127 / 324
告げない過去
しおりを挟む
「驚いた。・・・・・正直、このまま生かしておいていいものか、迷うほどだ・・・・・。」
冷たい視線を向けながら、黒はその言葉一つで僕の話を肯定した。
「そうかよ。君ってやつは本当に容赦がないな。おい、殺気をボクに向けるな・・・。ねぇ・・・君さ・・・・昔語りは、もちろん知っているんだろ?」
「当然。ボクが知らないことは少ない。」
「ならなぜ、真実を知らしめなかった。昔語りの中で、君はまるっきり・・・・悪者だ。」
「悪者で悪い?僕は妖鬼・・・。その方が、理に適っている。」
蒼の言葉に、黒は一度はそう答えたが、困ったように微かに笑みを浮かべながら首を傾げると、ひじ掛けに頬杖をついた。
「もし、神妖の長が海神だったなら・・・・君はどうしていたと?」
憂いを帯びて紡がれたその言葉は、声のもつ柔らかさとは真逆に、蒼の背に戦慄を走らせた。
蒼は眉間に皺をよせ深く何かを考えていたが、瞳を上げるとつぶやくように声をもらした。
「すまない・・・・。」
「いらないよ。そんな言葉が聞きたくて、言ったわけじゃない。・・・・今日は久しぶりに外へ出たんだ。気分がいい・・・。あんたと話せたことも・・・・まぁ、悪くなかったしね。」
「ははっ・・・そいつは光栄だ。」
「蒼・・・・・。」
黒は蒼に声をかけると、突然妖気を全力で解放した。
家具は全て粉々に吹き飛ばされ、客間の中を凄まじい妖気が、荒れ狂う嵐のように吹き荒れていく。
格の違いをまざまざと見せつけられ、蒼は思わず身震いした。
黒が自分より高い能力を有していることは分かってはいたが、今目の前にする黒の力は、自分の想像を軽く超えていたのだ。
黒はすぐに妖気を絞り、蒼より少し低い力まで落とすと、何かを語るような瞳を蒼に向けた。
わずかな間そうしていたが、スッと妖気をおさめ黒は静かに口を開いた。
「教えてくれたお礼に、僕からも一つ。・・・・僕らには、妖気の大きさに少し差があるのは、わかった?」
「少しじゃないけどね。君は、ボクが思っていたよりずっと凄い。まぎれもなく最強の妖鬼だ。格が違う。しかも君というやつは、聡明で美人で魅惑的ときている・・・全くお手上げだ。ボクが勝てるのは身長くらい・・・降参だよ。」
「歯が浮く・・・・僕を褒めるな。・・・・あんたは強いよ。間違いなくこの天地において、僕に次ぐ力の持ち主だ。断言できる。・・・・問題は、海神だ。僕の殺気に、あの坊やは全く反応できていない。」
蒼は、先ほど黒が海神を手にかけようとした時のことを思い出した。
海神は強いが、確かにあの時は、黒の殺気に一切反応できていなかったし、それでなくともショクのときのように狙われることが多い。
双凶の妖鬼や、今は空席となっている悠と呼ばれる最上位の神妖の次元になると、放つことのできる殺気の種類が増える。
海神の強さでは、それに気付けないのだ。
「これから先、海神に狙いを定めてくる相手は、考えているほど甘い奴ではないよ。さっき僕が放った妖気を思い出して。あれに近いやつがいるんだ。このままいけば、いずれ海神を・・・失うことになる。」
「・・・・・。」
「・・・なぜ、全てを海神に伝え名を受け取らない。・・・・奴の師を喰ったことを、後悔しているのか?」
「なぜ・・・君がそれを知っている。」
蒼は、黒の言葉に一瞬息をのんだ。
思わず殺気が溢れ、あわてて心を鎮める。
黒の帯びている刀が、わずかに震えた。
「大丈夫だ・・・・そう唸るな。紗叉。」
黒は宥めるように刀に語り掛けると、立ち上がって蒼に背を向けた。
「言ったろ。僕の知らないことは少ないと・・・・。強くなりたいのなら、方法は知っている。必要ならまた話そう。今日はもう行くよ。」
黒はそう言って、少しだけ振り返り微笑むと、次の瞬間には転移して消えてしまった。
全てが粉々に砕かれた部屋の中、窓際の花瓶に活けられた真っ白な一輪の花だけが、寸分動かされることすらなく、その場で静かに揺れていた・・・・・。
冷たい視線を向けながら、黒はその言葉一つで僕の話を肯定した。
「そうかよ。君ってやつは本当に容赦がないな。おい、殺気をボクに向けるな・・・。ねぇ・・・君さ・・・・昔語りは、もちろん知っているんだろ?」
「当然。ボクが知らないことは少ない。」
「ならなぜ、真実を知らしめなかった。昔語りの中で、君はまるっきり・・・・悪者だ。」
「悪者で悪い?僕は妖鬼・・・。その方が、理に適っている。」
蒼の言葉に、黒は一度はそう答えたが、困ったように微かに笑みを浮かべながら首を傾げると、ひじ掛けに頬杖をついた。
