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隠し名 1
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真也たちの姿が、砂のような光にかわり、サラサラと崩れ去っていった。
黒衣の少年が、再び姿を現し光弘に向かって微笑みかける。
「ほらね。言ったでしょ。大丈夫だって・・・・・。」
その言葉に、光弘は泣きそうな瞳で小さくうなずいた。
「癒は?」
「あれは、生まれて間もない。きっと、慣れないことをして疲れたんだろう。術も途中で、切れてしまったみたいだしね。・・・・今日は休ませてやろう。」
光弘は少年の言葉にうなずいた。
光弘が、少年に「夢を使ってみんなに過去を伝えたい。」と話した時、彼は癒に手伝いを頼むことを提案してきた。
彼が力づくで真也たちを無理矢理夢へ引き込むより、顔見知りになっている癒に誘導させた方が、心への負担が少ないのだそうだ。
光弘が名を呼ぶと、すぐに癒が夢の中に現れた。
癒が光弘の記憶を形にし、少年はそんな癒の補助をするということが決まり、今まで姿を消していたのだ。
「嫌われると・・・・・突き放されると思ったんだ。」
そう話す光弘へ近づくと、少年は真っ直ぐにその目を見つめた。
「ずっと、この日を待ち望んでいた彼らが?突き放すなんて、できるわけがない。嫌いになんてならないよ。・・・・仮に、本当に姉を殺していたとしても、彼らは手を離さなかっただろうね。・・・・もし、彼らが去ってくれるなら、僕が独り占めできたのに・・・残念。」
そう言って、少年は笑った。
光弘も、思わず笑顔になった。
「宵闇のことなら、心配はいらない。癒は強い。宵闇に対抗する力をこちらが得るまでには、まだかなりの年月がかかるだろけど、癒がいれば大丈夫。安心して。」
少年は寂しそうに笑うと、背中を向け、手を振った。
「それじゃ。僕はもう行くね。いつかまた、どこかで・・・・・・。」
そう言って歩き出した少年の手を、光弘はあわてて握りしめた。
驚いた表情で振り返った少年が、光弘につかまれた腕に目をやり、痛みを耐えているかのように眉間に皺を寄せた。
光弘ははじかれたように手を離し、震えそうな小さな声で少年に話しかけた。
「どこに行けば、君に会える?」
光弘の言葉に、少年は一瞬目を見開いたあと、小さく吐息を吐き出し、嬉しそうに微笑んだ。
「呼んでくれるなら、何があっても駆けつける。」
「・・・・なんて呼べばいい?君のことを。」
「・・・・・・名前をくれる?特別な名をつけてくれるなら、僕はいつでもここにいられる。」
「特別な名前?」
少年は、真剣な顔で小さくうなずいた。
「隠し名さ。」
「隠し名?」
「そう。決して口に出してはいけない名前・・・・・。心の中でしか呼んではいけない名前・・・・・。その名があれば、僕はいつでも繋がっていられる。強い力なんかも、得られるしね。」
最後の言葉をまるでついでのように軽く言い流すと、黒衣の少年は挑戦的な眼差しを光弘へむけて微笑んだ。
「どうする?」
光弘は、大きく深呼吸をし、目をつぶった。
いつもならば、間髪入れずに断っている。
光弘は、力で誰かを自分に縛ってしまうのが心の底から嫌いだった。
けれど、光弘の心の深いところで、何かが必死に「彼を繋いでくれ」と叫んでいる気がして。
光弘は、少年の目をじっとみつめた。
「そばに…いて欲しいんだ、君に・・・・・。離れるのは嫌だ・・・・・・。」
予想していた答えではなかったのだろうか。
光弘の言葉に、少年が心底驚いた様子で目を大きく開いた。
それから、幸せでたまらないという風に目を細め、切ない微笑みを見せた。
「僕もだよ・・・・・。手を・・・・・。」
光弘は、自分の中に湧き出してくる、この名前のない不思議な気持ちを持て余しながら、差し出された両手に、自分の手を重ねた。
少年は、ピクッと一瞬身体を震わせてから、光弘の手をそっとつかんだ。
黒衣の少年が、再び姿を現し光弘に向かって微笑みかける。
「ほらね。言ったでしょ。大丈夫だって・・・・・。」
その言葉に、光弘は泣きそうな瞳で小さくうなずいた。
「癒は?」
「あれは、生まれて間もない。きっと、慣れないことをして疲れたんだろう。術も途中で、切れてしまったみたいだしね。・・・・今日は休ませてやろう。」
光弘は少年の言葉にうなずいた。
光弘が、少年に「夢を使ってみんなに過去を伝えたい。」と話した時、彼は癒に手伝いを頼むことを提案してきた。
彼が力づくで真也たちを無理矢理夢へ引き込むより、顔見知りになっている癒に誘導させた方が、心への負担が少ないのだそうだ。
光弘が名を呼ぶと、すぐに癒が夢の中に現れた。
癒が光弘の記憶を形にし、少年はそんな癒の補助をするということが決まり、今まで姿を消していたのだ。
「嫌われると・・・・・突き放されると思ったんだ。」
そう話す光弘へ近づくと、少年は真っ直ぐにその目を見つめた。
「ずっと、この日を待ち望んでいた彼らが?突き放すなんて、できるわけがない。嫌いになんてならないよ。・・・・仮に、本当に姉を殺していたとしても、彼らは手を離さなかっただろうね。・・・・もし、彼らが去ってくれるなら、僕が独り占めできたのに・・・残念。」
そう言って、少年は笑った。
光弘も、思わず笑顔になった。
「宵闇のことなら、心配はいらない。癒は強い。宵闇に対抗する力をこちらが得るまでには、まだかなりの年月がかかるだろけど、癒がいれば大丈夫。安心して。」
少年は寂しそうに笑うと、背中を向け、手を振った。
「それじゃ。僕はもう行くね。いつかまた、どこかで・・・・・・。」
そう言って歩き出した少年の手を、光弘はあわてて握りしめた。
驚いた表情で振り返った少年が、光弘につかまれた腕に目をやり、痛みを耐えているかのように眉間に皺を寄せた。
光弘ははじかれたように手を離し、震えそうな小さな声で少年に話しかけた。
「どこに行けば、君に会える?」
光弘の言葉に、少年は一瞬目を見開いたあと、小さく吐息を吐き出し、嬉しそうに微笑んだ。
「呼んでくれるなら、何があっても駆けつける。」
「・・・・なんて呼べばいい?君のことを。」
「・・・・・・名前をくれる?特別な名をつけてくれるなら、僕はいつでもここにいられる。」
「特別な名前?」
少年は、真剣な顔で小さくうなずいた。
「隠し名さ。」
「隠し名?」
「そう。決して口に出してはいけない名前・・・・・。心の中でしか呼んではいけない名前・・・・・。その名があれば、僕はいつでも繋がっていられる。強い力なんかも、得られるしね。」
最後の言葉をまるでついでのように軽く言い流すと、黒衣の少年は挑戦的な眼差しを光弘へむけて微笑んだ。
「どうする?」
光弘は、大きく深呼吸をし、目をつぶった。
いつもならば、間髪入れずに断っている。
光弘は、力で誰かを自分に縛ってしまうのが心の底から嫌いだった。
けれど、光弘の心の深いところで、何かが必死に「彼を繋いでくれ」と叫んでいる気がして。
光弘は、少年の目をじっとみつめた。
「そばに…いて欲しいんだ、君に・・・・・。離れるのは嫌だ・・・・・・。」
予想していた答えではなかったのだろうか。
光弘の言葉に、少年が心底驚いた様子で目を大きく開いた。
それから、幸せでたまらないという風に目を細め、切ない微笑みを見せた。
「僕もだよ・・・・・。手を・・・・・。」
光弘は、自分の中に湧き出してくる、この名前のない不思議な気持ちを持て余しながら、差し出された両手に、自分の手を重ねた。
少年は、ピクッと一瞬身体を震わせてから、光弘の手をそっとつかんだ。
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