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久遠と海神 1
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海神に浴場へ案内された久遠は、あまりに日常からかけ離れた情景に、目をむいていた。
脱衣場で濡れた衣を脱ぎ、湯殿への戸を開けると、その先に広がっていたのは、洞窟のような場所だったのだ。
さほど長くはない洞窟の向こうは外界へと繋がり、海原が美しい青を広げている。
岩壁に空いた5か所ある滝口からは、透明な湯が等々と流れ続けていた。
「ここで身体を流すといい。」
呆然としたまま、久遠は海神にならい身体を流すと、こんこんと湧き出している岩風呂の中に身体を沈めた。
暖かな湯に包まれ、ようやく人心地ついた久遠は、海神へと視線を向けた。
黙ったまま少し離れた場所で湯につかっている海神は久遠の視線に気づくと、冷淡な表情を崩さずそっと目を伏せた。
橙の灯りが美しい顔を柔らかく照らし、長いまつ毛が頬に影を落とした。
流れる艶やかな黒髪も、なめらかな肌も・・・・しっとりと湯を含み、しなやかな筋肉の落とす陰影は同じ男である久遠の目から見ても、思わず見とれてしまうほどに美しい。
「すまなかった。」
突然の海神の言葉に、いぶかし気な表情を浮かべた久遠を寂しげな色を纏った瞳で見つめ、海神は再び口を開いた。
「・・・・町の者は明日、必ず弔う。」
「・・・・・海神様。なぜ、あなたが謝るのか、私には思い当たるところがない。あなたは、私の恩人だ。感謝の言葉を尽くしても足りないほどの恩があるのに、謝罪の言葉など受けられようはずもない。」
「・・・・・。」
「感謝しているのです。・・・・・・心から。」
久遠の言葉に、海神は再び目を伏せてしまった。
海神が水妖の頭目となり、千年程の時が流れていた・・・・。
その間に彼が駆け付けた事例の中には、今回ほどの規模ではなくとも、やはり同じように救えなかった命もあった。
そんな時人は、救いを求め願う時と同じように、神としている彼をひたすら呪った。
「なぜ、救ってくれなかったのだ」「なぜ、一緒に逝かせてくれなかったのだ」と・・・・。
理不尽にぶつけられる八つ当たりなど、怒って背を向けてしまえばいいものを・・・・だが、哀しいことにその感情を誰よりも、深い傷として理解しているのは海神本人だったのだ。
彼自身が、自分が兄と慕った師を失った直後、残酷な現実を受け入れられず、同じように嘆いていたことがあったのだから。
海神は、投げつけられる礫も罵詈雑言も、全てを受け入れ、ひたすら独り傷を負っていく・・・・。
美しい顔にほとんど感情をあらわにしない彼が傷ついていることに気づくものは、白妙以外にはいなかった・・・・・。
脱衣場で濡れた衣を脱ぎ、湯殿への戸を開けると、その先に広がっていたのは、洞窟のような場所だったのだ。
さほど長くはない洞窟の向こうは外界へと繋がり、海原が美しい青を広げている。
岩壁に空いた5か所ある滝口からは、透明な湯が等々と流れ続けていた。
「ここで身体を流すといい。」
呆然としたまま、久遠は海神にならい身体を流すと、こんこんと湧き出している岩風呂の中に身体を沈めた。
暖かな湯に包まれ、ようやく人心地ついた久遠は、海神へと視線を向けた。
黙ったまま少し離れた場所で湯につかっている海神は久遠の視線に気づくと、冷淡な表情を崩さずそっと目を伏せた。
橙の灯りが美しい顔を柔らかく照らし、長いまつ毛が頬に影を落とした。
流れる艶やかな黒髪も、なめらかな肌も・・・・しっとりと湯を含み、しなやかな筋肉の落とす陰影は同じ男である久遠の目から見ても、思わず見とれてしまうほどに美しい。
「すまなかった。」
突然の海神の言葉に、いぶかし気な表情を浮かべた久遠を寂しげな色を纏った瞳で見つめ、海神は再び口を開いた。
「・・・・町の者は明日、必ず弔う。」
「・・・・・海神様。なぜ、あなたが謝るのか、私には思い当たるところがない。あなたは、私の恩人だ。感謝の言葉を尽くしても足りないほどの恩があるのに、謝罪の言葉など受けられようはずもない。」
「・・・・・。」
「感謝しているのです。・・・・・・心から。」
久遠の言葉に、海神は再び目を伏せてしまった。
海神が水妖の頭目となり、千年程の時が流れていた・・・・。
その間に彼が駆け付けた事例の中には、今回ほどの規模ではなくとも、やはり同じように救えなかった命もあった。
そんな時人は、救いを求め願う時と同じように、神としている彼をひたすら呪った。
「なぜ、救ってくれなかったのだ」「なぜ、一緒に逝かせてくれなかったのだ」と・・・・。
理不尽にぶつけられる八つ当たりなど、怒って背を向けてしまえばいいものを・・・・だが、哀しいことにその感情を誰よりも、深い傷として理解しているのは海神本人だったのだ。
彼自身が、自分が兄と慕った師を失った直後、残酷な現実を受け入れられず、同じように嘆いていたことがあったのだから。
海神は、投げつけられる礫も罵詈雑言も、全てを受け入れ、ひたすら独り傷を負っていく・・・・。
美しい顔にほとんど感情をあらわにしない彼が傷ついていることに気づくものは、白妙以外にはいなかった・・・・・。
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