、白妙は澄み切った気高さや、威風を損なうことなどなかったのだ・・・・・・。
黒を前にするまでは・・・。
白妙が見せた初めての怯えに、翡翠は息が止まるほど胸を痛め、たまらず声を荒げた。
「なぜそんな言い方をっ・・・」
「翡翠・・・」
ふいに耳に飛び込んできた深く落ち着いた声に、感情の起伏は感じられなかった。
大きくも小さくもない淡々とした声で名を呼ばれ、翡翠がそちらを見ると、普段と寸分も変わらない冷たい表情をたたえた海神が、蒼の腕の中、小さく首を横に振り、そっと白妙に目をやった。
「そういうこと。」
海神に答えると、蒼は再び白妙を見つめた。
白妙の頭の中は、宵闇で溢れ、混乱による激しい痛みで今にもはじけ飛んでしまいそうだった。
胸の内は、どくどくと激しく脈動し、どうどうと荒れ狂う血流の音でふさがれた耳は、ほとんど何も聞こえない。
・・・・・・あの時、自分の意識を奪った笛の音は宵闇のものだったというのか。
神妖界を絶望の淵へと陥れ、龍粋の命を奪ったあの、憎むべき笛を吹いていたのが、宵闇だったと・・・・・・!?
突然の混乱にその場が支配される中、すがるような思いで海神に目をやった翡翠の視線は、その上にある蒼の顔の上で止まった。
気のせいだろうか・・・。
白妙を見つめる蒼の瞳が、いたわるような慈しみを含んでいるように、翡翠の目には映った。
だが、彼の口から紡がれた次の言葉は、そんな柔らかい感覚を頭から冷水を浴びせかけたように、瞬時にザブリと洗い流してしまう。
わずかに目を細めた蒼は、刹那、何かに気づいたように眉間にしわをよせ表情をこわばらせると、冷たく刺すような紅い光を瞳に閃かせた。
「白妙・・・甘えるなよ。」
鋭くつきつけられた蒼の声は、轟音を切り裂くように白妙の耳に入り込み、脳を直接揺さぶった。
色を失い、呼吸を・・・全身を震わせていた白妙は、つきつけられた氷のような言葉に、ビクリと大きく身をすくめた。
「過ぎた事に囚われるな。・・・今の君には、自分を見失う余裕や資格などないはずだ。」
混乱のあまり白妙の耳の奥で、渦巻いていた轟音は、池の水が凍り付いていくかのごとく、ヒシヒシと固まり、静まっていく。
突然強敵に目の前をふさがれた野ネズミが、恐ろしさのあまり心臓をキュッと引き絞られてしまった時のような様相をみせた白妙は、ひどく怯え肩を震わせている。
目撃してしまった者の目に、それはとても弱弱しく心細く映り、これ以上ないほど憐れを誘った。
いかなる時も威風をまとい悠然と雅に振る舞うのが、白妙という者だ。
いたずらにふざける時も、怒りに身を震わせる時も・・・・・・涙をこぼす時でさえ、白妙は澄み切った気高さや、威風を損なうことなどなかったのだ・・・・・・。
黒を前にするまでは・・・。
白妙が見せた初めての怯えに、翡翠は息が止まるほど胸を痛め、たまらず声を荒げた。
「なぜそんな言い方をっ・・・」
「翡翠・・・」
ふいに耳に飛び込んできた深く落ち着いた声に、感情の起伏は感じられなかった。
大きくも小さくもない淡々とした声で名を呼ばれ、翡翠がそちらを見ると、普段と寸分も変わらない冷たい表情をたたえた海神が、蒼の腕の中、小さく首を横に振り、そっと白妙に目をやった。
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