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船 1
しおりを挟む再び屋台通りへと戻った俺たちは、様々な珍味を巡ったり、ゲームの屋台へ入ったりと、渡り歩いていた。
光弘の肩の上で、癒が大きなあくびをするのを見た俺は、どこかで休もうと、勝と都古へ声をかけることにした。
「おーい。そろそろ一回休憩しないか。癒、眠くなっちゃってるみたいだしさ。」
「だな。んじゃ、そこの串焼きもらって、休憩がてら湖のとこで食おうぜ。」
「勝。たまにはいいこと言えるんじゃないか。私も賛成だ。」
「そういうこと言う口は、どの口だーっ!都古ーっ!」
そんなことを言いながら、いつもの調子で都古と勝がふざけている間に、光弘が身振り手振りで猪肉の串焼きを人数分もらってきてくれた。
俺たちは、今度は歩かずに全員祓を使い、湖のほとりへと移動した。
「鹿もうまかったけど、これもめちゃ美味いなぁ。」
「ほんとだな。」
岩に腰掛け、湖の澄んだ水の中に足をひたし、みんなで猪肉の串焼きをむしゃむしゃとほおばっていると、突然、都古が何かに気づいたように顔を上げた。
「誰だかわからんが、そんなところから張られていたのでは居心地が悪い。出てこい。」
「え・・・・・?」
俺たちが振り向くと、茂みの影から和服姿の男の神妖が2人出てきた。
「社・・・に、たまよりじゃないか。」
「さすが都古ですね。やはりすぐにバレてしまいましたか。」
「やーね。都古ったら、せっかくドラマチックな登場をして驚かせようと思ってたのに。見つけちゃうなんてひどいじゃない。」
あっけにとられている俺の横で、都古が意外そうな声を上げた。
それにしても、神妖はどうしてこうも美形ばかりなんだろうか。
社と呼ばれた緑色の服を着て穏やかな笑みを浮かべる神妖も、たまよりと呼ばれた白い服を妖しく着崩し女性のような言葉遣いで話している神妖も、同じ男のおれでさえ惚れ惚れするくらいのいい男だった。
「初めまして、都古のお友達さん。私はたまより。こっちは社よ。白妙から、あなた達が執護の卵として役を受けることになったと聞いて、挨拶にきたの。」
「私たちで力になれることがあれば、いつでも呼んでくれて構いません。彼呼迷軌をよろしく頼みます。」
「ありがとうございます。俺は、渡邉真也。こっちの2人は、香坂勝と、川名光弘です。こちらこそよろしくお願いします。」
突然、美形2人に頭を下げられ、俺たちは面食らいつつ挨拶を返した。
「私たちは、命逢の大樹を守る役目をもつ者なのです。良かったら、私たちと少し散歩をしませんか。」
社の提案に俺たちがうなずくと、たまよりがたもとから親指の大きさくらいの白い繭を取り出した。
筆で何か文字が書かれている。
「抜け。」
そう言って、たまよりが繭に書かれた文字を人差し指でひと撫ですると、繭がぼんやりと光り指先と繋がるように引き抜かれた光の糸が宙を舞った。
糸は、たまよりの指し示す方へと漂い、ふわりと地面に降りていく。
地面と触れた糸は次の瞬間、絨毯のように巨大な一枚の葉へと姿を変えた。
「さ、船を出したわ。遠慮しないで乗ってちょうだいな。」
船って言ったけど、湖じゃなくて地面に用意したってことは・・・・もしかして・・・・・。
俺は嫌な予感がして、光弘を振り返った。
勘のいい光弘はすでに覚悟を決めたのか、青白い顔で「大丈夫」という風に苦笑いしてこちらを見返しうなずいてくる。
その決意に水を差すのがためらわれて、俺はせめてものことと、葉の中央に光弘を座らせた。
光弘の肩に乗っている癒が、心配そうに頬に頭をすり寄せている。
俺は光弘の隣に腰掛け、自分の手の上に光弘の手を重ねさせ上からキュッと握りしめた。
「本当に無理そうだったら、強く握るんだ。思いっきりひっかいてくれたって構わない。そしたら俺、すぐに降ろしてくれるように伝えるから。・・・・本気の我慢は、今は無しだ。」
耳元に口を寄せ、小声でそう伝えると、光弘は微笑んでから俺の肩に自分の頭をトスンとぶつけてきた。
勝と都古も勘づいたらしく、2人とも光弘を囲むようにさりげなく腰掛ける。
「では、行きますよ。・・・・・・浮け。」
社が葉先に立つと、俺たちを乗せた巨大な葉は、俺の嫌な予感通り、静かに空へと昇り始めた。
光弘の手にピクリと力が入る。
「目・・・・・閉じてろよ。大丈夫そうな場所についたら教えてやるから。」
勝の言葉に、光弘は小さくうなずき目を閉じた。
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