85 / 324
癒 5
しおりを挟む
光弘や真也たちと共に屋台を巡りながら、癒は九泉の行方を探っていた。
都古であれば或いはなにか掴んでいるかとも思ったが、全くその様子はない。
都古のどこかに宵闇に繋がる綻びや、九泉の存在に繋がる気配を見いだせないかと思ったが、手がかりをみつけることはできなかった。
九泉の生存に関する糸口が見つからず焦りを覚えながら、癒は、光弘の能力があまりに不安定であることにも気をもんでいた。
命逢という特殊な場所が関係し、光弘が少し声を発するだけでもかなりの影響を周囲に撒いてしまっているのだ。
白妙はいち早くそれに気づき、彼らが気兼ねなく話せるよう、気を利かせ神妖の少ない上空にあえて彼らをに浮かせるなど、フォローしてくれていた。
上空であれば光弘も多少話せるようにはなったが、この人は高所への恐怖を異常なほど強く感じるのだ。
本当ならば自分が支えとなり守りたかったが、この小さな体では抱きしめることなどかなわない。
勝が光弘を力強く守ってくれているのを、癒は頼もしく思い、同時に寂しさと胸が焼けるような苦しさに苛まれた。
エビ釣りの店では、勝を救うためとっさに光弘が力を使った。
この時も、ギリギリのところまで手を出さずに見守っていた癒は、光弘の使った強すぎる力にピクリと反応した。
まずいな・・・・・。
勝を襲ったサメは、赤黒い光を帯びていた。
恐らく何者かに操られているのだろう。
そのことは癒にとって、全く興味のないことだったため、記憶の片隅に残すにとどめただけだった。
だが、サメの生命に関してはそうはいかない。
光弘はとっさに言霊を撃ったため、全く力の制御ができていなかったのだ。
勝を守りたいという強烈な想いが、真っ直ぐにサメに撃ち込まれてしまったのだ。
そのままにしては、相手の命を確実に奪うことになる。
『やめろ』という言霊が、呪いのようにサメの全身の細胞に連鎖し、全ての生命維持機能が活動を止めようとしていた。
ちっ・・・・・。
癒は心の中で舌打ちした。
サメが死ぬことなど、自分にとってはどうでもいいことだ。
だが、もしそうなれば、この人はひたすらに自分を攻め続けるのだろう。
身体を痙攣させ、のたうちまわるサメを見つめると、癒はそこに注がれた言霊の能力を密に全て打ち消しのみこんだ。
瞳が紅く、鋭く輝く。
回復まではしない。
術の解除だけすれば十分だろう。
術から解放されたサメは、ゆっくりと海の底へもぐって行った。
癒はそしらぬふりで、光弘の肩の上で身をよせた。
自分が傍にあることを、この人はどの人生においても、一度も望むことはなかった。
この人は自分がかかわることを嬉しくは思ってくれないのだ。
だから癒は、あらゆる意味で光弘の妨げにならないよう、やりすぎてしまわないよう、自分の存在が暴かれることのないよう、ひっそりと見守ってきたのだ。
2年前に光弘を苦しめていたあの子供たち。
癒の本心で言えば、彼らなど鬼界の妖鬼どもの群れに投げ込み、八つ裂きにしてやってもまだ足りないほどだ。
だが、この人は、自分にかかわる者は善悪にかかわらず、全て自分の力をつくすべき相手だと考えている。
自分自身がそんな彼に救われた張本人であるからこそ、癒は自分の力を光弘の想いに対して従順に、彼の妨げにならないよう徹底して行使するようにしていた。
光弘は共に過ごすようになった、この真也たち3人のことを心から信頼しているようだった。
そのことに少しやきもちをやきながら、癒は不思議な感覚を3人に感じていた。
どこかであったような気がしてならない。
そのことに考えをめぐらせていると、すぐ近くに社とたまよりの気配を感じた。
2人に案内された大樹の上で、癒は失くしていた緑想石を目にし思わず固まった。
この石の存在を知っているのは、自分とこの石を作った本人だけである。
緑想石は、癒の記憶を渡らせる力を込められた石である。
圧倒的な力をもつ妖鬼である癒といえど、転生後の記憶を自分の力だけで完全にとどめおくのは限りがあった。
そこで癒は、この石の創製者と共に緑想石に自らの記憶と知識を預け、転生する際は必ず傍らにあるよう、強力な術を施したのだ。
役目としては、癒が転生し記憶の確認を終えた時点で果たされてはいたが、かといってこの石が誰かの手に渡るのは問題だった。
下手に力のある神妖が手にすれば自分の正体を晒すことになるのだ。
本来、転生後の肉体に耳飾りとしてしっかりはめこまれているはずのその石がなくなっていることに、実は癒自身気づいていなかった。
癒は情けなく思いながら、その石が光弘の手に渡るのをじっと見つめた。
都古であれば或いはなにか掴んでいるかとも思ったが、全くその様子はない。
都古のどこかに宵闇に繋がる綻びや、九泉の存在に繋がる気配を見いだせないかと思ったが、手がかりをみつけることはできなかった。
九泉の生存に関する糸口が見つからず焦りを覚えながら、癒は、光弘の能力があまりに不安定であることにも気をもんでいた。
命逢という特殊な場所が関係し、光弘が少し声を発するだけでもかなりの影響を周囲に撒いてしまっているのだ。
白妙はいち早くそれに気づき、彼らが気兼ねなく話せるよう、気を利かせ神妖の少ない上空にあえて彼らをに浮かせるなど、フォローしてくれていた。
上空であれば光弘も多少話せるようにはなったが、この人は高所への恐怖を異常なほど強く感じるのだ。
本当ならば自分が支えとなり守りたかったが、この小さな体では抱きしめることなどかなわない。
勝が光弘を力強く守ってくれているのを、癒は頼もしく思い、同時に寂しさと胸が焼けるような苦しさに苛まれた。
エビ釣りの店では、勝を救うためとっさに光弘が力を使った。
この時も、ギリギリのところまで手を出さずに見守っていた癒は、光弘の使った強すぎる力にピクリと反応した。
まずいな・・・・・。
勝を襲ったサメは、赤黒い光を帯びていた。
恐らく何者かに操られているのだろう。
そのことは癒にとって、全く興味のないことだったため、記憶の片隅に残すにとどめただけだった。
だが、サメの生命に関してはそうはいかない。
光弘はとっさに言霊を撃ったため、全く力の制御ができていなかったのだ。
勝を守りたいという強烈な想いが、真っ直ぐにサメに撃ち込まれてしまったのだ。
そのままにしては、相手の命を確実に奪うことになる。
『やめろ』という言霊が、呪いのようにサメの全身の細胞に連鎖し、全ての生命維持機能が活動を止めようとしていた。
ちっ・・・・・。
癒は心の中で舌打ちした。
サメが死ぬことなど、自分にとってはどうでもいいことだ。
だが、もしそうなれば、この人はひたすらに自分を攻め続けるのだろう。
身体を痙攣させ、のたうちまわるサメを見つめると、癒はそこに注がれた言霊の能力を密に全て打ち消しのみこんだ。
瞳が紅く、鋭く輝く。
回復まではしない。
術の解除だけすれば十分だろう。
術から解放されたサメは、ゆっくりと海の底へもぐって行った。
癒はそしらぬふりで、光弘の肩の上で身をよせた。
自分が傍にあることを、この人はどの人生においても、一度も望むことはなかった。
この人は自分がかかわることを嬉しくは思ってくれないのだ。
だから癒は、あらゆる意味で光弘の妨げにならないよう、やりすぎてしまわないよう、自分の存在が暴かれることのないよう、ひっそりと見守ってきたのだ。
2年前に光弘を苦しめていたあの子供たち。
癒の本心で言えば、彼らなど鬼界の妖鬼どもの群れに投げ込み、八つ裂きにしてやってもまだ足りないほどだ。
だが、この人は、自分にかかわる者は善悪にかかわらず、全て自分の力をつくすべき相手だと考えている。
自分自身がそんな彼に救われた張本人であるからこそ、癒は自分の力を光弘の想いに対して従順に、彼の妨げにならないよう徹底して行使するようにしていた。
光弘は共に過ごすようになった、この真也たち3人のことを心から信頼しているようだった。
そのことに少しやきもちをやきながら、癒は不思議な感覚を3人に感じていた。
どこかであったような気がしてならない。
そのことに考えをめぐらせていると、すぐ近くに社とたまよりの気配を感じた。
2人に案内された大樹の上で、癒は失くしていた緑想石を目にし思わず固まった。
この石の存在を知っているのは、自分とこの石を作った本人だけである。
緑想石は、癒の記憶を渡らせる力を込められた石である。
圧倒的な力をもつ妖鬼である癒といえど、転生後の記憶を自分の力だけで完全にとどめおくのは限りがあった。
そこで癒は、この石の創製者と共に緑想石に自らの記憶と知識を預け、転生する際は必ず傍らにあるよう、強力な術を施したのだ。
役目としては、癒が転生し記憶の確認を終えた時点で果たされてはいたが、かといってこの石が誰かの手に渡るのは問題だった。
下手に力のある神妖が手にすれば自分の正体を晒すことになるのだ。
本来、転生後の肉体に耳飾りとしてしっかりはめこまれているはずのその石がなくなっていることに、実は癒自身気づいていなかった。
癒は情けなく思いながら、その石が光弘の手に渡るのをじっと見つめた。
0
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
【完結】生贄になった婚約者と間に合わなかった王子
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
フィーは第二王子レイフの婚約者である。
しかし、仲が良かったのも今は昔。
レイフはフィーとのお茶会をすっぽかすようになり、夜会にエスコートしてくれたのはデビューの時だけだった。
いつしか、レイフはフィーに嫌われていると噂がながれるようになった。
それでも、フィーは信じていた。
レイフは魔法の研究に熱心なだけだと。
しかし、ある夜会で研究室の同僚をエスコートしている姿を見てこころが折れてしまう。
そして、フィーは国守樹の乙女になることを決意する。
国守樹の乙女、それは樹に喰らわれる生贄だった。
貴方の事を愛していました
ハルン
恋愛
幼い頃から側に居る少し年上の彼が大好きだった。
家の繋がりの為だとしても、婚約した時は部屋に戻ってから一人で泣いてしまう程に嬉しかった。
彼は、婚約者として私を大切にしてくれた。
毎週のお茶会も
誕生日以外のプレゼントも
成人してからのパーティーのエスコートも
私をとても大切にしてくれている。
ーーけれど。
大切だからといって、愛しているとは限らない。
いつからだろう。
彼の視線の先に、一人の綺麗な女性の姿がある事に気が付いたのは。
誠実な彼は、この家同士の婚約の意味をきちんと理解している。だから、その女性と二人きりになる事も噂になる様な事は絶対にしなかった。
このままいけば、数ヶ月後には私達は結婚する。
ーーけれど、本当にそれでいいの?
だから私は決めたのだ。
「貴方の事を愛してました」
貴方を忘れる事を。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる