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癒 4
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自分の名を呼ぶ声に、癒はゆっくりと目を開き、眩しさに細めた。
声の主を見つめた癒は、その後ろにたたずむ1人の人物に目をとめ、包み込まれるような切なさに身を震わせた。
瞳に映るその姿は、間違いなくここに存在しているものなのだと確かめたくて駆け寄ろうとするが、鼓動が高鳴りに胸が震え上手く歩くことができない。
血に濡れた身体をためらうことなく抱き上げてくれた最愛の人の手の中で、癒は身体から力を抜いた。
この人は何も変わらないのだな。
自分がいなくなった後、光弘がどんな目にあっていたのか、癒は知っていた。
どんなに苦しめられ、心を何度となく踏みにじられても、この人はその途方もない優しさを捨てることができない・・・・・。
光弘の手に包まれ、癒は泣きたい気持ちで目を閉じた。
そんな癒の行動が、光弘を慌てさせてしまったようだ。
癒が気を失ったと勘違いした光弘は、顔を青くして周囲に助けを求めている。
会ったばかりの自分を心から思いやってくれる光弘の様子に嬉しさとくすぐったさを感じながら、癒は心の中でやわらかく微笑んだ。
光弘と共にあったころの自分が、彼の慌てる様子をこんな風に笑って見ていたら、「意地悪だ。」といって口を尖らせたのだろうな。
そう思い、苦い笑みを浮かべ切なく息を吐く。
癒は、自らが正気を失ってつけた傷をあえて治さずに晒していた。
これを自らが招いた失態を隠すための苦肉の策としてあてるつもりなのだ。
白妙が常に、自分に対して疑りの目を向けている。
命逢の大樹にこれだけの傷を与えておいて、幼い自分が無傷では取り繕いようがなくなってしまうのだ。
幼少の神妖でも、強力な力をもつ者がまれにいる。
もはや手遅れの感は否めないが、そういった存在になりすますことで、白妙の警戒を少しでも解いておきたかった。
癒は弱ったふうを装い、光弘の治療を受けることにした。
だが、このことが癒を想いもよらない意外な形で、窮地に追い込んだ。
傷を治療するため光弘の手が優しく癒に触れた。
その時・・・・・。
傷がふさがらないよう無防備に全ての能力を解いていた傷口から、癒の全身に痺れるような強烈な感覚が駆け巡った。
ふいに与えられた甘やかな痺れと熱の奔流に、身体が激しく疼く。
「っ・・・・!」
癒は危ういところでどうにか声を押し殺し、身を震わせた。
そんな自分を心配し、光弘がためらいがちに、だが、いたわる様にそっと撫でてくる。
癒は、光弘の能力の中に、魂に触れることで術をなすものがある事を思い起していた。
恐ろしいことにその能力の一端を、光弘は無意識のうちに発動させてしまっているようなのだ。
それは光弘が心底癒を気遣い、思いやってくれている証と言えた。
だが、触れるのをためらうほどに焦がれる相手から、無防備な裸の魂を不意に抱きしめられた癒の動揺は、計り知れないものだった。
触れられている場所から、ひたすらに降り注がれる甘い熱と慈愛に酔いしれ、気が狂いそうになる。
出会った時からずっと、たった独り抱きしめ秘め続けている大切な想いが溢れ出しそうになるのを、癒は必死で抑え込んだ。
今すぐに本性の姿に戻って、全てを打ち明け触れてしまいたい・・・という激しい衝動が、くり返し癒を襲う。
どうしてよいか分からず、癒はうつむき身体を丸めた。
甘い疼きに身体を震わせ、息を殺して甘美な誘惑にじっと耐える。
ようやく自分を撫でる温かな手が、その動きを止めた。
癒はうるんだ瞳で光弘の目を切なく見つめた。
地に堕ちた自分の姿を見られたくないと願いながら、本性の姿で視線を交わしたい・・・・直接触れたいという強烈な想いが、どうしようもなくこみあげてくるのが辛かった。
身体に残る熱を逃がしながら、癒はそんな自分の表情を光弘に見られなかったことに胸をなでおろす。
身体を取り巻く術の全てを元へ戻すと、自分から恐る恐る光弘へすり寄ってみた。
触れるたびに動揺していては、話にならないのだ。
それにしても・・・・と、癒は不思議に思った。
直接魂に触れられたにしても、光弘から流れ込んできた力はあまりにも強すぎるように感じた。
無意識で発動したのであれば、想いの強さのまま力の制御はできないはず。
なぜ、初めて会った自分に、光弘はこのような慕情にも似た激しい想いを注いできたのだろう。
そんな考えを巡らせ、光弘の手の中で心を慣らし、鼓動を落ち着かせていた癒だったが、久遠と光弘のやり取りに耳をピクリとそば立てた。
「それは・・・・・こいつを俺に縛り付け、一生俺を守らせるっていうことですか。」
光弘の冷たい声音と強い信念を感じさせる言葉に、癒の心を哀しみがふさいでいく。
あなたはいつもそうだ・・・・・。
私の命など好きに使っていいのに。
何度巡り逢っても、いつも私は手放される。
私はいつだって、あなたに全てをあげるのに。
あなたはいつも、私を残していってしまうのだ。
