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蒼の楽な生き方講座
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黒の言葉に、俺たちは凍り付いた・・・・。
都古を見ると、彼女は俺を見つめ返し、苦し気に言葉を吐き出す。
「見えたんだ。真也の斬り割いた隙間から。命逢の景色が・・・・・。」
「まさか・・・・・」
勝の口からかすれるような声が漏れる。
海神が、困惑した表情を隠そうともせず、都古に問いかけた。
「都古・・・・。見えたのは、どこの場所だったかわかるか。」
「わからない。ただ一瞬、あの大樹が見えたんだ。」
都古の声は震えていたが、答えは明確だった。
見えたものが他のものであるならば、見間違いかもと言えたのだろうが、大樹では、もはや自分を疑うことすらできなかったのだろう。
「神妖の中に、あの腕のやつがいるってことなのか?」
勝が独り言のようにつぶやいた言葉を、黒はあっさり否定した。
「思い込むなよ。まだ答えは出ていない。命逢へ行けるのは神妖だけではないんだ。」
蒼は黒の言葉に表情を険しくした。
「ずいぶん歯切れが悪いじゃないか。黒・・・・なぜ、はっきり言ってやらない。」
「蒼・・・」
海神が咎めるように蒼の腕に手を置いた。
「ここにいるボクたち以外は、全員、裏切り者の可能性があるってことをさ。」
・・・・・・蒼の言葉に、俺たちは言葉を詰まらせた。
黒は目を伏せ、重いため息をついた。
「君はこんな時も、あけすけだ。」
「面倒なのが、嫌いなだけだよ。・・・・君・・・案外、優しいよね。」
蒼の言うとおりだ。
仮に腕の主が神妖でなかったとしても、神妖の中にあの腕となんらかのかかわりのある者がいると考えた方が、自然だろう。
俺は胸が苦しくなった。
そうだとしたら、恐らくその何者かは妖月や執護の中、もしくはその近くにいる可能性が高い。
離れていては情報を得られなくなるからだ。
考えたくもなかった。
自分たちを導き、ここまで鍛え上げてくれた、師とも呼べる者の中にそれがいるかもしれないなんて・・・・・。
「どうしたらいいんだ。」
思わず弱音に近いつぶやきが、口から洩れた。
「そんなの、簡単なことだろう。」
蒼が勝ち誇ったような表情を向けてくる。
「簡単?」
「そうさ。何を難しく考えることがある。君にとって何が一番苦しい・・・何を失いたくないんだ?・・・・それが全てじゃないか。」
俺は蒼の言葉を、胸の奥で何度もかみしめた。
俺が一番苦しいこと・・・・・。
俺は、彼呼迷軌で暮らす者を疑わなければならないことが、辛いんだ。
妖月全てなんて、そんな綺麗ごとは言わない。
だけど、都古とともに過ごすあの三人だけはどうしても疑いたくなかった。
「俺、白妙と久遠と翡翠だけは疑いたくない。辛いんだ。」
蒼は俺の言葉に、ドキッとするような魅力的な笑顔で笑った。
「な、簡単だろ。・・・・それなら真也は、その三人を疑わなければいい。何も変わる必要はないさ。今まで通りいろ。・・・・裏切られていたなら、失ったその時に、思い切り傷ついて泣きわめけばいいんだから。」
むやみに人前で笑顔をみせようとしない海神が、かすかな笑みを浮かべ蒼を見つめている。
「本当に楽な生き方なんて、他人には決められない。甘い蜜を奪い合い、人よりたくさん味わうことだけに集中し、煩わしいことにはかかわらず、日の当たるまっすぐで穏やかな道を歩く。それを心安らかに感じる者は多い。当たり前のことだからね。だが・・・・・・」
蒼は、海神を後ろから抱きしめ、雪のように白いうなじに顔をうずめると、目を閉じ深くひとつ呼吸をした。
「誰も通ろうとしないような険しい道を、守りたいものを肩にのせ、独り裸足で進んだ方が、心が安らかに生きていられることだってある・・・そういう奴もいるんだ。」
「蒼・・・・・。」
「全てを失い、万人からののしられても・・・・誰の記憶からも忘れ去られてしまっても・・・・痛みにのたうち回ってどんなに無様に見えても・・・・自らの心に一途に生き抜こうとする者の姿を、ボクは醜いとは思わない。」
蒼が海神を抱く腕に力を込めたために起きた微かな衣擦れの音が、ひっそりと部屋の中に吸い込まれていった。
「ボクは・・・・そういう生き方を選んだやつを知っている。本人には死んでも言いたくないけれど・・・・・愚かで清らかなその生きざまは、なによりも美しく尊いと、ボクは思ってるんだ。」
