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白妙と黒
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光弘は術を抜け黒の元に駆け寄ろうと必死でもがいている。
だが、久遠の力は強く容易に抜け出せるわけもない。
俺たちは身動きが取れず、その場に固まったまま、凄惨なその光景からただ目をそらすことしかできなかった。
その時。
再び一陣の風が俺たちの横を通り抜けた。
振り返ると、そこには海神と蒼が寄り添うようにしてたたずんでいる。
「これは・・・・・。」
海神と蒼が目を細め眉をひそめた。
蒼は何も言わず、俺たちを豪快につかむと、即座に駄菓子屋に転移した。
慌ててついてきた久遠に俺たちを任せ、光弘に向き直る。
「ボクは黒の元へ戻る。・・・君はどうする。黒を止めるつもりなら、ボクは君をここに置いていく。見届けたいのならこい。・・・・ひとつ言っておくとしたら、黒は君がここに残ることを望むだろうがな。」
「俺は・・・彼のそばを離れない。どんなことがあっても。」
蒼の言葉に、光弘は今までみたことのない強い瞳ではっきりとこたえた。
「強い子だ。黒には内緒にしておけよ。・・・って、言っても手遅れかな。」
蒼は光弘の肩に力なくとまっている癒をみつめた。
光弘は首をかしげ、いぶかし気に蒼を見上げる。
「なんでもない。気にするな。」
「すまない。先に帰ってくれ。詳しい話はあとで必ずする・・・・・。」
俺たちに向かってそう言うと、光弘は蒼と共に再び転移していった。
それから一時間が経っても、光弘が戻ってくることはなかった。
黒が最初に姿を現した時から、光弘は彼を知っているようだった。
一体光弘はどこであの妖鬼と知り合ったのだろう。
それに、光弘と黒の関係は傍から見てもかなり深い絆を感じさせた・・・・・。
俺の頭の中を色々な疑問が渦巻いたが、たった今目にした白妙の激しい怒りを思い出すと、それもまた頭の片隅へと流されていった。
白妙の怒りは生々しく鮮烈で・・・・・2千年前という途方もない彼方での出来事を、彼が変わらず胸に秘め続けていた事実を赤裸々に示していた。
今あの場に戻るのは場違いで、間違っているように思えて・・・・俺たちは言葉少なにいつもの稽古場に集まった。
無理矢理意識を集中させ稽古をしてみたが、結局誰も言葉を持たないまま、時間だけが過ぎていく。
黒が打たれる様子を目にしてから、得体の知れない不安が、俺の胸をふさいでいた・・・・・。
俺は、同じような場面を、どこかで見たような気がしていた。
やり場のない感情を抱え光弘を待ったが、ついに、この日光弘が稽古場に現れることはなかった。
***************
蒼や光弘が中庭に戻ると、枷に捕らわれうなだれた黒が、白妙に打たれる度に身体を震わせていた。
蒼と海神は光弘を隠すように部屋の入口に立ち、中庭を見つめた。
黒が痛みで意識を失うと、白妙は水を浴びせ意識を戻させると、再び激しく鞭打った。
「黒は望まないだろうが、ボクは・・・・君の記憶に留めておくべきだと思う。目を逸らすなよ。」
思わず駆けよりそうになった光弘の腕をしっかりおさえ、蒼が静かに言った。
それからどれほどの時間がたったのだろうか・・・・一時間はとうに超えても、白妙はまだ黒を打ち据えていた。
枷にぶら下がった黒の口からうめき声すらもれることがなくなり、血に濡れた身体が微動だにしなくなってからもなお打ち続ける白妙の手が、不意にピタリとその動きを止めた。
「もう、いいだろう・・・・。」
息を上げたまま、白妙が振り返ると海神が哀しい瞳を向けたたずんでいた。
蒼が怒っているような哀しんでいるような複雑な色を浮かべ、白妙の手首をしっかり押さえている。
「っ・・・・・。」
白妙は嗚咽を漏らし、震えながら鞭を落とした。
「・・・・・黒・・・お前は・・・・・なんなんだ。何を考えている。なぜ何も言わない!なぜ逃げない!なぜ私を殺さない!お前には、容易なことだろう!」
「・・・・・・。」
「頼むから・・・言い訳くらいしてくれ・・・・・。私は・・・・私はどうしたらいい。お前を恨むのは・・・・間違えているのか?」
「・・・な・・い。・・・・・・・・。」
黒がかすれる声で何かをつぶやき意識を手放すと、白妙はその場に泣き崩れた。
人の耳には聞こえないほどの微かな声で語られた言葉は、確かに白妙の耳に届いていた。
『間違えていない。僕は君の仇だ。』
その言葉は確かに白妙の行動を肯定していた。
だがその言葉は同時に、白妙に一つの事を確信させた・・・・。
この妖鬼は、悪ではない・・・・・。
自分が何かを違えているかもしれないのだと。
黒を捕らえていた白い手枷がガラスの割れるような鋭い音をたて、粉々に砕け散り消え去っていく。
支えを失い意識を失った黒の身体は、前のめりに玉砂利の中に倒れ込んでいった。
『紅葉!』
すかさず光弘が、血にまみれ傷だらけになった黒の身体を抱き止めた。
心の中で隠し名を呼んだのに、黒は微動だにしない。