慈しみ抱きしめておきながら、自分を手放そうとするこの優しさは、癒の心を狂おしくしめつけ、どこまでも孤独にさせていた。
声の主を見つめた癒は、その後ろにたたずむ1人の人物に目をとめ、包み込まれるような切なさに身を震わせた。
瞳に映るその姿は、間違いなくここに存在しているものなのだと確かめたくて駆け寄ろうとするが、鼓動が高鳴りに胸が震え上手く歩くことができない。
血に濡れた身体をためらうことなく抱き上げてくれた最愛の人の手の中で、癒は身体から力を抜いた。
この人は何も変わらないのだな。
自分がいなくなった後、光弘がどんな目にあっていたのか、癒は知っていた。
どんなに苦しめられ、心を何度となく踏みにじられても、この人はその途方もない優しさを捨てることができない・・・・・。
光弘の手に包まれ、癒は泣きたい気持ちで目を閉じた。
そんな癒の行動が、光弘を慌てさせてしまったようだ。
癒が気を失ったと勘違いした光弘は、顔を青くして周囲に助けを求めている。
会ったばかりの自分を心から思いやってくれる光弘の様子に嬉しさとくすぐったさを感じながら、癒は心の中でやわらかく微笑んだ。
光弘と共にあったころの自分が、彼の慌てる様子をこんな風に笑って見ていたら、「意地悪だ。」といって口を尖らせたのだろうな。
そう思い、苦い笑みを浮かべ切なく息を吐く。
癒は、自らが正気を失ってつけた傷をあえて治さずに晒していた。
これを自らが招いた失態を隠すための苦肉の策としてあてるつもりなのだ。
白妙が常に、自分に対して疑りの目を向けている。
命逢の大樹にこれだけの傷を与えておいて、幼い自分が無傷では取り繕いようがなくなってしまうのだ。
幼少の神妖でも、強力な力をもつ者がまれにいる。
もはや手遅れの感は否めないが、そういった存在になりすますことで、白妙の警戒を少しでも解いておきたかった。
癒は弱ったふうを装い、光弘の治療を受けることにした。
だが、このことが癒を想いもよらない意外な形で、窮地に追い込んだ。
傷を治療するため光弘の手が優しく癒に触れた。
その時・・・・・。
傷がふさがらないよう無防備に全ての能力を解いていた傷口から、癒の全身に痺れるような強烈な感覚が駆け巡った。
ふいに与えられた甘やかな痺れと熱の奔流に、身体が激しく疼く。
「っ・・・・!」
癒は危ういところでどうにか声を押し殺し、身を震わせた。
そんな自分を心配し、光弘がためらいがちに、だが、いたわる様にそっと撫でてくる。
癒は、光弘の能力の中に、魂に触れることで術をなすものがある事を思い起していた。
恐ろしいことにその能力の一端を、光弘は無意識のうちに発動させてしまっているようなのだ。
それは光弘が心底癒を気遣い、思いやってくれている証と言えた。
だが、触れるのをためらうほどに焦がれる相手から、無防備な裸の魂を不意に抱きしめられた癒の動揺は、計り知れないものだった。
触れられている場所から、ひたすらに降り注がれる甘い熱と慈愛に酔いしれ、気が狂いそうになる。
出会った時からずっと、たった独り抱きしめ秘め続けている大切な想いが溢れ出しそうになるのを、癒は必死で抑え込んだ。
今すぐに本性の姿に戻って、全てを打ち明け触れてしまいたい・・・という激しい衝動が、くり返し癒を襲う。
どうしてよいか分からず、癒はうつむき身体を丸めた。
甘い疼きに身体を震わせ、息を殺して甘美な誘惑にじっと耐える。
ようやく自分を撫でる温かな手が、その動きを止めた。
癒はうるんだ瞳で光弘の目を切なく見つめた。
地に堕ちた自分の姿を見られたくないと願いながら、本性の姿で視線を交わしたい・・・・直接触れたいという強烈な想いが、どうしようもなくこみあげてくるのが辛かった。
身体に残る熱を逃がしながら、癒はそんな自分の表情を光弘に見られなかったことに胸をなでおろす。
身体を取り巻く術の全てを元へ戻すと、自分から恐る恐る光弘へすり寄ってみた。
触れるたびに動揺していては、話にならないのだ。
それにしても・・・・と、癒は不思議に思った。
直接魂に触れられたにしても、光弘から流れ込んできた力はあまりにも強すぎるように感じた。
無意識で発動したのであれば、想いの強さのまま力の制御はできないはず。
なぜ、初めて会った自分に、光弘はこのような慕情にも似た激しい想いを注いできたのだろう。
そんな考えを巡らせ、光弘の手の中で心を慣らし、鼓動を落ち着かせていた癒だったが、久遠と光弘のやり取りに耳をピクリとそば立てた。
「それは・・・・・こいつを俺に縛り付け、一生俺を守らせるっていうことですか。」
光弘の冷たい声音と強い信念を感じさせる言葉に、癒の心を哀しみがふさいでいく。
あなたはいつもそうだ・・・・・。
私の命など好きに使っていいのに。
何度巡り逢っても、いつも私は手放される。
私はいつだって、あなたに全てをあげるのに。
あなたはいつも、私を残していってしまうのだ。
慈しみ抱きしめておきながら、自分を手放そうとするこの優しさは、癒の心を狂おしくしめつけ、どこまでも孤独にさせていた。
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