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鋭い勝

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 「真也しんや・・・しょう・・・都古みやこ・・・・。」
 「光弘みつひろ・・・・。」

 真っ黒な世界に足を踏み入れた俺たちは、軽口をたたきつつも神経を研ぎ澄ませ辺りをうかがっていた。

 光弘と癒から少し離れ、半身闇に溶け込んだ赤い瞳の青年が、一人宙にポカリと浮いている。

 「宵闇よいやみ・・・・・か。」

 俺の呼びかけに、宵闇は不気味な笑いを浮かべた。

 「ずいぶんと、頼もしい助っ人だな。癒。」
 「・・・・・君は何も感じないのか。」
 「なんのことだ・・・・・。」

 宵闇の反応に、癒は哀しそうにうつむいている。

 そんな中、俺たちは癒が言葉を発したことに驚き、顔を見合わせていた。

 「癒・・・話せるようになったのか?」
 「いや・・・・。」

 俺がつぶやくと光弘が何かを言いかけ、すぐに口をつぐんでしまった。
 宵闇を前に悠長に会話をしている余裕がないという事もあるだろうが、言うべきかどうか迷ってもいるように見える。

 「光弘。遠慮はいらないぞ。こうなってはもはや急ぐ意味もなくなった。時間をやろう。みなにもそいつの事を説明してやればいい。」

 皮肉な笑みを浮かべる宵闇からの言葉を聞いてなお戸惑っている光弘に、癒が優しく声をかけた。

 「宵闇は残忍な質だが、嘘をついて後ろから刺すようなことはしない・・・・。私も目を離さない。君が嫌じゃなければ・・・・私のことをみんなにも伝えてあげて。」

 癒にそう言われ、光弘はうなずくと、ようやく重い口を開いた。

 「・・・・・癒は・・・・姉さんなんだ。」
 「え?」
 「俺の姉さんの生まれ変わりが・・・・癒なんだ。」
 
 光弘が告げると、癒の身体がぼんやりと月明かりのように光を放った。

 白妙が変化する時と同じ色だ・・・・・そんなことをぼんやり考えながら見つめていると、俺たちの目の前で癒の影が長く伸びていき、1人の少女の姿に形を変えた。

 ワイシャツにジーンズ姿のその少女は、以前光弘の夢の中で見た、楓乃子そのものだった。

  俺と都古が言葉もみつからず。顔を見合わせ驚いている横で、勝はため息をつきながら意外な台詞を吐いた。

 「やっぱりなー・・・・・。」
 「やっぱりって?どういう事だ?」

 都古が怪訝な表情を向け、勝に問いかけた。
 楓乃子がその様子を面白そうに笑みを浮かべ、目を輝かながら見つめている。
 
 「覚えてねーか・・・・。光弘の夢の中で、気づいたことがあるって俺が言ったこと。あの時、おかしいと思ったんだ・・・・・。光弘の目から過去を見てるはずなのに、姉ちゃんしかいない場面があったから。」

 俺は夢の中という特殊な状況の中で、そんなに細かいところに気づいていた勝に驚いていた。

 確かにあの時、俺たちに過去を形にして見せたのは光弘だったが、それを補佐するように癒が力をかしていた。

 「光弘と姉ちゃんの2人の記憶が重なってて、過去を見せているのは光弘と癒の2人・・・・だから単純に、癒が姉ちゃんとなんか関係あるんじゃないかって、その時思ったんだよな。」

 「勝すごいなぁ。俺、全然気づかなかった。起きた時教えてくれたらよかったのに。」

 「いや。それは無理だ。私が妨害したからね。夢の中での彼の台詞もかき消してしまったし、起きた時にはそのことを忘れていたはずだ。」

 俺の言葉に答えたのは、楓乃子だった。


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