「もし、神妖の長が海神だったなら・・・・君はどうしていたと?」
憂いを帯びて紡がれたその言葉は、声のもつ柔らかさとは真逆に、蒼の背に戦慄を走らせた。
蒼は眉間に皺をよせ深く何かを考えていたが、瞳を上げるとつぶやくように声をもらした。
「すまない・・・・。」
「いらないよ。そんな言葉が聞きたくて、言ったわけじゃない。・・・・今日は久しぶりに外へ出たんだ。気分がいい・・・。あんたと話せたことも・・・・まぁ、悪くなかったしね。」
「ははっ・・・そいつは光栄だ。」
「蒼・・・・・。」
黒は蒼に声をかけると、突然妖気を全力で解放した。
家具は全て粉々に吹き飛ばされ、客間の中を凄まじい妖気が、荒れ狂う嵐のように吹き荒れていく。
格の違いをまざまざと見せつけられ、蒼は思わず身震いした。
黒が自分より高い能力を有していることは分かってはいたが、今目の前にする黒の力は、自分の想像を軽く超えていたのだ。
黒はすぐに妖気を絞り、蒼より少し低い力まで落とすと、何かを語るような瞳を蒼に向けた。
わずかな間そうしていたが、スッと妖気をおさめ黒は静かに口を開いた。
「教えてくれたお礼に、僕からも一つ。・・・・僕らには、妖気の大きさに少し差があるのは、わかった?」
「少しじゃないけどね。君は、ボクが思っていたよりずっと凄い。まぎれもなく最強の妖鬼だ。格が違う。しかも君というやつは、聡明で美人で魅惑的ときている・・・全くお手上げだ。ボクが勝てるのは身長くらい・・・降参だよ。」
「歯が浮く・・・・僕を褒めるな。・・・・あんたは強いよ。間違いなくこの天地において、僕に次ぐ力の持ち主だ。断言できる。・・・・問題は、海神だ。僕の殺気に、あの坊やは全く反応できていない。」
蒼は、先ほど黒が海神を手にかけようとした時のことを思い出した。
海神は強いが、確かにあの時は、黒の殺気に一切反応できていなかったし、それでなくともショクのときのように狙われることが多い。
双凶の妖鬼や、今は空席となっている悠と呼ばれる最上位の神妖の次元になると、放つことのできる殺気の種類が増える。
海神の強さでは、それに気付けないのだ。
「これから先、海神に狙いを定めてくる相手は、考えているほど甘い奴ではないよ。さっき僕が放った妖気を思い出して。あれに近いやつがいるんだ。このままいけば、いずれ海神を・・・失うことになる。」
「・・・・・。」
「・・・なぜ、全てを海神に伝え名を受け取らない。・・・・奴の師を喰ったことを、後悔しているのか?」
「なぜ・・・君がそれを知っている。」
蒼は、黒の言葉に一瞬息をのんだ。
思わず殺気が溢れ、あわてて心を鎮める。
黒の帯びている刀が、わずかに震えた。
「大丈夫だ・・・・そう唸るな。紗叉。」
黒は宥めるように刀に語り掛けると、立ち上がって蒼に背を向けた。
「言ったろ。僕の知らないことは少ないと・・・・。強くなりたいのなら、方法は知っている。必要ならまた話そう。今日はもう行くよ。」
黒はそう言って、少しだけ振り返り微笑むと、次の瞬間には転移して消えてしまった。
全てが粉々に砕かれた部屋の中、窓際の花瓶に活けられた真っ白な一輪の花だけが、寸分動かされることすらなく、その場で静かに揺れていた・・・・・。
0
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
異世界に来たようですが何も分かりません ~【買い物履歴】スキルでぼちぼち生活しています~
ぱつきんすきー
ファンタジー
突然「神」により異世界転移させられたワタシ
以前の記憶と知識をなくし、右も左も分からないワタシ
唯一の武器【買い物履歴】スキルを利用して異世界でぼちぼち生活
かつてオッサンだった少女による、異世界生活のおはなし
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います
<子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。>
両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。
※ 本編完結済。他視点での話、継続中。
※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています
※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる