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黒衣の少年
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久遠が時間を調整してくれたようで、俺たちが外に出たのは夕方の5時あたりのことだった。
たくさんの土産を持って家に帰ると、母さんが目を丸くして都古に礼を言った。
「こんなにたくさん!ありがとう。嬉しいわ。今度また、うちの野菜も持って行ってね。」
「母さん。俺たち、さっき都古の家で飯ごちそうになってきたばっかだから、今日は夕飯大丈夫だよ。風呂も入ってきた。」
「そうなの?なんだか、すっかりお世話になっちゃったみたいね。都古ちゃんありがとう。ご両親にもよくお礼を伝えておいてね。」
予想はしていたけど、癒は母さんたちには見えていないようだった。
羽のように軽やかに優雅に家の中を飛び回る癒に、俺はさっきまでのことが現実だったのだと実感していた。
帰った時、丁度父さんが庭で出荷の準備を始めていたので、俺たちはそのままスイカの積み荷作業を手伝った。
ベルトコンベアーにスイカの箱を載せ、トラックに次々積み込んでいく。
積み込みが終わると、日課となっている剣道の稽古をするため、俺たちは離れの建物に向かった。
曾祖父が使っていた離れの古民家は、父さんが友人の大工に頼んで改装してもらい、小さな剣道場となっていた。
いつも通り、稽古を始めた俺たちだったが、重い瞼が落ちてくるのをとても耐えることができなかった。
よく考えれば、いつもより6時間も長く起きているのだから、それも当然のことだ。
大分早めに稽古を切り上げた俺たちは、布団に入り、泥のように眠った。
************************************
真也と勝に挟まれ横になっている光弘の枕元で、癒は瞳を赤く光らせた。
光弘を中心に、空気が水面にできた波紋のように揺らいでいく。
邪魔者が入らぬよう領域を閉じると、癒は静かに目を閉じ、光弘の心の中へ降りて行った。
真っ白な世界に、黒衣の少年が舞い降りてきた時。
光弘は思わず笑顔になった。
まるで漆黒の天の遣いのような、美しいこの少年が、2度も自分を救ってくれたのだということを、光弘は確かな事として理解していた。
黒衣の少年は、羽のように軽く優雅に舞い降りると、腕組みし光弘へ怒ったような視線を送ってきた。
光弘は濡れた瞳で少年を見つめた。
「ごめん。せっかく君が助けてくれたのに、俺はまた・・・・。」
光弘が謝って目を伏せると、少年は片方の眉を少しだけ上げ、鼻からため息をつき、寂しそうな顔で首を横に振った。
「僕はそんなことでは怒らない。それに言ったでしょ。これは夢だって。」
そう返してきた少年に、光弘は困ったように微笑んだ。
白妙が言っていた。
夢であると主が理解している時、夢は主の思い通りのものとなる。
主の強い願いを叶えない夢は、つまり夢ではないのだと。
初めて少年とこの場所で出会った時、光弘はここが夢であるとわかった。
分かったから、光弘は試したのだ。
自分の願いがこの夢を動かすことができるかどうかを・・・・・。
だが、黒衣の少年が夢と言い張るこの世界は、光弘が強く強く何かを願っても、一切の綻びをみせることはなかった。
つまり、これは夢ではない。
少年は光弘に嘘をついているのだ。
そのことがわかっていたから、光弘は本当に困ってしまった。
困ってしまったけれど、このとても綺麗な顔をした少年の言っていることがおかしくて、ほんの少しだけ笑ってしまったのだ。
少年は、すねたように口を尖らせ、生意気そうな表情で光弘を横目でちらりとみた。
「何がおかしいの?」
「ごめん。君が夢と言い張るから、考えていたんだ。嘘に気づいていることを君に伝えるべきか・・・・それとも、このまま気づかないふりをするべきかを。」
光弘がそう言うと、少年はため息をついた。
「いつ、気づいたの?」
「君と、出会った時・・・・・。君が夢だと言ったから、本当かどうかあの時すぐに試してたんだ。」
光弘がそう言うと、少年はその姿に全くそぐわない大人びた眼差しで、何か考えを巡らせたようだった。
少年は諦めたのだろう。
大きく1つため息をつき、真剣な表情で光弘に向き合った。
「嘘をついて悪かった。けれど、今はここでしか僕の姿を現すことができない。それは本当だ。・・・・・・もう2度と、嘘はつかないよ。」
そう言って泣きそうな目をして肩を落とす少年に、光弘は笑いかけた。
「謝らないで。君は俺の恩人だ。」
光弘の言葉に、少年は一瞬傷ついた表情を見せたが、すぐに笑顔を返してきた。
たくさんの土産を持って家に帰ると、母さんが目を丸くして都古に礼を言った。
「こんなにたくさん!ありがとう。嬉しいわ。今度また、うちの野菜も持って行ってね。」
「母さん。俺たち、さっき都古の家で飯ごちそうになってきたばっかだから、今日は夕飯大丈夫だよ。風呂も入ってきた。」
「そうなの?なんだか、すっかりお世話になっちゃったみたいね。都古ちゃんありがとう。ご両親にもよくお礼を伝えておいてね。」
予想はしていたけど、癒は母さんたちには見えていないようだった。
羽のように軽やかに優雅に家の中を飛び回る癒に、俺はさっきまでのことが現実だったのだと実感していた。
帰った時、丁度父さんが庭で出荷の準備を始めていたので、俺たちはそのままスイカの積み荷作業を手伝った。
ベルトコンベアーにスイカの箱を載せ、トラックに次々積み込んでいく。
積み込みが終わると、日課となっている剣道の稽古をするため、俺たちは離れの建物に向かった。
曾祖父が使っていた離れの古民家は、父さんが友人の大工に頼んで改装してもらい、小さな剣道場となっていた。
いつも通り、稽古を始めた俺たちだったが、重い瞼が落ちてくるのをとても耐えることができなかった。
よく考えれば、いつもより6時間も長く起きているのだから、それも当然のことだ。
大分早めに稽古を切り上げた俺たちは、布団に入り、泥のように眠った。
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真也と勝に挟まれ横になっている光弘の枕元で、癒は瞳を赤く光らせた。
光弘を中心に、空気が水面にできた波紋のように揺らいでいく。
邪魔者が入らぬよう領域を閉じると、癒は静かに目を閉じ、光弘の心の中へ降りて行った。
真っ白な世界に、黒衣の少年が舞い降りてきた時。
光弘は思わず笑顔になった。
まるで漆黒の天の遣いのような、美しいこの少年が、2度も自分を救ってくれたのだということを、光弘は確かな事として理解していた。
黒衣の少年は、羽のように軽く優雅に舞い降りると、腕組みし光弘へ怒ったような視線を送ってきた。
光弘は濡れた瞳で少年を見つめた。
「ごめん。せっかく君が助けてくれたのに、俺はまた・・・・。」
光弘が謝って目を伏せると、少年は片方の眉を少しだけ上げ、鼻からため息をつき、寂しそうな顔で首を横に振った。
「僕はそんなことでは怒らない。それに言ったでしょ。これは夢だって。」
そう返してきた少年に、光弘は困ったように微笑んだ。
白妙が言っていた。
夢であると主が理解している時、夢は主の思い通りのものとなる。
主の強い願いを叶えない夢は、つまり夢ではないのだと。
初めて少年とこの場所で出会った時、光弘はここが夢であるとわかった。
分かったから、光弘は試したのだ。
自分の願いがこの夢を動かすことができるかどうかを・・・・・。
だが、黒衣の少年が夢と言い張るこの世界は、光弘が強く強く何かを願っても、一切の綻びをみせることはなかった。
つまり、これは夢ではない。
少年は光弘に嘘をついているのだ。
そのことがわかっていたから、光弘は本当に困ってしまった。
困ってしまったけれど、このとても綺麗な顔をした少年の言っていることがおかしくて、ほんの少しだけ笑ってしまったのだ。
少年は、すねたように口を尖らせ、生意気そうな表情で光弘を横目でちらりとみた。
「何がおかしいの?」
「ごめん。君が夢と言い張るから、考えていたんだ。嘘に気づいていることを君に伝えるべきか・・・・それとも、このまま気づかないふりをするべきかを。」
光弘がそう言うと、少年はため息をついた。
「いつ、気づいたの?」
「君と、出会った時・・・・・。君が夢だと言ったから、本当かどうかあの時すぐに試してたんだ。」
光弘がそう言うと、少年はその姿に全くそぐわない大人びた眼差しで、何か考えを巡らせたようだった。
少年は諦めたのだろう。
大きく1つため息をつき、真剣な表情で光弘に向き合った。
「嘘をついて悪かった。けれど、今はここでしか僕の姿を現すことができない。それは本当だ。・・・・・・もう2度と、嘘はつかないよ。」
そう言って泣きそうな目をして肩を落とす少年に、光弘は笑いかけた。
「謝らないで。君は俺の恩人だ。」
光弘の言葉に、少年は一瞬傷ついた表情を見せたが、すぐに笑顔を返してきた。
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