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願望 2
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「海神。お前・・・なぜ、そんな顔をする。」
白妙の問いかけにみずはが、小さな顔を傾け不安げに海神を覗き込む。
海神はなんのことかわからず、ただ静かに二人を見返し目を細めた。
「これだけ長く共にいれば、お前のその厚い氷のような無表情の奥も見える。お前、あの二人のこと、気に入っているのだろう。なのになぜ離れようとする。・・・・・・海神。お前、もう少しわがままに生きていいのだぞ。」
恐らく、この鈍感過ぎる海神は、自分自身が久遠と翡翠を好ましく思っていることに、気づいてすらいなかったのだろう。
わずかに目を見開いた後、切れ長の美しい目を哀し気に伏せ、まるで見ているこちらの心にまで霜が降りるようだ。
白妙が寂しげな笑みを向ける。
聞かずとも彼には、海神の答えが分かっていた。
「ならば、なおのこと・・・・・・共にある気はない。白妙、私はすでに・・・」
固い声音を響かせた海神の言葉を遮るように、白妙がピクリと身体を震わせた。
片手で海神を軽く制する。
白妙の胸の辺りから、くぐもった声がかすかに聞こえるのに気づき、海神とみずははいぶかし気にそこを見つめた。
白妙は袂から繭玉を一つ取り出すと、「仕方のないやつだ」と小言を唱えながらため息をつき、中の者を出す。
「お前たち、案外と気が短いのだな。」
現れた二つの人影は、白妙に謝罪の言葉を告げ、海神に向き直った。
「・・・・・・久遠。・・・・・・翡翠。」
「海神様・・・・・・。」
海神と視線がぶつかった翡翠は、こらえきれないと言うように、言葉を吐き出した。
「ご無礼をいたします。海神様・・・あなた様はあまりにも酷過ぎます。久遠と私をこんなに大事にしておきながら、私たちがあなたを大切にする機会をくださらないのですか。」
「・・・・・・。」
形の良い唇を固く閉ざしてしまった海神に、久遠が燃え上がりそうな瞳を向け、かみしめるように語り掛ける。
「海神様・・・。あなた無しに、私は翡翠を救えなかった。あなたがいなければ・・・本当に全てを失ってしまっていた。恨むわけなどない。」
「・・・・・・。」
「私はあなたの元を離れたくはない。人だから・・・・出会ったばかりだから、信用できませんか。・・・・・・お願いです。私を嫌ってくれないのなら、傍においてください。私はあなたを諦められない。」
「・・・・・・久遠。」
射抜くような久遠の強すぎる眼差しと紡がれた言葉に、海神は瞳を揺らした。
・・・・・・戦いたくて戦っていた時など、一度もなかった。
龍粋を失った絶望と後悔から目をそらせず・・・・・・幼かったあの日の自分のように、抗えない邪な力に大切な者を奪われ嘆く者たちを見ていることがあまりにも辛すぎて、動かずにはいられない・・・・・・。
そんな身勝手な理由で誰かを助けることは、ただの自己満足であり、わがままでしかないのだと、海神は厳しく自分を律しているのだ。
白妙の問いかけにみずはが、小さな顔を傾け不安げに海神を覗き込む。
海神はなんのことかわからず、ただ静かに二人を見返し目を細めた。
「これだけ長く共にいれば、お前のその厚い氷のような無表情の奥も見える。お前、あの二人のこと、気に入っているのだろう。なのになぜ離れようとする。・・・・・・海神。お前、もう少しわがままに生きていいのだぞ。」
恐らく、この鈍感過ぎる海神は、自分自身が久遠と翡翠を好ましく思っていることに、気づいてすらいなかったのだろう。
わずかに目を見開いた後、切れ長の美しい目を哀し気に伏せ、まるで見ているこちらの心にまで霜が降りるようだ。
白妙が寂しげな笑みを向ける。
聞かずとも彼には、海神の答えが分かっていた。
「ならば、なおのこと・・・・・・共にある気はない。白妙、私はすでに・・・」
固い声音を響かせた海神の言葉を遮るように、白妙がピクリと身体を震わせた。
片手で海神を軽く制する。
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白妙は袂から繭玉を一つ取り出すと、「仕方のないやつだ」と小言を唱えながらため息をつき、中の者を出す。
「お前たち、案外と気が短いのだな。」
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「・・・・・・久遠。・・・・・・翡翠。」
「海神様・・・・・・。」
海神と視線がぶつかった翡翠は、こらえきれないと言うように、言葉を吐き出した。
「ご無礼をいたします。海神様・・・あなた様はあまりにも酷過ぎます。久遠と私をこんなに大事にしておきながら、私たちがあなたを大切にする機会をくださらないのですか。」
「・・・・・・。」
形の良い唇を固く閉ざしてしまった海神に、久遠が燃え上がりそうな瞳を向け、かみしめるように語り掛ける。
「海神様・・・。あなた無しに、私は翡翠を救えなかった。あなたがいなければ・・・本当に全てを失ってしまっていた。恨むわけなどない。」
「・・・・・・。」
「私はあなたの元を離れたくはない。人だから・・・・出会ったばかりだから、信用できませんか。・・・・・・お願いです。私を嫌ってくれないのなら、傍においてください。私はあなたを諦められない。」
「・・・・・・久遠。」
射抜くような久遠の強すぎる眼差しと紡がれた言葉に、海神は瞳を揺らした。
・・・・・・戦いたくて戦っていた時など、一度もなかった。
龍粋を失った絶望と後悔から目をそらせず・・・・・・幼かったあの日の自分のように、抗えない邪な力に大切な者を奪われ嘆く者たちを見ていることがあまりにも辛すぎて、動かずにはいられない・・・・・・。
そんな身勝手な理由で誰かを助けることは、ただの自己満足であり、わがままでしかないのだと、海神は厳しく自分を律しているのだ。
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