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静かな夜 1
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部屋に戻った俺たちの表情は明るくはなかった。
「一体どうなってるんだ・・・・・。」
勝のつぶやきが、畳に吸い込まれていく。
俺も都古も何も言えなかった。
頭の中も、心の中も、言いたいことで溢れかえっていて、何を口にすべきかわからなかったのだ。
身体は腕一本動かすのもおっくうに感じるくらい疲れているのに、神経がささくれだってこめかみが強く脈打ち、とてもじゃないがすぐに眠れそうにない。
ショクの企みをくじいたことで彼呼迷軌からの今回の依頼は、遂行できたのだろうが、今日はあまりに多くのことが一度に起こりすぎていた。
それに・・・・・。
「俺・・・・・黒のこと、知っていたのかもしれない。」
思わず俺の口からこぼれた言葉に、勝と都古がいぶかし気な視線を向けてくる。
「真也・・・・・?」
「・・・・悪いっ。独り言だ。」
勝に名を呼ばれ、我に返った俺は取り繕うように笑顔を向けたが、勝は少し目を細め、食い下がってきた。
「気になる。・・・・話せよ、真也。なんでためらうんだ?」
「俺にも、わからないんだよ。・・・・さっき、頭の中を・・・・黒のぼろぼろの姿がかすめて。」
「黒が・・・・血を流している姿か?」
都古がためらいがちに、細い声をもらした。
「都古・・・・?」
「私も・・・同じものを見た。高い塔のある景色、傷だらけの黒・・・・。」
勝はそれを聞いて眉間にしわを寄せた。
「俺も、血を流す黒の姿が頭の中をかすめた。・・・・高い塔、ってのは俺には見えなかったな。・・・・一瞬だけ見えたのは女の姿をした白妙と、男の姿をした白妙だった。」
俺たちは表情を硬くして顔を見合わせた。
喉の奥のあたりを苦い塊がふさいで、口を重くする。
夜の雪山に放り出されたような冷たい沈黙に、都古が身震いした。
「なんにせよさ。3人同時に同じものを見たってことは、俺たちが寝ぼけてたって可能性は低い・・・・だろ?」
これ以上暗い気持ちにならないよう気遣っているのか、勝の声は小さかったが明るいものだった。
俺は、そんな勝に温かいものを感じ、表情を緩めた。
「そうだな。・・・・・このことが一体、何を意味しているのかは分からないけど。明日、光弘にも確認してみよう。・・・・・もしかしたら、見落としちゃいけないことかもしれない。」
「そうだな。・・・・・それにしても、海神の付き人が、双凶の蒼だったとは・・・・私は、どうすればいいのだろう・・・・。」
都古がそう言って眉間にしわをよせ、うつむいた。
妖鬼とは言っても、蒼は悪いやつには見えなかった。
海神があんなにひっつかれてなお、されるがままになっているくらいなのだから、二人の信頼関係も厚いのだろう。
とはいえ、白妙たちが蒼が妖鬼と知ってどう思うかは、全く別の話だ。
蒼自身が言っていた通り、神妖と妖鬼の間に埋められない溝があるのだとしたら、蒼の正体を知った白妙がどんな反応を示すのか、全く予想がつかないのだから。
あんなに一途に海神を想っている蒼の姿をみた後だ。
二人を引き離すような真似はしたくないと、都古が白妙たちに伝えるべきかを悩むは、当たり前の話だ。
ふいに都の頭に、勝が手をのせた。
中学になってさらに背が伸びた勝の手のひらは大きくて、都の頭をすっぽり包み込んでしまいそうだ。
「都古。白妙なら、きっと話しても大丈夫だ。勘だけどな。・・・・ひょっとしたら、あいつはすでに、気づいてたかもしれないよ。蒼の正体にさ・・・・・。」
勝の言葉に俺は笑いながら同意した。
「そうかもな。白妙はずいぶん賢い人だから、気づいていて黙っているのかもしれない。・・・・正直、蒼ってどこからどうみても普通の神妖じゃないもんな。」