真っ赤に泣きはらした目で、光弘は黒の頭を抱きしめた。
「帰ろう・・・。」
光弘は黒を抱えたまま転移し、その場から姿を消した。
だが、久遠の力は強く容易に抜け出せるわけもない。
俺たちは身動きが取れず、その場に固まったまま、凄惨なその光景からただ目をそらすことしかできなかった。
その時。
再び一陣の風が俺たちの横を通り抜けた。
振り返ると、そこには海神と蒼が寄り添うようにしてたたずんでいる。
「これは・・・・・。」
海神と蒼が目を細め眉をひそめた。
蒼は何も言わず、俺たちを豪快につかむと、即座に駄菓子屋に転移した。
慌ててついてきた久遠に俺たちを任せ、光弘に向き直る。
「ボクは黒の元へ戻る。・・・君はどうする。黒を止めるつもりなら、ボクは君をここに置いていく。見届けたいのならこい。・・・・ひとつ言っておくとしたら、黒は君がここに残ることを望むだろうがな。」
「俺は・・・彼のそばを離れない。どんなことがあっても。」
蒼の言葉に、光弘は今までみたことのない強い瞳ではっきりとこたえた。
「強い子だ。黒には内緒にしておけよ。・・・って、言っても手遅れかな。」
蒼は光弘の肩に力なくとまっている癒をみつめた。
光弘は首をかしげ、いぶかし気に蒼を見上げる。
「なんでもない。気にするな。」
「すまない。先に帰ってくれ。詳しい話はあとで必ずする・・・・・。」
俺たちに向かってそう言うと、光弘は蒼と共に再び転移していった。
それから一時間が経っても、光弘が戻ってくることはなかった。
黒が最初に姿を現した時から、光弘は彼を知っているようだった。
一体光弘はどこであの妖鬼と知り合ったのだろう。
それに、光弘と黒の関係は傍から見てもかなり深い絆を感じさせた・・・・・。
俺の頭の中を色々な疑問が渦巻いたが、たった今目にした白妙の激しい怒りを思い出すと、それもまた頭の片隅へと流されていった。
白妙の怒りは生々しく鮮烈で・・・・・2千年前という途方もない彼方での出来事を、彼が変わらず胸に秘め続けていた事実を赤裸々に示していた。
今あの場に戻るのは場違いで、間違っているように思えて・・・・俺たちは言葉少なにいつもの稽古場に集まった。
無理矢理意識を集中させ稽古をしてみたが、結局誰も言葉を持たないまま、時間だけが過ぎていく。
黒が打たれる様子を目にしてから、得体の知れない不安が、俺の胸をふさいでいた・・・・・。
俺は、同じような場面を、どこかで見たような気がしていた。
やり場のない感情を抱え光弘を待ったが、ついに、この日光弘が稽古場に現れることはなかった。
***************
蒼や光弘が中庭に戻ると、枷に捕らわれうなだれた黒が、白妙に打たれる度に身体を震わせていた。
蒼と海神は光弘を隠すように部屋の入口に立ち、中庭を見つめた。
黒が痛みで意識を失うと、白妙は水を浴びせ意識を戻させると、再び激しく鞭打った。
「黒は望まないだろうが、ボクは・・・・君の記憶に留めておくべきだと思う。目を逸らすなよ。」
思わず駆けよりそうになった光弘の腕をしっかりおさえ、蒼が静かに言った。
それからどれほどの時間がたったのだろうか・・・・一時間はとうに超えても、白妙はまだ黒を打ち据えていた。
枷にぶら下がった黒の口からうめき声すらもれることがなくなり、血に濡れた身体が微動だにしなくなってからもなお打ち続ける白妙の手が、不意にピタリとその動きを止めた。
「もう、いいだろう・・・・。」
息を上げたまま、白妙が振り返ると海神が哀しい瞳を向けたたずんでいた。
蒼が怒っているような哀しんでいるような複雑な色を浮かべ、白妙の手首をしっかり押さえている。
「っ・・・・・。」
白妙は嗚咽を漏らし、震えながら鞭を落とした。
「・・・・・黒・・・お前は・・・・・なんなんだ。何を考えている。なぜ何も言わない!なぜ逃げない!なぜ私を殺さない!お前には、容易なことだろう!」
「・・・・・・。」
「頼むから・・・言い訳くらいしてくれ・・・・・。私は・・・・私はどうしたらいい。お前を恨むのは・・・・間違えているのか?」
「・・・な・・い。・・・・・・・・。」
黒がかすれる声で何かをつぶやき意識を手放すと、白妙はその場に泣き崩れた。
人の耳には聞こえないほどの微かな声で語られた言葉は、確かに白妙の耳に届いていた。
『間違えていない。僕は君の仇だ。』
その言葉は確かに白妙の行動を肯定していた。
だがその言葉は同時に、白妙に一つの事を確信させた・・・・。
この妖鬼は、悪ではない・・・・・。
自分が何かを違えているかもしれないのだと。
黒を捕らえていた白い手枷がガラスの割れるような鋭い音をたて、粉々に砕け散り消え去っていく。
支えを失い意識を失った黒の身体は、前のめりに玉砂利の中に倒れ込んでいった。
『紅葉!』
すかさず光弘が、血にまみれ傷だらけになった黒の身体を抱き止めた。
心の中で隠し名を呼んだのに、黒は微動だにしない。
真っ赤に泣きはらした目で、光弘は黒の頭を抱きしめた。
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