都古を見ると、彼女は俺を見つめ返し、苦し気に言葉を吐き出す。
「見えたんだ。真也の斬り割いた隙間から。命逢の景色が・・・・・。」
「まさか・・・・・」
勝の口からかすれるような声が漏れる。
海神が、困惑した表情を隠そうともせず、都古に問いかけた。
「都古・・・・。見えたのは、どこの場所だったかわかるか。」
「わからない。ただ一瞬、あの大樹が見えたんだ。」
都古の声は震えていたが、答えは明確だった。
見えたものが他のものであるならば、見間違いかもと言えたのだろうが、大樹では、もはや自分を疑うことすらできなかったのだろう。
「神妖の中に、あの腕のやつがいるってことなのか?」
勝が独り言のようにつぶやいた言葉を、黒はあっさり否定した。
「思い込むなよ。まだ答えは出ていない。命逢へ行けるのは神妖だけではないんだ。」
蒼は黒の言葉に表情を険しくした。
「ずいぶん歯切れが悪いじゃないか。黒・・・・なぜ、はっきり言ってやらない。」
「蒼・・・」
海神が咎めるように蒼の腕に手を置いた。
「ここにいるボクたち以外は、全員、裏切り者の可能性があるってことをさ。」
・・・・・・蒼の言葉に、俺たちは言葉を詰まらせた。
黒は目を伏せ、重いため息をついた。
「君はこんな時も、あけすけだ。」
「面倒なのが、嫌いなだけだよ。・・・・君・・・案外、優しいよね。」
蒼の言うとおりだ。
仮に腕の主が神妖でなかったとしても、神妖の中にあの腕となんらかのかかわりのある者がいると考えた方が、自然だろう。
俺は胸が苦しくなった。
そうだとしたら、恐らくその何者かは妖月や執護の中、もしくはその近くにいる可能性が高い。
離れていては情報を得られなくなるからだ。
考えたくもなかった。
自分たちを導き、ここまで鍛え上げてくれた、師とも呼べる者の中にそれがいるかもしれないなんて・・・・・。
「どうしたらいいんだ。」
思わず弱音に近いつぶやきが、口から洩れた。
「そんなの、簡単なことだろう。」
蒼が勝ち誇ったような表情を向けてくる。
「簡単?」
「そうさ。何を難しく考えることがある。君にとって何が一番苦しい・・・何を失いたくないんだ?・・・・それが全てじゃないか。」
俺は蒼の言葉を、胸の奥で何度もかみしめた。
俺が一番苦しいこと・・・・・。
俺は、彼呼迷軌で暮らす者を疑わなければならないことが、辛いんだ。
妖月全てなんて、そんな綺麗ごとは言わない。
だけど、都古とともに過ごすあの三人だけはどうしても疑いたくなかった。
「俺、白妙と久遠と翡翠だけは疑いたくない。辛いんだ。」
蒼は俺の言葉に、ドキッとするような魅力的な笑顔で笑った。
「な、簡単だろ。・・・・それなら真也は、その三人を疑わなければいい。何も変わる必要はないさ。今まで通りいろ。・・・・裏切られていたなら、失ったその時に、思い切り傷ついて泣きわめけばいいんだから。」
むやみに人前で笑顔をみせようとしない海神が、かすかな笑みを浮かべ蒼を見つめている。
「本当に楽な生き方なんて、他人には決められない。甘い蜜を奪い合い、人よりたくさん味わうことだけに集中し、煩わしいことにはかかわらず、日の当たるまっすぐで穏やかな道を歩く。それを心安らかに感じる者は多い。当たり前のことだからね。だが・・・・・・」
蒼は、海神を後ろから抱きしめ、雪のように白いうなじに顔をうずめると、目を閉じ深くひとつ呼吸をした。
「誰も通ろうとしないような険しい道を、守りたいものを肩にのせ、独り裸足で進んだ方が、心が安らかに生きていられることだってある・・・そういう奴もいるんだ。」
「蒼・・・・・。」
「全てを失い、万人からののしられても・・・・誰の記憶からも忘れ去られてしまっても・・・・痛みにのたうち回ってどんなに無様に見えても・・・・自らの心に一途に生き抜こうとする者の姿を、ボクは醜いとは思わない。」
蒼が海神を抱く腕に力を込めたために起きた微かな衣擦れの音が、ひっそりと部屋の中に吸い込まれていった。
「ボクは・・・・そういう生き方を選んだやつを知っている。本人には死んでも言いたくないけれど・・・・・愚かで清らかなその生きざまは、なによりも美しく尊いと、ボクは思ってるんだ。」
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