都古はほっとしてほほ笑んだ。
俺は都古の白くなった指先を握った。
「一体どうなってるんだ・・・・・。」
勝のつぶやきが、畳に吸い込まれていく。
俺も都古も何も言えなかった。
頭の中も、心の中も、言いたいことで溢れかえっていて、何を口にすべきかわからなかったのだ。
身体は腕一本動かすのもおっくうに感じるくらい疲れているのに、神経がささくれだってこめかみが強く脈打ち、とてもじゃないがすぐに眠れそうにない。
ショクの企みをくじいたことで彼呼迷軌からの今回の依頼は、遂行できたのだろうが、今日はあまりに多くのことが一度に起こりすぎていた。
それに・・・・・。
「俺・・・・・黒のこと、知っていたのかもしれない。」
思わず俺の口からこぼれた言葉に、勝と都古がいぶかし気な視線を向けてくる。
「真也・・・・・?」
「・・・・悪いっ。独り言だ。」
勝に名を呼ばれ、我に返った俺は取り繕うように笑顔を向けたが、勝は少し目を細め、食い下がってきた。
「気になる。・・・・話せよ、真也。なんでためらうんだ?」
「俺にも、わからないんだよ。・・・・さっき、頭の中を・・・・黒のぼろぼろの姿がかすめて。」
「黒が・・・・血を流している姿か?」
都古がためらいがちに、細い声をもらした。
「都古・・・・?」
「私も・・・同じものを見た。高い塔のある景色、傷だらけの黒・・・・。」
勝はそれを聞いて眉間にしわを寄せた。
「俺も、血を流す黒の姿が頭の中をかすめた。・・・・高い塔、ってのは俺には見えなかったな。・・・・一瞬だけ見えたのは女の姿をした白妙と、男の姿をした白妙だった。」
俺たちは表情を硬くして顔を見合わせた。
喉の奥のあたりを苦い塊がふさいで、口を重くする。
夜の雪山に放り出されたような冷たい沈黙に、都古が身震いした。
「なんにせよさ。3人同時に同じものを見たってことは、俺たちが寝ぼけてたって可能性は低い・・・・だろ?」
これ以上暗い気持ちにならないよう気遣っているのか、勝の声は小さかったが明るいものだった。
俺は、そんな勝に温かいものを感じ、表情を緩めた。
「そうだな。・・・・・このことが一体、何を意味しているのかは分からないけど。明日、光弘にも確認してみよう。・・・・・もしかしたら、見落としちゃいけないことかもしれない。」
「そうだな。・・・・・それにしても、海神の付き人が、双凶の蒼だったとは・・・・私は、どうすればいいのだろう・・・・。」
都古がそう言って眉間にしわをよせ、うつむいた。
妖鬼とは言っても、蒼は悪いやつには見えなかった。
海神があんなにひっつかれてなお、されるがままになっているくらいなのだから、二人の信頼関係も厚いのだろう。
とはいえ、白妙たちが蒼が妖鬼と知ってどう思うかは、全く別の話だ。
蒼自身が言っていた通り、神妖と妖鬼の間に埋められない溝があるのだとしたら、蒼の正体を知った白妙がどんな反応を示すのか、全く予想がつかないのだから。
あんなに一途に海神を想っている蒼の姿をみた後だ。
二人を引き離すような真似はしたくないと、都古が白妙たちに伝えるべきかを悩むは、当たり前の話だ。
ふいに都の頭に、勝が手をのせた。
中学になってさらに背が伸びた勝の手のひらは大きくて、都の頭をすっぽり包み込んでしまいそうだ。
「都古。白妙なら、きっと話しても大丈夫だ。勘だけどな。・・・・ひょっとしたら、あいつはすでに、気づいてたかもしれないよ。蒼の正体にさ・・・・・。」
勝の言葉に俺は笑いながら同意した。
「そうかもな。白妙はずいぶん賢い人だから、気づいていて黙っているのかもしれない。・・・・正直、蒼ってどこからどうみても普通の神妖じゃないもんな。」
都古はほっとしてほほ笑んだ。
俺は都古の白くなった指先を握った。
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